「子供がもっと速く泳げるようになりたいと言っているけれど、何か家でできることはないかしら?」
「水泳のために筋トレをさせても、身長が伸びなくなったりしないか心配……」
大切なお子様が水泳に打ち込んでいる姿を見ると、親としては全力でサポートしてあげたくなりますよね。しかし、成長期の子供に対する「筋トレ」については、正しい情報がわからず不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
結論からお伝えすると、子供の水泳において適切な「筋トレ(陸上トレーニング)」は、タイムを縮めるだけでなく、怪我の予防や将来的な身体作りにおいて非常に有効です。ただし、大人がジムで行うような重い器具を使ったトレーニングとは、目的も方法も異なります。
この記事では、水泳を頑張る子供たちに必要な筋トレの正しい考え方や、自宅で安全に取り組める具体的なメニュー、そして食事や生活習慣までを、やさしくわかりやすく解説します。親子で楽しく学びながら、お子様のベストタイム更新をサポートしていきましょう。
水泳における子供の筋トレの考え方と重要性

「筋トレ」と聞くと、重いダンベルを持ち上げて筋肉を太く大きくするイメージを持つかもしれません。しかし、小学生や中学生の成長期における水泳のためのトレーニングは、それとは全く異なるものです。
この時期の子供たちにとって重要なのは、筋肉の大きさではなく、自分の体を思い通りに動かす能力や、水の中で抵抗を受けない姿勢を保つ力です。まずは、なぜ子供にトレーニングが必要なのか、その根本的な考え方を理解しておきましょう。
「筋肥大」ではなく「神経系」の発達を狙う
成長期の子供、特に小学生から中学生にかけての時期は「ゴールデンエイジ」と呼ばれ、神経系が著しく発達するタイミングです。この時期にさまざまな動きを経験させることで、脳から筋肉への指令がスムーズに伝わるようになります。
大人の筋トレが「筋肉の繊維を太くすること(筋肥大)」を主な目的とするのに対し、子供のトレーニングは「眠っている筋肉を目覚めさせ、上手に使えるようにすること」が最大の目的です。例えば、ただ力を入れるだけでなく、「右手を動かしながら左足をタイミングよく動かす」といったコーディネーション能力を高めることが、水泳の複雑な動きを習得する近道となります。
無理に筋肉をつけようとするのではなく、自分の体重を使った運動や、バランス感覚を養う運動を取り入れることで、水中でしなやかに動ける「水泳センス」のある身体が作られていきます。
水の抵抗を減らすための体づくり
水泳は、陸上競技と違って「水の抵抗」との戦いです。どれだけパワーがあっても、姿勢が悪ければ水の抵抗をまともに受けてしまい、前に進むことができません。逆に、細身の選手でも驚くほど速いことがあるのは、水の抵抗を極限まで減らす姿勢ができているからです。
子供たちが陸上で行うトレーニング(ドライランドトレーニング)の大きな役割の一つは、この「抵抗の少ない姿勢(ストリームライン)」を陸上で作り、維持できる筋力をつけることにあります。
水の中では足場がないため、体幹(お腹や背中周り)が弱いと腰が沈んでしまいます。陸上で重力に抗って正しい姿勢をキープできるようになれば、水中でもフラットな姿勢を保ちやすくなり、結果として「楽に、速く」泳げるようになるのです。
怪我の予防と長く続けるための基礎
水泳は関節への負担が少ないスポーツと言われていますが、レベルが上がって練習量が増えてくると、肩や腰、膝への負担が蓄積します。特に「スイマーズショルダー」と呼ばれる肩の痛みや、平泳ぎ特有の膝の痛みなどに悩む子供は少なくありません。
適切なトレーニングを行うことは、これらの怪我を未然に防ぐためにも非常に重要です。関節周りのインナーマッスルを強化したり、柔軟性を高めたりすることで、繰り返しの動作にも耐えられる強い関節を作ることができます。
また、成長期に正しい体の使い方を覚えておくことは、将来的に本格的なウエイトトレーニングを始める際の強固な土台となります。長く楽しく水泳を続けるためにも、今のうちから「自分の体を守るためのトレーニング」を習慣づけておくことが大切です。
小学生・中学生におすすめの自宅でできる陸上トレーニング

