水泳を愛する多くの方を悩ませるのが、肩の痛みである「スイマーズショルダー」です。練習を頑張れば頑張るほど痛みが増し、泳ぎたいのに泳げないもどかしさを感じている方も多いのではないでしょうか。
スイマーズショルダーのリハビリは、単に休むことだけではありません。痛みの原因を理解し、肩周りの柔軟性を取り戻し、正しい筋力をつけることが早期復帰への近道となります。焦らず段階を踏んで進めることが大切です。
この記事では、自宅でできるストレッチやトレーニング、そして再発を防ぐためのフォームのポイントまで詳しく解説します。再び心地よく水の中を泳げるようになるために、まずは正しいリハビリの知識を身につけましょう。
スイマーズショルダーのリハビリが必要な理由と痛みの原因を理解する

肩に痛みを感じたとき、まずはなぜその痛みが発生しているのかを知ることがリハビリの第一歩です。水泳は肩を非常に酷使するスポーツであり、その独特な動きが負担をかける大きな要因となっています。
水泳特有の動きが肩に与えるメカニズム
水泳、特にクロールやバタフライでは、腕を大きく回す動作を繰り返します。この「オーバーヘッド動作」と呼ばれる動きは、肩の関節にとって非常に負荷が高いものです。水からの抵抗を推進力に変える際、肩には体重の何倍もの力がかかると言われています。
特に疲労が溜まってくると、肩を支える小さな筋肉が正しく機能しなくなります。すると肩の関節が不安定になり、骨と骨の間で組織が挟み込まれるようなストレスが生じます。これが繰り返されることで炎症が起き、痛みとして現れるのがスイマーズショルダーの正体です。
また、プルの動作(水をかく動き)で力みすぎたり、キャッチの瞬間に肩が内側に入りすぎたりすることも原因となります。まずは、自分の泳ぎの中でどの瞬間に痛みが出るのかを把握することが、リハビリの方向性を決める手がかりになります。
インピンジメント症候群(衝突)の正体
スイマーズショルダーの多くは「インピンジメント症候群」と呼ばれる状態です。これは、肩を上げたときに肩甲骨の一部である肩峰(けんぽう)という骨と、上腕骨(腕の骨)の間にある腱板や滑液包が衝突して炎症を起こすことを指します。
本来、肩の関節はスムーズに動くように設計されていますが、筋肉のバランスが崩れるとこの隙間が狭くなってしまいます。狭い場所で組織が何度も擦れることで、腫れや痛みが生じるのです。リハビリでは、この「骨と骨の隙間を広げること」が大きな目的の一つとなります。
この状態を放置して無理に泳ぎ続けると、腱板という大切な筋肉が損傷したり、最悪の場合は断裂したりすることもあります。肩に違和感がある段階で、しっかりとリハビリのメニューを取り入れ、悪化を防ぐことが競技生活を長く続ける秘訣です。
リハビリを怠ることで生じる慢性化のリスク
「少し休めば治るだろう」と安易に考えて、根本的な改善をせずに練習を再開すると、痛みが慢性化する恐れがあります。慢性化すると、炎症が引いた後も組織が硬くなり、可動域(動かせる範囲)が狭くなってしまうため、パフォーマンスの低下に直結します。
また、痛みをかばって泳ぐことで、腰や肘など他の部位にも余計な負担がかかり、新たな故障を引き起こす負の連鎖に陥ることも少なくありません。リハビリは単なる治療ではなく、「怪我をしにくい、より強い体を作るチャンス」と捉えることが大切です。
適切なリハビリ期間を設けることで、筋肉の柔軟性と安定性が高まり、復帰後には以前よりもスムーズでパワフルな泳ぎを手に入れることができます。焦る気持ちを抑えて、一つひとつのステップを丁寧に進めていきましょう。
痛みが出た直後の対応とリハビリ開始の判断基準

肩に痛みを感じた直後、どのような対応をするかでその後の回復スピードが大きく変わります。無理をして泳ぎ続けるのは禁物ですが、ただ完全に動かさないでいることが正解とも限りません。適切な初期対応を知っておきましょう。
まずは炎症を抑える「アイシング」と安静
運動中や運動後にズキズキとした痛みや熱感がある場合は、炎症が起きているサインです。この段階では無理なストレッチは避け、まずは患部を冷やすアイシングを行いましょう。氷嚢などで15分から20分程度、肩の痛む部位を優しく冷やします。
また、日常生活でも重いものを持つのを控えたり、痛みの出る方向に腕を上げたりしないように注意してください。炎症が起きている状態で無理に動かすと、さらに組織が傷ついてしまうからです。この時期は「これ以上悪化させないこと」を最優先に考えます。
