水泳のレースや普段の練習で、「平泳ぎのスタートだけ、みんなより遅れてしまう」「浮き上がってくるころには息が苦しい」と感じたことはありませんか?平泳ぎは他の泳ぎ方と違い、スタート直後に水中で行う動作が非常に多く、そこでの技術がタイムや疲れ具合に大きく影響します。
特に「ひとがきひとけり」と呼ばれる独特の動きをマスターすることで、驚くほど楽に、そして速く進むことができるようになります。この記事では、初心者の方でもわかりやすいように、平泳ぎのスタートの基本から、遠くへ伸びるためのコツを丁寧に解説していきます。
平泳ぎのスタートで知っておきたい基本ルールと流れ

平泳ぎのスタートは、飛び込んでから泳ぎ出すまでの距離が最も長い種目です。まずは、どのような手順で水中の動作が行われるのか、基本的な流れと守るべきルールについて整理しておきましょう。ここを理解するだけで、焦らずにスタートできるようになります。
スタート台から飛び込むまでの構えと合図
スタートの基本は、構えの姿勢から始まります。合図があったら台の先端に足の指をかけ、合図とともに飛び出します。このとき、単に前に倒れ込むのではなく、足の指で台をしっかりと蹴り出し、遠くへ飛ぶイメージを持つことが大切です。初心者の方は無理に遠くへ飛ぼうとしてバランスを崩すと危険ですので、まずは「水面に対して一点に入水する」ことを目標にしましょう。きれいに一点に入水できると、その後の加速がスムーズになります。
空中姿勢と入水の角度で抵抗を減らす
飛び出した後の空中姿勢も重要です。指先から足先までが一本の棒になるように体をピンと伸ばします。これをストリームラインと呼びますが、空中でこの形が作れていると、入水時の衝撃が少なく、水の抵抗を最小限に抑えられます。入水の角度は、深すぎず浅すぎない角度を目指しますが、平泳ぎの場合はこのあと水中で長く進むため、クロールよりはやや深めに入ると動作がしやすくなります。理想的には、指先が入ったその一点に、頭、腰、足が吸い込まれるように入っていくイメージです。
平泳ぎ特有の水中動作「ひとがきひとけり」とは
ここが平泳ぎの最大の特徴です。他の種目は入水後すぐにバタ足やドルフィンキックで浮き上がりますが、平泳ぎだけは水中で大きく一度手で水をかき(ひとがき)、一度足でキックを打つ(ひとけり)動作が認められています。これを「ひとがきひとけり」、または専門用語で「プルアウト」と呼びます。この動作を正しく行うことで、泳ぐ動作を一度もしないまま、10メートル以上も進むことが可能になります。まさに「魔法の時間」とも言える重要なパートです。
浮き上がりまでの距離制限とルール
いくら水中で進むのが速くても、ずっと潜っていて良いわけではありません。ルールでは、スタート(およびターン)の壁から15メートル地点までに、頭が水面から出ていなければならないと決まっています。これを「15メートルルール」と呼びます。また、水中での動作の順番も決まっており、ドルフィンキックは「ひとがき」の前であれば1回だけ打つことが許されています。これらのルールを守りながら、いかに効率よくギリギリまで進めるかが勝負の分かれ目になります。
スタート後の入水からストリームラインを作る重要性

