水泳の大会に向けて日々練習に励んでいる中で、もっとも不安を感じる瞬間の一つがスタートではないでしょうか。せっかく厳しい練習を積み重ねてきても、一瞬のミスで「失格」になってしまうのが競泳の厳しいルールです。特に、スタート時のフライングは、現在のルールでは即座に失格となるため、正しい知識を身につけておくことが不可欠です。
この記事では、水泳競技におけるフライングの失格基準について、初心者の方にも分かりやすく解説します。どのような動きが違反とみなされるのか、最新の判定基準やリレー種目での注意点、さらには本番で失敗しないためのコツまで詳しくまとめました。ルールを正しく理解して、自信を持ってスタート台に立てるよう準備を整えていきましょう。
フライングで失格になる基準と基本的なルール

競泳におけるスタートのルールは、非常に厳格に定められています。まずは、現在の競技会で一般的に採用されている基本的な失格の基準について見ていきましょう。判定の仕組みを知ることで、無駄な緊張を減らすことができます。
競泳の「1回での失格」制度(ワンスタートルール)
現在の日本水泳連盟および世界水泳連盟(World Aquatics)のルールでは、「ワンスタートルール」という制度が採用されています。これは、いかなる理由があっても、一度のフライングで即座に失格となるルールです。昔のルールのように「1回目は許される」といった猶予は一切ありません。
このルールが導入された背景には、競技時間の短縮や、選手間の公平性を保つ目的があります。一度のミスが命取りになるため、スタートの瞬間には極限の集中力が求められます。まずは「やり直しはきかない」という厳しい現実をしっかりと意識しておくことが、ルール遵守の第一歩となります。
たとえ意図的ではなく、バランスを崩して体が動いてしまった場合でも、このルールが適用されます。そのため、スタート台の上では完全に静止し、自分の体を完璧にコントロールする技術が、泳力と同じくらい重要視されているのです。練習の段階から、この緊張感を持って取り組む必要があります。
号砲の前に動いてしまった場合の判定
具体的な失格基準として最も分かりやすいのが、出発の合図(ピストルや電子音)が鳴る前に、選手がスタートの動作を開始してしまうケースです。審判員は、選手が合図の前に足の指をスタート台から離したり、体が前方へ移動し始めたりしていないかを鋭くチェックしています。
現代の主要な大会では、スタート台に精密な荷重センサーが備わっており、人間の目では追いきれないミリ秒単位の動きを検知しています。合図が鳴る前にセンサーから荷重が抜けたと判断されれば、機械的にフライングと判定される仕組みです。音を聞いてから反応するのが鉄則となります。
「音を予測して飛ぶ」という行為は、成功すればタイムを縮めることができますが、失敗した時のリスクが大きすぎます。合図を待たずに体が反応してしまうことは、経験豊富な選手でも起こり得るミスです。日頃から「音を聴いてから動く」という神経伝達のトレーニングを意識することが大切です。
静止状態が保てなかった時のルール
スタート時の失格理由で意外と多いのが、合図の前に体が小刻みに揺れていたり、静止できていなかったりするケースです。ルール上、スターターが「Take your marks(用意)」と声をかけた後、選手は速やかに適切な姿勢をとり、完全に静止しなければならないと定められています。
一度構えに入った後に、ゴーグルを触り直したり、重心を前後に移動させたりすることは禁止されています。たとえスタート台から飛び出していなくても、構えの段階で「動き」があると審判が判断すれば、それは失格の対象となります。わずかな震えや重心のブレも、厳格な審判の前では見逃されません。
このルールがあるため、スタート台に足をかけ、手をセットした瞬間に全身の筋肉をコントロールし、ピタッと止まる技術が求められます。特に緊張しているときは呼吸によって肩が上下しやすいため、構えの瞬間に息を止めるか、静かに吐き出すことで安定感を生み出す工夫が効果的です。
