「また子供がスイミングに行きたくないと言い出した……」
「すぐに辞めたいと言うけれど、ここで辞めさせたら『辞め癖』がついてしまうのではないか?」
水泳はお子さんの習い事として非常に人気がありますが、同時に「辞めたい」という声が上がりやすい習い事でもあります。親御さんとしては、せっかく始めたのだから続けてほしい、辛いことから逃げる子になってほしくない、と悩むのは当然のことです。
しかし、子供が「辞めたい」と言う背景には、単なるワガママではない、切実な理由が隠れていることも少なくありません。ここで無理強いをしてしまうと、かえって水泳そのものがトラウマになったり、親子関係がギクシャクしてしまったりすることもあります。
この記事では、水泳における子供の「辞め癖」の正体や、親ができる具体的なサポート方法について、やさしく解説していきます。焦らず、お子さんの気持ちに寄り添いながら、ベストな解決策を一緒に探していきましょう。
水泳で「辞め癖」がついてしまう原因とは

まずは、なぜ水泳という習い事は、これほどまでに子供たちに「辞めたい」と言わせるのか、その原因を探ってみましょう。他の習い事とは少し違う、水泳特有の事情が見えてきます。
なかなか合格できない「進級テスト」の壁
多くのスイミングスクールでは、帽子やワッペンの色が変わる「進級テスト」が毎月のように行われます。最初のうちはトントン拍子に進んでいた子も、クロールの息継ぎや平泳ぎのキックなど、技術的に難しい段階に入ると、何ヶ月も合格できないという状況に陥りがちです。
子供にとって、毎月「不合格」を突きつけられるのは大きなストレスです。周りの友達が先に進級していく中で、自分だけ同じ色の帽子のままでいることは、大人が思う以上にプライドを傷つけられる経験となります。この「停滞感」こそが、やる気を失わせる最大の原因の一つです。
単調な反復練習による飽き
水泳の練習は、基本的に反復練習です。サッカーや野球のようにゲーム性があるわけではなく、ひたすらプールの中を往復するというメニューが中心になります。特に、ある程度泳げるようになると、練習距離が伸び、ひたすら泳ぎ続ける時間が増えます。
「上手になりたい」という明確な目標を持っている子なら耐えられますが、なんとなく通っている子にとっては、この単調さが苦痛になります。「ただ泳ぐだけでつまらない」「遊びの要素がなくなった」と感じ始めると、スクールに行く足取りが重くなってしまいます。
寒さや疲労などの身体的ストレス
プールの中は、どんなに温水といっても体温よりは低い温度です。冬場の着替えの寒さや、水に入った瞬間の冷たさは、子供の身体にとって小さくないストレスになります。また、水泳は全身運動であり、水の抵抗を受けながら動くため、陸上の運動よりもエネルギーを消費します。
学校生活で疲れているところに、さらに体力を削られるスイミングに行くのは、子供にとって「しんどい」ことなのです。「行けば楽しいけれど、行くまでが億劫」という状態は、この身体的な負担感が影響しているケースが多いでしょう。
友達関係や孤独感
水泳は個人競技です。練習中は水の中に顔をつけているため、友達とおしゃべりをする時間はほとんどありません。もし仲の良い友達が辞めてしまったり、クラスが変わってしまったりすると、スクールでの楽しみが一気に減ってしまいます。
「孤独な練習に耐えてまで、通う意味がわからない」と子供が感じてしまうと、モチベーションを維持するのは難しくなります。特に高学年になると、友達と遊ぶ時間のほうが魅力的に映り、比較して辞めたくなることも増えてきます。
「辞め癖」なのか「一時的な不調」なのかを見極める