水の中に入った直後の姿勢は、その後のスピードを維持するために最も重要な要素です。どんなに力強いキック力を持っていても、姿勢が悪ければ水の抵抗を受けてすぐに止まってしまいます。ここでは、入水直後の「けのび」の状態を極めるポイントを解説します。
抵抗を極限まで減らすけのびの姿勢
入水したら、まずは慌てて動かずに「けのび」の姿勢をキープします。両手を重ねて耳の後ろで組み、腕で頭を挟み込むようにして一直線になります。このとき、背中が反りすぎたり、逆にお腹が落ちて「くの字」になったりしないよう、お腹と背中に適度な力を入れて体幹を安定させましょう。指先から足先までが針のように鋭くなるイメージを持つと、水の抵抗を切り裂いて進むことができます。
視線を定めて姿勢を安定させる
姿勢を良くするために大切なのが「視線」です。進行方向が気になって前を見てしまうと、顎が上がり、頭が腕よりも高い位置に出てしまいます。こうなると胸やお腹に水が当たり、大きなブレーキになってしまいます。入水直後は、視線を真下、プールの底に向けるようにしましょう。顎を軽く引き、後頭部が背中のラインと平らになるように意識するだけで、ストリームラインの完成度はぐっと高まります。
スピードを殺さないための深さ調整
平泳ぎのスタート後の潜行深度は、他の種目よりも少し深めが良いとされています。水面近くだと波の抵抗を受けやすいですし、この後に行う大きな腕の動作(プル)をした際に、体が浮きすぎて水面に出てしまうのを防ぐためです。しかし、深すぎても浮き上がるまでに息が続かなくなってしまいます。目安としては、水面下50センチから80センチくらいの深さをキープして進むのが理想的です。自分の感覚と実際の深さを練習で合わせていきましょう。
平泳ぎの水中動作「一掻き一蹴り」を極めるテクニック

ここからは、平泳ぎのスタートの核心部分である「一掻き一蹴り(プルアウト)」の具体的な技術について詳しく見ていきます。この一連の動作を一つひとつ丁寧に、かつ流れるように行うことが、楽に速く泳ぐための秘訣です。
推進力をプラスするドルフィンキックのタイミング
現在のルールでは、一掻き一蹴りの動作の中で、1回だけドルフィンキックを打つことが認められています。このキックを入れることで、初速を維持しやすくなります。タイミングとしては、入水して「けのび」のスピードが少し落ち始めたかな、と感じた瞬間がベストです。また、次に説明する「手の動作(プル)」を始める直前、あるいは手を開き始める瞬間に合わせてポンと強く蹴ると、手と足の連動で強い推進力が生まれます。
パワーを生み出すプル動作の軌道
ドルフィンキックのあと、両手で水を後ろへかきます。この動作は、通常のクロールや平泳ぎのストロークとは違い、太ももの横まで一気に水を押し切ります。手のひらを外側に向けて水をキャッチし、胸の前あたりで加速させながら、最後は太ももにタッチするまで強く押します。このとき、ひじを曲げて「鍵穴」のような形を描くように水を抱え込むと、より多くの水を後ろへ送ることができます。
抵抗を最小限にする第2のけのび
手を太ももまでかききったら、そこですぐに次の動作に移ってはいけません。ここで一瞬、「気をつけ」の姿勢で滑る時間を作ります。これを「第2のけのび」と呼びます。強いプル動作によって生まれた推進力を余すことなく利用するためです。肩をすくめて首を長くし、体全体を細くして水の中を滑っていきます。スピードを感じている間はこの姿勢を保ちましょう。
水の抵抗を避ける手の戻し方
スピードが落ちてきたら、太ももにある手を再び頭の前へ戻します(リカバリー)。この動作が最も抵抗を受けやすいので注意が必要です。手は体から離さず、お腹や胸を撫でるようにして、できるだけコンパクトに体の中心を通します。手のひらを上に向けたり、手を合わせたりして「拝む」ような形で前に突き出すとスムーズです。ひじも体から離れないように脇を締めて行いましょう。
推進力を最大化するキックと浮き上がり
手が顔の前を通過し、頭の上に伸びきるタイミングに合わせて、平泳ぎのキックを一回打ちます。このキックの勢いを使って水面へと浮き上がります。ここで大切なのは、手が完全に伸びきってストリームラインが作られてからキックを蹴り終わることです。手が伸びていない状態でキックをすると、水の抵抗を受けてブレーキがかかってしまいます。「手を戻す→手が伸びる→キック」というリズムを体に覚え込ませましょう。
スムーズな浮き上がりを実現するタイミングの取り方