審判が「フライング」と判断するポイント
審判がフライングを判定する際、主に注視しているのは「肩のライン」や「重心の移動」です。合図の前に肩が前方へ動き出したり、膝が伸び始めたりする動作は、明らかな違反とみなされます。また、周囲の選手が先に動いたことに釣られて動いてしまった場合も、失格となるのは動いた本人のみです。
審判員は、スタート台の横や正面から、複数の目で見守っています。一人が疑わしいと感じた場合、他の審判との協議が行われますが、ビデオ判定が導入されている大会では映像による事後確認も行われます。基本的には、主観だけでなく客観的な証拠に基づいて判断が下されるようになっています。
また、スタート直後に笛が鳴って競技が止められる場合もあれば、そのまま泳ぎ切った後に失格が告げられる場合もあります。これは判定を精査する時間が必要な場合があるためです。最後まで全力で泳ぐことが前提ですが、電光掲示板に「DSQ(失格)」の文字が出た際は、こうした基準に抵触したことになります。
スタートの瞬間を左右する合図と動作の決まり

スタートを成功させるためには、大会での流れを完全に把握しておく必要があります。審判の声のかけ方や、自分の動作がどのタイミングで固定されるべきなのかを知ることで、余裕を持って本番に臨むことができます。
「Take your marks」から「Go」までの流れ
レースの開始は、まず主審による数回の短い笛の合図から始まります。これは「着替えを済ませてスタート台の後ろに立ってください」という合図です。次に、長い笛の合図が鳴ると、選手はスタート台の上に立ちます。背泳ぎの場合は、すぐに入水してスタート位置につきます。
その後、スターターが「Take your marks」という合図を送ります。日本では以前「用意」と言われていましたが、現在は国際基準に合わせて英語の合図が主流です。この言葉を聞いたら、選手はすぐに自分の構えを完成させなければなりません。この間はわずか数秒ですが、もっとも集中力が高まる時間です。
すべての選手が静止したことをスターターが確認すると、電子音(ピピィーやプッといった音)が鳴ります。この音が聞こえるまで、指先ひとつ動かしてはいけません。合図の間隔は一定ではなく、選手たちの静止状態を見て判断されるため、どんなに長く感じても耐え抜く精神力が求められます。
構えの姿勢で気をつけるべきポイント
スタート台での構えにおいて重要なのは、自分の重心がどこにあるかを把握することです。クラウチングスタート(片足を後ろに引く構え)の場合、後ろ足のつま先をフィンにかけて安定させますが、この時に重心が前に行き過ぎていると、不意に体が倒れてフライングを誘発しやすくなります。
指先はスタート台の縁(ヘリ)をしっかり掴み、腕を突っ張りすぎないように意識しましょう。筋肉をガチガチに固めてしまうと、合図への反応が遅れるだけでなく、自分の鼓動や震えで静止状態が崩れてしまいます。適度な柔軟性を保ちつつ、いつでも爆発的な力を出せる「バネ」のような状態が理想です。
また、顔の向きも重要です。過度に前を見すぎると首の筋肉が緊張し、呼吸が苦しくなることがあります。斜め前を自然に見るような位置で固定し、合図の音に全神経を集中させます。練習から自分にとって最も安定し、かつ素早く反応できる「ゼロポジション」を見つけておくことが、失格を防ぐ最大の防御となります。
クラウチングスタートにおける足の動き
現在主流となっているクラウチングスタート用のスタート台には、後ろ足を支える「バックプレート」という傾斜板がついています。これを利用することで、以前よりも力強い飛び出しが可能になりました。しかし、この足の置き方や動きのタイミングが、失格基準に関わることもあります。
具体的には、合図の前に後ろ足でプレートを蹴り出したり、位置を微調整したりする行為はフライングとみなされます。セットした足は、合図が鳴るまで固定しなければなりません。足の指の掛かりが浅いと感じても、「Take your marks」の後は動かせないため、台に乗った瞬間のセットが勝負を分けます。