それでは、具体的にどのようなトレーニングを行えばよいのでしょうか。ここでは、特別な器具を使わず、自宅の畳一畳分のスペースがあればできるメニューを紹介します。
これらは「ドライランドトレーニング」と呼ばれ、多くのトップスイマーも練習前に必ず行っている基礎的な種目です。回数や秒数にこだわりすぎず、「正しいフォーム」で行うことを最優先してください。
基本中の基本!体幹を鍛える「プランク」
水泳選手にとって最も重要と言っても過言ではないのが、体の軸を安定させる「体幹(コア)」です。その体幹を鍛える代表的な種目が「プランク」です。
【プランクのやり方】
1. うつ伏せになり、両肘を床につけて上半身を起こします。
2. つま先を立てて、腰を持ち上げます。
3. 頭からかかとまでが、一直線の棒になるようなイメージで姿勢をキープします。
4. まずは20秒〜30秒を目標に行いましょう。
ポイントは、お尻が上がったり下がったりしないことです。お腹に力を入れて、誰かに背中を押されても動じないような硬い一本の棒になるイメージを持ちましょう。これができるようになると、水中で腰が沈まず、高い位置でボディポジションを保てるようになります。
スタートとターンが強くなる「スクワット」
水泳は腕で泳ぐイメージが強いですが、実は「壁を蹴る力」がタイムを大きく左右します。スタートの飛び込みや、ターンの後の壁の蹴り出しで勢いをつけるために、下半身の強さは欠かせません。
スクワットは、単に足の筋肉を鍛えるだけでなく、股関節を正しく使う練習にもなります。足を肩幅に開き、背筋を伸ばしたまま、椅子に座るようにお尻を後ろに引いてしゃがみます。このとき、膝がつま先よりも前に出すぎないように注意しましょう。
正しいスクワットができるようになると、壁を強く蹴れるようになるだけでなく、平泳ぎのキックの威力も増します。まずはゆっくりと10回〜15回程度から始めてみてください。
肩の可動域を広げる「肩甲骨ストレッチ」
水泳、特にクロールやバタフライ、背泳ぎでは、腕を大きく回す動作が必要です。このとき、腕だけを回すのではなく「肩甲骨」から大きく動かすことが、大きな推進力を生む鍵となります。
肩甲骨が硬いと、無理に腕を回そうとして肩を痛める原因にもなります。家では、タオルを使ったストレッチがおすすめです。
全身の連動性を高める「ジャンプ系メニュー」
最後に紹介するのは、瞬発力と全身の連動性を高めるジャンプ運動です。水泳のスタート動作は、静止状態から一気に爆発的な力を発揮する必要があります。この感覚を養うのにジャンプは最適です。
例えば、「スクワットジャンプ」や、その場で縄跳びをする(エア縄跳びでもOK)運動が効果的です。また、ラジオ体操にあるような、手足を大きく広げて閉じる「ジャンピングジャック」もおすすめです。
これらの運動は、足の裏で地面を捉え、その力を全身に伝えて跳ね上がる感覚を養います。この「地面からの反発をもらう感覚」は、水中での「水を捉えて前に進む感覚」や、ターンで壁を蹴る瞬間の力発揮と密接に関係しています。ドタバタと着地するのではなく、忍者のように静かに、かつバネのように弾むことを意識させてあげてください。
スイミングが速くなるための柔軟性と体の使い方

筋トレというと「力をつけること」ばかりに目が行きがちですが、水泳においては「柔軟性」と「体の使い方」が筋力以上に重要です。筋肉が車でいうエンジンの役割なら、柔軟性やフォームはタイヤやボディの性能にあたります。どれだけエンジンが大きくても、タイヤが回らなければ車は速く走りません。
ここでは、速く泳ぐために欠かせない柔軟性と、それを活かした体の使い方について解説します。
ストリームライン(けのび)の質を高める姿勢
水泳の基本中の基本であり、トップ選手ほど大切にしているのが「ストリームライン(けのびの姿勢)」です。両手を頭の後ろで組み、耳を腕で挟んで、指先から足先までを一直線にする姿勢のことです。
この姿勢が完璧に取れるだけで、水の抵抗は激減し、同じ力で泳いでもタイムは縮まります。しかし、肩周りが硬いと腕が耳の後ろにいかず、頭が出てしまったり、背中が反ってしまったりします。また、腹筋が弱いと腰が反ってしまい、ブレーキがかかる姿勢になってしまいます。