安静期間の目安は、何もしなくても痛む時期が過ぎるまでです。夜、寝ているときに痛みで目が覚めるような「夜間痛」がある場合は、かなり強い炎症が起きている可能性があります。その場合は、自己判断せず早めに専門医の診察を受けることをお勧めします。
練習を休むべきか、継続するべきかの見極め
スイマーにとって「練習を休む」という決断は非常に難しいものですが、痛みのレベルによって判断基準を明確にしておくことが大切です。以下のポイントを参考に、自分の体の状態をチェックしてみましょう。
・腕を肩より上に上げるときに痛みがあるか
・泳ぎ終わった後に、痛みが数時間以上持続するか
・痛みで本来のフォームが維持できないか
・翌朝起きたときに肩に違和感や重だるさがあるか
これらの項目に当てはまる場合は、一旦スイム練習を休止し、リハビリに専念すべきタイミングです。一方で、泳ぎ始めに少し違和感がある程度で、温まると消えるようなら、強度を落として様子を見ることも可能です。ただし、少しでも悪化の兆しがあればすぐにストップする勇気を持ってください。
「痛くない範囲」で行うアクティブレストの活用
肩が痛くて泳げない時期でも、体全体のコンディションを落とさないために「アクティブレスト(積極的休養)」を取り入れるのが有効です。肩に負担がかからないメニューであれば、積極的に体を動かして血流を促しましょう。
例えば、キック練習のみを行う、ウォーキングで心肺機能を維持する、体幹トレーニングを行うといった方法があります。下半身や体幹の強化は、復帰後の泳ぎを安定させるためにも非常に役立ちます。また、血行が良くなることで、炎症部位への栄養供給がスムーズになり、回復が早まる効果も期待できます。
ただし、キック練習の際にビート板を持つ姿勢が肩に響く場合は、腕を下げた状態で行うなどの工夫が必要です。「痛みを感じる動作は一切しない」というルールを徹底しながら、できることを見つけていきましょう。
肩甲骨の柔軟性を高めるストレッチによるリハビリ

スイマーズショルダーの多くは、肩甲骨の動きが悪くなっていることが原因です。肩甲骨がスムーズに動かないと、肩関節だけで腕を動かそうとしてしまい、負担が集中します。柔軟性を高めて、肩周りの連動をスムーズにしましょう。
肩甲骨を剥がして可動域を広げる
水泳において、肩甲骨は「エンジンの土台」のような役割を果たしています。肩甲骨が背中に張り付いたように固まっていると、腕を後ろに引く動きや、遠くに入水する動きが制限されます。これを改善するために、肩甲骨を上下左右に動かすストレッチを取り入れましょう。
簡単な方法として、両手を肩に置き、肘で大きな円を描くようにゆっくりと回す運動があります。このとき、単に腕を回すのではなく、左右の肩甲骨が寄ったり離れたりしていることを意識してください。特に、後ろに回したときに肩甲骨をギュッと寄せるのがポイントです。
これを1日10回から20回、気がついたときに行うだけでも効果があります。デスクワークなどで前かがみの姿勢が多い方は、肩甲骨が外側に広がりっぱなしになりやすいため、こまめにリセットする習慣をつけましょう。
大胸筋と小胸筋をほぐして「巻き肩」を解消
意外かもしれませんが、肩の痛みの原因が「胸の筋肉」にあることは非常に多いです。大胸筋やその下にある小胸筋が硬くなると、肩が前側に引っ張られ、いわゆる「巻き肩」の状態になります。この姿勢は肩関節の隙間を狭くし、インピンジメントを引き起こしやすくします。
リハビリでは、この胸の筋肉をしっかりと伸ばして、肩の位置を本来の場所に戻すことが重要です。壁に前腕を垂直に当て、体を反対側にゆっくりとひねるストレッチが有効です。胸の前側が心地よく伸びているのを感じながら、30秒ほどキープしてください。
胸が開くようになると、自然と呼吸も深くなり、水泳中の酸素摂取効率も向上します。また、キャッチからプルにかけての動作で肩が詰まる感覚がある方は、この胸のストレッチを念入りに行うことで症状が改善する可能性が高いです。
広背筋の柔軟性がストリームラインを楽にする
背中の大きな筋肉である広背筋も、スイマーにとっては重要なチェックポイントです。広背筋は腕を内側にひねる作用があるため、ここが硬くなると腕を真っ直ぐ上に上げることが難しくなります。その結果、無理に腕を上げようとして肩を痛めるのです。