足の筋肉は非常に強いため、わずかな収縮でもスタート台のセンサーが反応してしまいます。リラックスした状態で足の裏全体でプレートを捉え、音と同時に蹴り出す感覚を養いましょう。特に後ろ足の蹴りが早いと、上半身が残ったまま前傾してしまい、結果的に重心が動いてフライング判定を受けるリスクが高まります。
スタート台から離れる瞬間のセンサー判定
最新の競技用プールに設置されているスタート台には、タッチ板と同じくらい精密なセンサーが内蔵されています。このセンサーは、選手の足が離れた瞬間の「圧力の変化」を検知しています。スターターが鳴らした合図の電気信号と、センサーの信号をコンピュータが照合します。
もし合図よりも先に圧力が減少、あるいは消失していた場合、それは「0.001秒単位でのフライング」として記録されます。人間の肉眼では同時に見えても、機械は嘘をつきません。このデジタルな判定こそが、現代の競泳における失格基準の要となっています。これを回避するには、予測ではなく「反応」するしかありません。
判定装置は、単に「離れた瞬間」だけを見ているのではなく、その前の予備動作による荷重移動もチェックしています。沈み込んでから飛ぶタイプの方は、沈み込みのタイミングが早すぎないように注意が必要です。自分のスタートを動画で撮影し、音とのズレを客観的に分析することが、基準をクリアするための練習になります。
リレー競技特有のフライング基準と引き継ぎのルール

リレー種目では、個人種目とは異なる「引き継ぎ」のルールが存在します。チーム全体の結果に影響するため、非常に緊張する場面ですが、判定の仕組みを理解しておけば無駄な恐怖を払拭できます。
引き継ぎ時の「マイナス」判定とは
リレーのフライング判定において、もっとも重要な数値が「引き継ぎタイム」です。これは、前の泳者がタッチ板に触れた瞬間と、次の泳者がスタート台から離れた瞬間の差を指します。ルールでは、前の泳者がタッチする前に、次の泳者の足がスタート台から離れてはならないと決まっています。
この差が「-0.01秒」以下のマイナス数値になると、その時点でチームは失格となります。「0.00秒」であれば、理論上は完璧な引き継ぎとして認められます。センサーは非常に正確で、肉眼では完璧に見えても機械が「わずかに早かった」と判定すれば、無慈悲に失格の判決が下されます。
一般的に、安全な引き継ぎタイムは「+0.10秒から+0.20秒程度」と言われています。これより攻めすぎると、ちょっとしたタイミングのズレでマイナスになる危険があります。チームの勝利のためにタイムを縮めたい気持ちは分かりますが、まずは「確実にプラスでつなぐ」ことがリレーの鉄則です。
センサーが検知する手と足のタイミング
リレーの判定システムは、プールの壁にある「タッチ板」と、スタート台の「センサー」の連動によって行われます。前の泳者が壁を叩いた瞬間の衝撃と、次の泳者の足が台から離れた瞬間の荷重変化を計測します。ここでのポイントは、「足の指が少しでも台に残っていればセーフ」という点です。
上半身がどれだけ前へ倒れていても、指先がスタート台の表面に触れていればフライングにはなりません。このため、一流選手は前の泳者が壁に到達する前に、すでに倒れ込むようなダイナミックな動きを開始しています。一見フライングに見えるダイブでも、足が離れる瞬間にタッチが終わっていればルール上問題ありません。
ただし、この技術には高度なバランス感覚が必要です。早めに動き出したものの、前の泳者の失速によってタッチが遅れた場合、そのまま飛び出さざるを得なくなり失格になるリスクがあります。相手の泳ぎをよく見て、タッチの瞬間を予測しながらも、足だけは最後まで残しておく粘り強さが求められます。
リレーのフライングを防ぐ視覚的・感覚的コツ
リレーで失格を避けるためのコツは、前の泳者の「手の動き」をどこで捉えるかにあります。一般的には、前の泳者が壁の「5メートルライン(フラッグ)」を通過したあたりから準備を始め、壁に手が届く直前の「一かき(ラストプル)」を合図に動き出すのが基本です。