家では、壁に背中をつけて立ち、かかと、お尻、肩、後頭部、そして上げた両手の甲がすべて壁につくかチェックしてみましょう。これが窮屈でなく自然にできるようになることが、速くなるための第一歩です。
足首と股関節の柔軟性の重要性
水泳のキック(バタ足やドルフィンキック)において、足首の柔らかさは「ヒレ」の大きさに直結します。足首が硬く、足の甲が伸びない状態だと、水を後ろに蹴り出すことができず、ただ水をかき乱すだけになってしまいます。
また、股関節の柔軟性も重要です。股関節が硬いと、キックの振り幅が小さくなるだけでなく、平泳ぎのキックで正しい角度を作ることができません。特に最近の子供たちは、和式トイレを使う機会が減ったことなどから、しゃがみ込む動作が苦手で股関節が硬い傾向にあります。
お風呂上がりに、足首をゆっくり回したり、正座の状態から後ろに倒れて太ももの前を伸ばしたり、足の裏を合わせて股関節を開くストレッチを習慣にしましょう。「柔らかい鞭(ムチ)」のような脚を作ることが、強力なキックを生み出します。
連動性を高めるコーディネーショントレーニング
「陸上でできない動きは、水中でもできない」とよく言われます。例えば、右手と左手で違う動きをしたり、手と足のリズムを合わせたりする能力を「コーディネーション能力」と言います。
水泳は、右手で水をかきながら、左手は前に伸ばし、足はキックを打ち続け、さらに顔を横に向けて息継ぎをするという、非常に複雑なマルチタスクを行っています。筋力があっても泳ぎがぎこちない子は、この身体の連動性がスムーズでないことが多いのです。
遊び感覚で構いませんので、例えば「ケンケンパ」などの昔ながらの遊びや、ボールを使った運動を取り入れてみてください。自分の体をイメージ通りに動かす神経回路を養うことは、新しい泳法を習う際の飲み込みの早さ(センス)に直結します。
子供が筋トレを行う際の注意点と怪我の予防

子供の体は大人のミニチュアではありません。骨も筋肉も成長の真っ最中で、非常にデリケートです。良かれと思って行ったトレーニングが、逆にお子様の成長を阻害したり、怪我の原因になったりしては本末転倒です。
親御さんが必ず知っておくべき、子供のトレーニングにおける安全管理と注意点について解説します。
成長痛や関節への負担を避けるルール
成長期の子供に最も避けさせたいのが、関節への過度な負荷です。特に「オスグッド病」のような成長痛や、腰の分離症などは、オーバーユース(使いすぎ)や不適切なトレーニングが引き金になることがあります。
絶対に避けるべきなのは、重すぎるダンベルを持たせることや、無理な回数を強要することです。子供の骨の端には「骨端線(成長線)」という軟骨組織があり、ここが骨の成長を司っています。過度な負荷でここを傷つけると、成長障害につながるリスクがあります。
「自重(自分の体重)」でのトレーニングを基本とし、痛みが出たらすぐに中止する勇気を持つことが大切です。「痛いけど頑張る」は、この時期のトレーニングにおいては美徳ではありません。
正しいフォームが回数よりも重要な理由
子供は競争が好きなので、「今日は腹筋を100回やった!」といった回数を自慢したがることがあります。しかし、間違ったフォームで行う100回よりも、正しいフォームで行う10回の方が、はるかに効果的で安全です。
例えば、腹筋運動の際に首ばかりに力を入れてしまうと、お腹ではなく首を痛めてしまいます。スクワットで膝が内側に入ると、膝の靭帯を痛める原因になります。
親御さんは、回数を褒めるのではなく、「背中がまっすぐで綺麗だったね」「膝の位置が完璧だったよ」と、フォームの美しさを褒めてあげてください。正しいフォームが身につけば、自然と回数はこなせるようになります。
休息も練習の一部!オーバートレーニングを防ぐ
熱心な子供や親御さんほど、毎日休まずトレーニングをしたくなるものです。しかし、筋肉は「トレーニングで刺激を与え、休息中に修復されて強くなる」というサイクルを持っています。
特にスイミングスクールに週4日も5日も通っている場合、子供の体は常に疲労状態にあります。そこにさらに自宅でのハードな筋トレを追加すると、回復が追いつかず、パフォーマンスが落ちる「オーバートレーニング症候群」や、免疫力が下がって風邪を引きやすくなる原因になります。
メモ:休息の目安