子供が「辞めたい」と言ったとき、それが本当に辞めるべきタイミングなのか、それとも一時的なスランプなのかを見極めることが重要です。以下のポイントを観察してみてください。
練習から帰ってきた後の表情や様子
「行きたくない」とぐずっていても、いざ行って帰ってきたら「楽しかった!」「今日はタイムが縮まった!」と笑顔で話していることはありませんか?この場合、水泳そのものが嫌いなわけではなく、行く前の「面倒くささ」や「一時的な気分の落ち込み」である可能性が高いです。
逆に、帰宅後も表情が暗かったり、練習の話を一切したがらなかったりする場合は要注意です。スクールで何か嫌なことがあったか、精神的に限界を感じているサインかもしれません。
「辞めたい」と言う頻度とタイミング
進級テストに落ちた直後や、寒い冬の日の朝だけ「辞めたい」と言うのであれば、それは一時的な感情の発露であることが多いです。悔しさや不快感を「辞めたい」という言葉で表現しているだけかもしれません。
しかし、特に嫌なことがあったわけでもないのに、日常的に、冷静なトーンで「もう辞めたい」と訴え続けてくる場合は、本人の意思が固まっている可能性があります。この場合は、ただのワガママと片付けず、真剣に話し合う必要があります。
具体的な理由が言えるかどうか
「先生が怖い」「平泳ぎがどうしても足に合わない」など、具体的な理由が出てくる場合は、その問題を解決すれば続けられる可能性があります。対策が打てる分、まだ継続の余地があります。
一方で、「なんとなく嫌だ」「全部がつまらない」といった漠然とした理由が続く場合や、理由を聞いても黙り込んでしまう場合は、水泳に対する情熱そのものが冷めてしまっているか、親に言えない悩みを抱えている可能性があります。
親としてできるサポートと声かけの工夫

「辞め癖」を心配して、頭ごなしに「ダメ!」と否定するのは逆効果です。子供の気持ちを受け止めつつ、前向きな解決策を探るための具体的なアクションを紹介します。
まずは否定せずに「聴く」ことに徹する
子供が「辞めたい」と言ったら、まずは「そうなんだ、辞めたいんだね」と気持ちを一度受け止めてあげてください。「せっかく続けたのに」「月謝がもったいない」という親の都合は一旦脇に置きましょう。
その上で、「どうしてそう思うようになったの?」「何か嫌なことがあった?」と優しく掘り下げていきます。自分の気持ちを否定されずに聞いてもらえたと感じるだけで、子供の心は落ち着き、本当の理由を話してくれるようになります。理由がわかれば、対処法も見えてきます。
「期間限定」や「小さな目標」を提案する
「ずっと続ける」と思うと気が遠くなりますが、「あと2ヶ月だけ頑張ってみない?」「次のテストを受けるまでやってみよう」というように、期間や目標を短く区切ることで、モチベーションが復活することがあります。
「クロールが25メートル泳げるようになったら辞めてもいいよ」といった、明確な「卒業ゴール」を設定するのも効果的です。これなら「途中で投げ出した」という挫折感ではなく、「目標を達成して卒業した」という成功体験として終わらせることができます。
この「終わりが見える」という感覚は、子供にとって大きな安心材料になります。
思い切って「お休み」を挟んでみる
どうしても行きたくない日は、思い切って一度休ませてみるのも一つの手です。無理やり連れて行って泣き叫ばれるよりも、「一回休んでリフレッシュしよう」と提案する方が、長期的にはプラスになることもあります。
一週間プールから離れることで、「やっぱり泳ぎたいな」と思うかもしれませんし、逆に「水泳がない生活のほうが自分らしい」と気づくかもしれません。どちらに転んでも、子供自身が自分の気持ちを確認する良い機会になります。
メモ:
休む際は、「今日休む代わりに、来週は必ず行こうね」といった約束をセットにするのがポイントです。ズルズルと休み癖がつかないよう、メリハリをつけましょう。
曜日やクラス、スクールを変えて環境を一新する
「水泳」が嫌なのではなく、「今のクラスの雰囲気」や「今のコーチ」が合わないというケースも多々あります。その場合、通う曜日を変えてメンバーを一新したり、思い切って別のスイミングスクールに移籍したりすることで、嘘のように生き生きと泳ぎ出すことがあります。
環境を変えることは「逃げ」ではありません。自分に合った環境を探すための前向きな行動です。スクールの受付で相談すれば、クラス変更や担当コーチの変更が可能か教えてくれるはずです。
コーチに相談して連携をとる
親だけで悩まず、スクールのコーチに相談してみましょう。コーチはたくさんの子供たちを見てきたプロです。「最近モチベーションが下がっているようで……」と伝えれば、レッスン中に声をかけたり、指導の仕方を工夫したりしてくれます。
「実は○○君、最近すごくフォームが綺麗になってきているんですよ」といった、親が気づいていない成長ポイントを教えてくれることもあります。それを子供に伝えてあげることで、自信を取り戻すきっかけになるかもしれません。
水泳を続けることで得られる「辞めない力」