目視だけで判断すると、水しぶきやプールの光の反射で見えにくいことがあります。そんな時は、相手の頭が壁に近づくスピードをリズムとして捉え、自分の心の中でカウントダウンをすると安定します。「トーン、トーン、パッ」というリズム感を持つことで、焦りによるフライングを防ぐことができます。
また、練習では「わざと遅らせて飛ぶ」練習も取り入れましょう。どの程度遅らせればどのくらいのタイムが出るのかを感覚として知っておけば、本番での微調整が可能になります。絶対に失格できない場面では、あえて0.3秒ほど余裕を持って飛ぶという判断も、チームを救う重要な戦略になります。
第1泳者とそれ以降の泳者で異なる注意点
リレーにおける第1泳者は、個人種目と全く同じ「ワンスタートルール」が適用されます。スターターの合図でスタートするため、引き継ぎセンサーは関係ありません。第1泳者がフライングをすると、その時点でチーム全体が失格となってしまうため、もっとも責任が重いポジションとも言えます。
一方、第2泳者以降は、スターターの合図ではなく、前の泳者のタッチがスタート合図になります。ここでは、自分のタイミングだけで飛べないという難しさがあります。前の選手が想定より速かったり遅かったりしても対応しなければなりません。相手を信じるだけでなく、不測の事態に備えた柔軟性が必要です。
第1泳者は「静止」が最大の敵であり、第2泳者以降は「動くタイミングの不一致」が最大の敵となります。それぞれの役割に応じた注意点を理解し、リレーメンバー全員でスタートの合わせを練習することが、失格のリスクを最小限に抑える唯一の道です。
【リレー引き継ぎの安全基準】
・理想的な引き継ぎタイム:+0.10秒 〜 +0.20秒
・失格となるタイム:-0.01秒以下
・判定の基準:前の泳者の「手」と次の泳者の「足」
審判による判定の仕組みとビデオ判定の導入

ルールを把握したところで、実際に誰がどのように判定を下しているのかを見ていきましょう。判定のプロセスを知ることで、もしもの時の納得感や、冷静な対応力が身につきます。
スターターと出発合図員の役割
競泳のスタートにおいて主導権を握っているのは「スターター(出発合図員)」です。スターターは、選手全員が静止したことを確認し、公平なタイミングで合図を送る責任があります。選手に「静止」を促し、ルールに則ったスタートが行われるよう、高い集中力で選手を観察しています。
また、スターターの他にも「出発審判員」が横から選手を監視しています。スターターが音を鳴らすことに集中する一方で、出発審判員は選手に不自然な動きがなかったか、静止を怠っていなかったかを客観的にチェックします。この複数の役割分担によって、一人の主観に頼らない公平な判定が維持されています。
もし誰かが動いたと判断された場合、スターターは合図を鳴らさずに選手を一度リラックスさせることがあります(「スタンドアップ」と呼ばれる指示)。これはフライングによる失格ではなく、仕切り直しのための指示です。このような審判のコントロールがあるからこそ、競技の公平性が守られているのです。
自動審判計時装置(タッチ板)による精密測定
現代の競泳大会では、人間の目だけでなく「自動審判計時装置」が主役を担っています。これはいわゆる「タッチ板」と「スタートセンサー」が連動したシステムです。人間の動体視力では判別できない0.01秒以下の世界を、電気信号によって正確に記録します。
大会の公式結果が出るまで少し時間がかかることがあるのは、このシステムが記録したデータと、審判員の目視による記録を照合しているからです。システムが「フライング」と検知しても、審判長が状況を確認し、最終的な失格の判断を下します。機械の誤作動の可能性も考慮に入れつつ、厳正なプロセスが踏まれます。
この精密装置の存在は、選手にとって「ズルができない」というプレッシャーでもありますが、同時に「正しいスタートが正当に評価される」という安心感でもあります。機械を味方につけるためには、センサーの仕組みに合わせた正確なスタートフォームを身につけることが重要です。