スイミングの練習がない日を「完全休養日」にするか、ストレッチだけを行う日に設定しましょう。また、睡眠時間は小学生なら9時間以上、中学生でも8時間以上を確保することが、強い体を作るための最強のトレーニングです。
トレーニング効果を最大化する食事と生活習慣

「トレーニング・栄養・休養」は、体を強くするための三本柱です。どんなに良いトレーニングをしても、材料となる栄養がなければ筋肉はつきませんし、体も大きくなりません。
ここでは、水泳を頑張る子供たちにとって特に大切な食事のポイントと生活習慣について紹介します。
筋肉の修復と成長に欠かせない「タンパク質」
運動後の体は、傷ついた筋肉を修復するためにタンパク質を必要としています。成長期の子供は、身長を伸ばすためにもタンパク質が必要です。
肉、魚、卵、大豆製品、乳製品などを毎食バランスよく取り入れましょう。「プロテインサプリメントは飲ませてもいいの?」という疑問をよく耳にしますが、基本的には食事から摂るのが理想です。しかし、食が細くて十分な量が食べられない場合や、練習直後に食事が摂れない場合などは、ジュニア用のプロテインを補助的に活用するのも一つの方法です。
ジュニアプロテインには、タンパク質だけでなく、成長に必要なカルシウムやビタミンも含まれているものが多いので、おやつの代わりに活用するのも良いでしょう。
練習前後の食事のタイミングと内容
水泳は消費カロリーが非常に高いスポーツです。エネルギー切れ(ガス欠)の状態で泳ぐと、体は筋肉を分解してエネルギーに変えてしまうため、せっかくの練習が逆効果になりかねません。
練習の効果を最大化するための食事タイミングの目安を以下にまとめました。
| タイミング | 目的 | おすすめの食べ物 |
|---|---|---|
| 練習開始の 1〜2時間前 |
エネルギー補給 | おにぎり、バナナ、うどん、カステラなど (消化が良く炭水化物が多いもの) |
| 練習直後 (30分以内) |
疲労回復・筋肉修復 | 100%オレンジジュース、牛乳、鮭おにぎり、 ゆで卵、ジュニアプロテイン |
| 帰宅後の夕食 | 体作り・成長 | 肉や魚のメイン料理、野菜、ご飯、汁物 (バランスの良い定食スタイル) |
特に重要なのが「練習直後の補給」です。練習が終わってから家に帰って夕食を食べるまでに時間が空く場合は、着替えた後にすぐにおにぎりやバナナなどを少し口にするだけで、翌日の疲労感が全く違います。
成長ホルモンを分泌させる睡眠の質
「寝る子は育つ」ということわざは、科学的にも真実です。骨や筋肉を成長させる「成長ホルモン」は、深い眠りの間に最も多く分泌されます。
最近はスマホやゲームの影響で夜更かしをする子供が増えていますが、睡眠不足は集中力の低下を招き、練習中の怪我のリスクを高めます。また、メンタル面でもイライラしやすくなり、スランプの原因にもなります。
就寝の1時間前にはスマホの画面を見るのをやめ、お風呂にゆっくり浸かってリラックスする習慣を作りましょう。質の高い睡眠こそが、ライバルに差をつける秘密兵器なのです。
水泳と子供の筋トレに関するまとめ
ここまで、水泳を頑張る子供たちに必要な筋トレ(陸上トレーニング)の方法や注意点について解説してきました。最後に、重要なポイントを振り返りましょう。
まず、子供の筋トレは、大人のように「筋肉を大きくする」ことが目的ではありません。「自分の体を思った通りに動かす神経を育てること」そして「水の抵抗を減らすきれいな姿勢(ストリームライン)を作ること」が最大のゴールです。
自宅で行うメニューとしては、体幹を鍛える「プランク」、壁を蹴る力を養う「スクワット」、肩の動きを良くする「肩甲骨ストレッチ」などが効果的です。これらを、回数よりも「正しいフォーム」で行うことを親子で意識してください。
そして、トレーニングと同じくらい大切なのが「栄養」と「休息」です。練習後の素早いエネルギー補給や、十分な睡眠時間の確保が、怪我を防ぎ、健やかな成長とタイム向上を支えます。
水泳のタイムが伸びると、子供はもっと水泳が好きになります。家庭でのサポートは、技術的な指導よりも、環境づくりと励ましの言葉が一番の力になります。焦らず楽しみながら、お子様の「速くなりたい!」という気持ちを応援してあげてくださいね。