もし、さまざまな工夫をしてお子さんが「もうちょっと頑張ってみる」と言ってくれたなら、それは素晴らしいチャンスです。壁を乗り越えて水泳を続けることで、将来に役立つ大きな力が育ちます。
「壁」を乗り越えたという自己肯定感
水泳の進級テストは、大人から見れば小さなステップかもしれませんが、子供にとっては大きな「壁」です。何度も不合格になりながら、それでも練習してついに合格した時の喜びは格別です。
「自分は努力すれば壁を乗り越えられる」という経験は、確かな自信(自己効力感)となります。この自信は、将来受験勉強や仕事で困難にぶつかったときに、「自分ならきっと大丈夫」と踏ん張るための心の土台になります。
基礎体力と精神的なタフさ
水泳は「全身運動」であり、心肺機能を強くし、基礎体力を飛躍的に向上させます。風邪を引きにくい丈夫な身体を作ることは、勉強や他の活動に打ち込むための資本となります。
また、苦しい練習に耐えること、寒い日もプールに行くこと、タイムという客観的な数字と向き合うことは、精神的なタフさを養います。やりたくない日があってもコツコツ続ける「習慣の力」は、一生の財産になるでしょう。
自分なりの「努力の仕方」を学ぶ
水泳は、ただガむしゃらに頑張れば速くなるわけではありません。「どうすればもっと楽に息継ぎができるか」「どうすれば水に乗れるか」を頭で考え、体を工夫して動かす必要があります。
スランプに陥ったときに、自分で考えて工夫し、試行錯誤するプロセスを経験することは、問題解決能力を育てることにつながります。親御さんが「どうすれば上手くいくかな?」と一緒に考えてあげることで、その力はさらに伸びていくでしょう。
どうしても辞めたい場合の判断基準と次のステップ

ここまで「続けるための工夫」をお伝えしてきましたが、それでもどうしても辞めたい場合もあります。その際の判断基準と、辞めた後の考え方についてお話しします。
心身に不調が出ているなら無理は禁物
もしお子さんが、スイミングの日になるとお腹が痛くなる、夜泣きをする、食欲が落ちるといった身体的な症状を出している場合は、限界のサインです。これ以上無理をさせると、心に深い傷を負ってしまう可能性があります。
このレベルまで達しているなら、「辞め癖がつく」といった心配は捨てて、お子さんの心身を守ることを最優先にしてください。「よく頑張ったね」と認めてあげて、休息をとらせることが重要です。
「逃げ」ではなく「卒業」として終わらせる
辞めることになったとしても、それを「挫折」として終わらせない工夫が大切です。「嫌だから辞める」ではなく、「ここまで頑張ったから卒業する」という形に持っていきましょう。
例えば、「今月いっぱいは通って、先生やお友達にきちんとお別れを言おう」と約束し、最後の日まで通い切るのです。そうすれば、子供の中にも「最後までやり遂げた」という達成感が残り、次のステップへ前向きに進むことができます。
前向きな辞め方の例:
× 「もう行きたくないから今日で辞める」
○ 「3月のテストまで頑張って、区切りをつけて卒業する」
次の目標や興味を見つけてから辞める
水泳を辞める条件として、「次に何を頑張るか」を話し合っておくのも良い方法です。「水泳は辞めるけれど、その代わりに空いた時間で好きな絵をたくさん描く」「次はサッカーに挑戦してみる」など、エネルギーを向ける先を用意しておきましょう。
何かに打ち込んでいる状態が続けば、それは「辞め癖」ではなく、「自分に合った道を探すための選択」になります。いろいろな世界を知ることは、子供の可能性を広げることでもあります。
まとめ:水泳の辞め癖と上手に向き合い成長につなげよう
子供が水泳を「辞めたい」と言い出したとき、親としては焦りや不安を感じるものです。しかし、それは子供が成長過程でぶつかる壁であり、自分自身の気持ちと向き合っている証拠でもあります。
大切なのは、すぐに「続けるか、辞めるか」の二択を迫るのではなく、その言葉の裏にある「原因」を一緒に探ってあげることです。進級の停滞、練習の飽き、身体的な辛さなど、理由がわかれば対策も立てられます。
もし続けることになれば、壁を乗り越える貴重な経験になりますし、たとえ辞めることになったとしても、「卒業」という形で前向きに締めくくれば、それは次のステップへの足がかりになります。
「辞め癖」がつくと恐れすぎず、お子さんの「今」の気持ちに寄り添って、親子で納得できる答えを見つけていってくださいね。