水中や横からのビデオ確認が行われるケース
大規模な大会や国際大会では、ビデオ判定システム(VARのようなもの)が導入されています。スタート台の横や水中、さらには上空から高精度なカメラが回っており、審判の肉眼やセンサーの結果に疑問が生じた際に確認用として使用されます。これにより、判定の精度は飛躍的に向上しました。
例えば、リレーの引き継ぎで足が離れた瞬間に、本当に指先が残っていたかどうかをスロー再生で確認します。また、潜水距離が制限(15メートル)を超えていないかなどの確認にも使われます。ビデオ判定の結果、後から失格が告げられることもありますが、これは誤審を防ぐための大切な仕組みです。
一般の大会ではここまでの設備はありませんが、審判員は高い位置から全体を見渡せる場所に配置されています。自分の身を守るためにも、審判から見て「明らかに不自然な動き」をしないことが、ビデオ判定のない現場でも生き残るための知恵となります。
異議申し立て(抗議)が通る可能性について
もし自分のスタートが正当だったと信じているのに失格判定を受けた場合、チームの監督などを通じて審判長に「抗議」を申し立てることができます。ただし、水泳競技において判定が覆る可能性は極めて低いのが現実です。審判の判断は最終的なものとして尊重されるからです。
抗議が認められる可能性があるのは、審判がルールを誤用した場合や、明らかな機械の故障が証明された場合などに限られます。「自分は動いていないつもりだった」という主観的な理由では、まず受け入れられません。そのため、抗議を考えるよりも、まずは判定を受け入れる姿勢が求められます。
ルールブックには抗議の手続きも詳しく記載されていますが、それが必要になる状況は稀です。むしろ、失格を受けた後にどのように気持ちを切り替え、次のレースや練習に活かすかの方が、アスリートとしての成長には重要です。ルールは選手を守るためのものでもあると理解しましょう。
本番でフライングをしないためのメンタルと技術

知識があっても、本番の緊張感の中でそれを実行するのは難しいものです。ここでは、実力を出し切りつつ、フライングを回避するための具体的なトレーニング方法や心の持ち方を紹介します。
過度な緊張を和らげるルーティンの作り方
フライングの最大の原因は「焦り」と「緊張」です。心臓の鼓動が速くなり、体が勝手に反応してしまうのを防ぐには、自分なりのルーティン(決まった動作)を作ることが効果的です。スタート台の後ろに立った時、深く3回深呼吸をする、決まった順序で手足をほぐすといった動作を定着させましょう。
ルーティンを行うことで、脳に「いつも通りだよ」という信号を送ることができます。これにより、本番の異様な雰囲気の中でも冷静さを保てるようになります。特に「Take your marks」と言われる直前の深い吐息は、体の余計な力を抜き、静止しやすくするための有効なテクニックです。
緊張を完全に消すことは不可能ですが、それをコントロールすることはできます。緊張を「体が準備を整えている証拠だ」とポジティブに捉え、ルーティンによってそのエネルギーを正しい方向へと導きましょう。落ち着いて台に上がることができれば、フライングのリスクは激減します。
周りの音に惑わされない集中力の高め方
大きな大会になると、観客の声援や隣のコースの選手の動きが気になってしまうことがあります。特に隣の選手がフライング気味に動いた時、つられて自分も動いてしまう「釣られフライング」には注意が必要です。これを防ぐためには、外部の刺激を遮断する強い集中力が必要です。
練習の時から、あえて騒がしい環境でスタート練習をしたり、誰かにわざと横で動いてもらったりして、合図の音だけに反応する訓練をしましょう。「耳を澄ますのはスターターの電子音のみ」という意識を徹底します。周囲がどう動こうが、自分だけの世界に入り込むことが大切です。