水中動作が完璧でも、水面に出てくるタイミングを間違えると、せっかくのスピードが台無しになってしまいます。ここでは、水中から実際の泳ぎへと移行する「ブレイクアウト」のコツを解説します。
減速を感じる前に動作を切り替える
水中動作の各フェーズ(けのび、プル後の滑り、リカバリー)では、完全に止まってしまうまで待ってはいけません。「止まった」と感じてから次の動きを始めると、再び動き出すのに大きなエネルギーが必要になります。「スピードが少し落ちてきたな」と感じる少し手前で、次の動作へ移るのがコツです。流れるように動作をつなぐことで、平均速度を高く保つことができます。
水面へ上がるための角度と視線
最後のキックを打って浮き上がるとき、急激に頭を上げて水面に出ようとすると体が立ち、大きな抵抗になります。自然な浮力とキックの勢いを使って、斜め前方へ滑らかに上がっていくのが理想です。視線はまだ前を見すぎず、やや斜め下を見たまま、後頭部から背中にかけて水面に近づいていく感覚を持ちましょう。
最初のひとかき目へつなげるコツ
頭が水面に出ると同時に、平泳ぎの最初のストローク(ひとかき目)を開始します。このタイミングが遅れると、顔だけ水面に出て体は沈んでしまい、泳ぎ出しが重くなります。逆に早すぎると、空気を吸う前に水を飲んでしまうことがあります。「頭が水面を割る瞬間」と「手が水をかき始める瞬間」を一致させる練習を行いましょう。これが合うと、1ストローク目からスムーズに乗ることができます。
メモ: 15メートルラインを超えないように注意が必要ですが、初心者のうちは息が苦しくなる前に早めに上がってくる方が、リズムよく泳ぎ続けられます。
スタートがうまくいかない時の原因と改善練習法

頭では分かっていても、実際にやってみるとうまくいかないことも多いものです。よくある失敗のパターンと、それを解決するための具体的な対策や練習方法を紹介します。
ゴーグルが外れてしまう時の対処法
飛び込みの瞬間にゴーグルが外れて水が入ってしまうと、パニックになりスタートどころではありません。これは、入水の衝撃を顔面で直接受けてしまっていることが原因です。解決策としては、顎をしっかり引いて、腕で頭を挟むストリームラインを徹底することです。腕が顔より前にあることで、水が顔に当たる前に腕が水を切り裂いてくれます。また、ゴーグルのゴムをきつめにするだけでなく、キャップの下にゴムを通すと外れにくくなります。
深く潜りすぎてしまう原因
「底にぶつかりそうになった」「深すぎて浮き上がるのに必死」という場合、飛び出す角度が鋭角すぎるか、入水後に視線が下を向きすぎている可能性があります。飛び出すときは少し遠くの水面を狙うように意識を変えてみましょう。また、入水直後に指先を少しだけ上(水面方向)に向けるようにコントロールすると、深く潜りすぎるのを防ぎ、自然な深さを維持しやすくなります。
陸上でできるイメージトレーニング
水中での複雑な動きは、まず陸上で整理するのが近道です。鏡の前やベッドの上で、一連の動作を確認してみましょう。
陸上トレーニングの手順
1. けのび姿勢:両手を上で組み、体を伸ばす。
2. プル動作:手を太ももまで一気に下ろす。
3. 第2のけのび:気をつけの姿勢で2秒数える。
4. リカバリー&キック:手を体の近くを通して頭上へ戻しつつ、足の動作を合わせる。
このように陸上でリズムを口ずさみながら練習すると、水中で慌てずに動けるようになります。
平泳ぎのスタート技術を磨いてベストタイムを目指そう
平泳ぎのスタートは、単なる「泳ぎ始め」ではなく、レース全体の流れやタイムを決定づける重要なパートです。飛び込みから入水、そして「ひとがきひとけり」という一連の動作をスムーズにつなげることで、体力を温存しながら大きな推進力を得ることができます。
特に大切なのは、「抵抗の少ない姿勢を常に意識すること」と「動作と動作の間にある伸びの時間を大切にすること」です。焦って手足をバタバタさせるよりも、一度の動作を丁寧に行い、スーッと水の中を滑る感覚を掴む方が、結果として速く泳ぐことにつながります。
最初は息が続かなかったり、タイミングが合わなかったりするかもしれませんが、今回紹介したポイントを一つずつ確認しながら練習してみてください。スタート後の浮き上がりがスムーズになれば、その後の泳ぎにも余裕が生まれ、きっとベストタイム更新や、楽に長く泳ぐことにつながるはずです。次回のプールでの練習で、ぜひ試してみてください。