広背筋を伸ばすには、机などに両手を置いて、お辞儀をするように上体を沈め込むストレッチがおすすめです。脇の下から脇腹にかけてが伸びているのを感じてください。ストリームラインを作るときに肩が耳に当たって痛いという方は、広背筋の硬さが原因かもしれません。
広背筋が柔らかくなると、腕を遠くに伸ばすことが楽になり、一かきで進む距離(ストローク長)が伸びます。痛みの解消だけでなく、泳ぎの効率を上げるためにも、背中全体の柔軟性は欠かせない要素です。
ストレッチは「痛気持ちいい」範囲で行うのが鉄則です。顔をしかめるほどの痛みがあるまで伸ばすと、筋肉は防御反応で逆に硬くなってしまいます。深呼吸を繰り返しながら、リラックスした状態で行いましょう。
肩の安定性を高めるインナーマッスルのトレーニング

柔軟性を確保した次は、肩関節を正しい位置で支えるための筋肉を鍛えます。スイマーズショルダーのリハビリにおいて、最も重要と言われるのが「インナーマッスル(回旋筋腱板)」の強化です。
ローテーターカフ(回旋筋腱板)の役割を知る
肩の深層には、棘上筋(きょくじょうきん)、棘下筋(きょくかきん)、小円筋(しょうえんきん)、肩甲下筋(けんこうかきん)という4つの小さな筋肉があり、これらをまとめてローテーターカフと呼びます。これらは腕の骨を肩のソケットに引き寄せ、安定させる役割を持っています。
水泳で使う大きな筋肉(アウターマッスル)ばかりが強くなり、このインナーマッスルが弱いと、激しい動きの中で肩関節がグラついてしまいます。このアンバランスが、組織の摩擦や炎症を招くのです。リハビリでは、あえて重い負荷をかけず、これらの小さな筋肉を丁寧に刺激します。
インナーマッスルは持久力に富んだ筋肉ですが、非常に疲れやすくもあります。そのため、大きな負荷で数回行うよりも、軽い負荷で正確な動作を繰り返すことが強化のコツです。地味なトレーニングですが、継続することで肩の「芯」がしっかりとしてきます。
セラバンドやチューブを使ったエクササイズ
インナーマッスルのリハビリで最も一般的なのが、ゴム製のチューブやセラバンドを使ったトレーニングです。特に「1stインターナル・エクスターナルローテーション」という種目は、肩の安定性を高めるのに効果的です。
1. 脇にタオルを挟み、肘を90度に曲げます。
2. 体の外側に向けて、ゆっくりと腕を回旋させます(外旋)。
3. 次に、体の内側に向けて、ゆっくりと腕を回旋させます(内旋)。
4. どちらも、肩の奥の方を使っている意識で行います。
ポイントは、「肘が体から離れないようにすること」です。脇に挟んだタオルを落とさないように意識すると、正しくインナーマッスルに刺激が入ります。回数は20回を1セットとし、じんわりと疲労を感じる程度まで行いましょう。チューブの抵抗は、弱めのものから始めるのが安全です。
このトレーニングを練習前のウォーミングアップに取り入れることで、肩の関節が安定した状態で泳ぎ始めることができます。また、お風呂上がりなどの血行が良いときに行うのも、筋肉への刺激が伝わりやすく効果的です。
前鋸筋を鍛えて肩甲骨の土台を作る
肩甲骨を肋骨に引きつけ、安定させる役割を持つ「前鋸筋(ぜんきょきん)」という筋肉も重要です。ここが弱いと、肩甲骨が浮き上がってしまい、腕を動かす際の土台が不安定になります。これを鍛えることで、肩へのストレスを大幅に軽減できます。
代表的なトレーニングは「プッシュアッププラス」です。四つん這い、あるいは壁に手をついた状態で行います。肘を伸ばしたまま、肩甲骨を外側に広げるようにして、背中を高く持ち上げます。床をグーッと押し出すような感覚です。
一見地味な動きですが、脇の下あたりの筋肉(前鋸筋)が使われているのを感じられれば正解です。肩甲骨がしっかりと安定すれば、腕を回したときにインピンジメントが起きにくくなり、スイマーズショルダーの再発防止に大きく貢献します。
水泳復帰後の再発を防ぐフォーム改善のポイント

リハビリで肩の状態が良くなってきたら、いよいよ入水です。しかし、以前と同じフォームで泳いでしまうと、再び肩を痛める可能性が高いです。痛みを繰り返さないための、肩に優しい泳ぎ方を意識しましょう。
入水位置を少し広めにとる意識
多くのスイマーが「より遠く、体の中心線上に入水しよう」と意識しがちですが、これが肩の痛みを引き起こす原因になることがあります。中心を越えてクロスするように入水すると、肩関節が内側に強くひねられ、インピンジメントを誘発しやすいからです。