また、視界を制限するのも一つの手です。構えた時は地面の一点を見つめ、隣の選手が視界に入らないようにします。自分のコースの中で完結するという意識を持てば、他者の動きに惑わされることはなくなります。内面的な集中力を磨くことが、結果的にルールを遵守する力につながります。
反応速度を上げる練習と「待つ」練習
「速く飛びたい」という欲求が強すぎると、フライングの危険が高まります。そこで重要なのが、反応速度を鍛える練習と同時に、「あえて待つ」練習をセットで行うことです。反応速度とは「音を聞いてから動くまでの時間」であり、音を予測することではありません。
具体的には、練習パートナーに不規則なタイミングで合図を出してもらう練習が有効です。「Take your marks」から合図までの時間を1秒にしたり3秒にしたりとバラつかせることで、どんなタイミングでも音が鳴るまで動かない忍耐力が養われます。「待つこと」も技術の一部だと認識しましょう。
また、陸上でのトレーニングも効果的です。目をつぶって手を叩く音に反応してジャンプする練習などは、神経系を鍛えるのに役立ちます。反射神経が鋭くなれば、合図を待ってから動いても十分に速いスタートが切れるようになります。「待ちの余裕」こそが、フライングを防ぐ最強の武器です。
コーチや仲間とのスタート練習の重要性
自分の動きは、自分では意外と見えていないものです。「止まっているつもり」でも、実は微妙に揺れていることがあります。そのため、コーチや仲間に客観的なチェックをしてもらうことが欠かせません。スマホで動画を撮ってもらい、スロー再生で自分の静止状態を確認する習慣をつけましょう。
特にスタート台の上での指先の震えや、呼吸による肩の上下運動などは、指摘されないと気づきにくいポイントです。仲間同士で「今の動きはフライングだよ」「もう少し止まれるよ」と指摘し合うことで、審判に近い視点を持つことができます。お互いに切磋琢磨することが、チーム全体のルール遵守意識を高めます。
また、練習環境を本番に近づけることも大切です。静かな練習時間だけでなく、賑やかな時間帯にもスタート練習を行い、どんな状況でも自分のパフォーマンスを維持できるか試してみましょう。他者の目がある環境で練習を積み重ねることが、本番での自信へと直結します。
練習での心がけ:100回練習して1回もフライングをしない精度を目指しましょう。練習で「今の惜しいな」と思っているようでは、本番のプレッシャーには勝てません。
フライングと失格基準に関するよくある疑問と回答

最後に、多くの swimmers が不安に感じたり、疑問に思ったりするポイントを Q&A 形式でまとめました。イレギュラーな事態への知識を深めておきましょう。
ゴーグルが外れそうになって動いた場合は?
スタート台に立った後にゴーグルのズレが気になり、直そうとして動いてしまった場合も、残念ながら失格の対象となる可能性が非常に高いです。合図の前に体を動かすことは、理由を問わずルール違反となるからです。ゴーグルの不備は、台に上がる前に完璧に解消しておく必要があります。
もし「Take your marks」の合図がかかる前であれば、手を挙げて審判に不備を伝えることも不可能ではありませんが、基本的には進行を妨げる行為とみなされます。万が一、構えた後にズレを感じても、そのまま動かずにスタートし、泳ぎの中で対応するのが競技者としての一般的な判断となります。
こうしたトラブルを防ぐためにも、キャップの上からゴーグルを装着する(二重キャップの間に入れる)など、絶対にズレない工夫をしておきましょう。道具への信頼感があれば、スタートの瞬間に余計なことを考えずに済み、集中力を維持しやすくなります。
スタート台が滑ってしまった時の救済措置
「スタート台が濡れていて足が滑り、結果的に体が動いてしまった」というケースはどうなるのでしょうか。結論から言うと、これも救済されることはほとんどありません。スタート環境への対応も競技の一部とみなされるため、滑ることを想定した準備が必要です。
大会によっては、スタート前に自分のコースのスタート台をタオルで拭くことが許可されています。自分の番が来る前に、しっかりと水分を拭き取っておくことが最大の対策です。また、足の裏を拭いておくことも忘れないでください。わずかな準備の差が、フライングという最悪の結果を防ぐことにつながります。
万が一、滑ってしまってバランスを崩しそうになっても、無理に立て直そうとして大きく動くと即失格です。極限まで静止を保つ努力をするか、あるいはそのままスタートするしかありません。環境のせいにせず、いかなる状況でも安定したスタートができる「体幹の強さ」を磨いておくことが重要です。
失格の判定が下されるタイミングの違い
フライングの判定がいつ下されるかは、状況によって異なります。ひとつは、スタート直後に審判が長い笛を鳴らし続け、レースを中断させるケース。もうひとつは、レースがそのまま続行され、泳ぎ終わった後に記録が「DSQ」となるケースです。後者は、ビデオ判定やセンサー記録の精査に時間を要した場合に起こります。
中断された場合は、原因となった選手のみがコースを去り、残りの選手で再スタートとなります。続行された場合は、たとえ1位でゴールしても記録は残りません。どちらのパターンであっても、審判の指示に従うのがルールです。自分が失格かもしれないと思っても、指示があるまでは最後まで全力で泳ぐのがマナーです。
失格が告げられるタイミングが遅いとショックも大きいですが、それは判定を慎重に行っている証拠でもあります。どのようなタイミングで告げられても冷静に受け止め、審判に対して礼儀正しく振る舞うことが、スポーツマンシップとして非常に大切です。
自分のフライングではなく周りが動いたとき
「隣のコースの選手が激しく動き、その音や気配に驚いて自分も動いてしまった」という状況は非常に悔しいものです。しかし、この場合でも「動いてしまった自分」が失格になるのが競泳の厳しいルールです。原因が自分以外にあっても、自分の体をコントロールできなかったと判断されます。
もちろん、隣の選手が明らかに先に動いていれば、その選手も失格となります。しかし、「誰かのせいで自分もフライングした」という抗議は基本的に認められません。レースは常に自己責任の世界です。周囲の状況に左右されない「不動の精神」を養うことが、結果的に自分を守ることになります。
逆に、もし周りの選手が立ち上がったり審判が止めたりした場合は、自分もすぐに力を抜いてリラックスしましょう。こうしたイレギュラーな事態に慣れておくためにも、練習中から様々なパターンを想定したシミュレーションを行っておくことが、本番でのミスを減らす近道です。
| 状況 | 判定結果 | 理由 |
|---|---|---|
| 合図前に少し肩が動いた | 失格 | 完全な静止が必要なため |
| 隣が動いて自分も動いた | 失格 | 自己コントロールの責任 |
| ゴーグルを直した | 失格 | 合図後の動作制限違反 |
| 引き継ぎタイム -0.01 | 失格 | 前の泳者のタッチより早いため |
フライングの失格基準を正しく理解してベストを尽くそう
水泳競技におけるフライングの失格基準は、非常に厳格で言い訳の効かないものです。しかし、それはすべての選手が同じ条件で、公平に競い合うために設けられた大切なルールでもあります。「ワンスタートルール」や「完全静止」の原則を正しく理解し、それに基づいた練習を積み重ねることで、スタートへの不安は自信へと変わります。
失格を恐れるあまり消極的なスタートになる必要はありません。基準を明確に知り、センサーや審判がどこを見ているかを把握すれば、ルールを守りつつも攻撃的なスタートを切ることが可能になります。日々のルーティン作りや反応練習を通じて、心と体のコントロール能力を磨いていきましょう。
もし大会でフライングをしてしまったとしても、それは成長のための貴重な経験です。なぜ動いてしまったのかを分析し、次のレースに活かすことができれば、その失敗は決して無駄にはなりません。ルールを味方につけ、スタート台の上で最高の集中力を発揮し、練習の成果を存分に発揮してください。