リハビリ明けの時期は、「肩のラインか、それよりも少し外側に入水する」イメージを持ってください。これだけで肩の詰まり感が解消され、スムーズに水を捉えられるようになります。また、手のひらが外を向きすぎないように、リラックスした状態で入水することも大切です。
入水位置を少し変えるだけで、肩への負担は驚くほど軽減されます。最初は違和感があるかもしれませんが、鏡で自分のフォームをチェックしたり、動画を撮ってもらったりして、無理のない位置を探ってみましょう。
ローリングを活用して肩の負担を逃がす
肩の痛みがある人の多くは、体が平らなまま腕だけで泳いでいる傾向があります。体幹を左右に回転させる「ローリング」を適切に使うことで、肩を無理に持ち上げる必要がなくなり、負担を背中や体幹へ分散させることができます。
入水した側の肩を少し深く沈めるように意識すると、自然と反対側の肩が上がり、リカバリー(腕を前に戻す動作)が楽になります。このとき、腰だけをひねるのではなく、一本の軸を中心に体全体が丸ごと回るようなイメージを持ちましょう。
ローリングが上手く使えるようになると、肩の可動域の限界まで使わなくても、楽に腕を前に運べるようになります。リハビリ期間中にキック練習と並行して、片手ドリルなどでローリングの感覚を養っておくことが、スムーズな復帰に繋がります。
ハイエルボーを意識しすぎないこと
「肘を高く保つ(ハイエルボー)」ことは効率的な泳ぎに不可欠ですが、スイマーズショルダーのリハビリ直後には注意が必要です。無理に肘を高く保とうとすると、肩関節を不自然に内旋させることになり、痛みを再発させるリスクがあるからです。
回復して間もない時期は、形にこだわりすぎず、自分が最も楽に水をかける位置を探しましょう。肘の高さよりも、肩に力みがないことや、前腕全体で水を感じられていることを優先してください。筋力が戻ってくるにつれて、自然と理想的なフォームに近づけていけば十分です。
また、リカバリーの際に肘を高く上げる動作も肩に負担がかかります。肘を真っ直ぐ伸ばして回す「ストレートアーム」の方が楽な場合もあるので、自分の肩がどの動きに敏感なのかを確認しながら調整していきましょう。
スイマーズショルダーのリハビリで痛みを克服し再び泳ぐために

スイマーズショルダーのリハビリは、自分自身の体とじっくり向き合う貴重な時間です。痛みは「これまでの体の使い方に無理があった」という体からのサイン。それを無視せず、一つずつ課題をクリアしていくことが、結果として最強のスイマーへの道へと繋がります。
リハビリの基本は、炎症を抑える「休息」、肩周りを緩める「ストレッチ」、関節を支える「インナーマッスルトレーニング」、そして肩に負担をかけない「フォーム改善」の4ステップです。どれか一つが欠けても、根本的な解決にはなりません。特に柔軟性とインナーマッスルの強化は、痛みが消えた後も習慣として続けていくことが大切です。
水泳は一生続けられる素晴らしいスポーツです。目先の大会や練習メニューに囚われすぎて、未来の可能性を狭めてしまうのはもったいないことです。焦らず、自分のペースでリハビリに取り組み、以前よりも軽やかで力強いストロークを手に入れてください。また笑顔でプールサイドに立ち、水の中を自由に駆け抜ける日が来るのを応援しています。
スイマーズショルダーのリハビリまとめ
スイマーズショルダーを克服し、元気に水泳へ復帰するための要点を振り返りましょう。リハビリにおいて最も大切なのは、自分の体の状態を正確に把握し、無理のないステップを踏むことです。
・痛みの原因は肩関節のインピンジメント(衝突)であり、放置すると慢性化のリスクがある
・炎症がある初期はアイシングと安静を徹底し、痛みが出ない範囲でアクティブレストを取り入れる
・肩甲骨、大胸筋、広背筋のストレッチを行い、肩関節が動くためのスペースを確保する
・チューブなどを使ってインナーマッスル(回旋筋腱板)を鍛え、肩の安定性を高める
・復帰後は入水位置を広めにする、ローリングを活用するなど、肩に優しいフォームを意識する
これらのリハビリメニューは、一度行えば終わりではありません。日々の練習前後の習慣にすることで、再発を防ぎ、パフォーマンスを向上させる強力な武器となります。肩の痛みを乗り越えた経験は、あなたの水泳人生において大きな糧となるはずです。一歩ずつ、確実に復帰への道を歩んでいきましょう。

