健康維持やダイエット、趣味として水泳を楽しむ人が増えている昨今、特に週末や平日の夜間は多くの人で賑わいます。そんな「プール混雑時」において、何よりも大切になるのが利用者同士の「マナー」です。
「泳いでいたらぶつかりそうになった」「休憩していたら邪魔だと言われた」といったトラブルは、ほんの少しの知識と配慮があれば防ぐことができます。お互いが気持ちよく利用するために、どのような点に気をつければよいのでしょうか。
この記事では、初心者が迷いやすいコース内のルールから、意外と知らない更衣室での振る舞いまで、具体的かつやさしく解説していきます。安全で快適なスイミングライフを送るためのヒントを、ぜひ見つけてください。
1. プール混雑時に守るべき基本マナーとコース内のルール

プールが混雑しているとき、最もトラブルが起きやすいのがコース内でのすれ違いや位置取りです。ここでは、すべてのスイマーが知っておくべき基本的な交通ルールについて解説します。
右側通行・左側通行のルールを厳守する
日本の多くのプールでは、コース内での「右側通行」または「左側通行」が決められています。これは、自動車の運転と同じように、正面衝突を避けてスムーズに流れを作るための最も重要なルールです。
一般的には「右側通行(往復コースの場合、行きの人は右側、帰りの人はその人から見て右側)」を採用している施設が多いですが、施設によってルールは異なります。必ずプールサイドの掲示板や、コースロープの端にある表示を確認してから入水しましょう。
混雑時は特に、このラインを守ることが重要です。自分の泳ぎに夢中になってセンターライン(コースの中央)を越えてしまうと、対向から来るスイマーと正面衝突する危険があります。常にコースロープに近い側を泳ぐ意識を持ち、反対側から来る人のスペースを確保するように心がけてください。
コースの端で休む際の位置取り
泳ぎ疲れたときや、セット間の休憩をとるとき、壁際のどこに立つかは非常に重要なマナーです。多くの初心者がやってしまいがちなのが、壁の中央で休んでしまうことです。
壁の中央は、泳いでくる人が「ターン」をするための場所であり、ゴールタッチをする場所でもあります。ここに人が立っていると、泳いできた人はターンができず、急ブレーキをかけなければなりません。これは衝突事故の原因にもなります。
休憩するときは、必ずコースの隅(コースロープ寄り)に身体を寄せてください。さらに言えば、身体を少し斜めにして、次に壁にタッチする人が入ってきやすいようにスペースを空けるのが上級者の配慮です。
混雑時には、壁際も休憩する人で溢れかえることがあります。そんなときは、無理に壁に張り付かず、一度プールサイドに上がって休憩するか、譲り合ってスペースを確保するようにしましょう。
無理な追い越しは避ける
自分のペースよりも遅い人が前にいるとき、追い越したくなる気持ちはわかります。しかし、混雑時のプールにおいて、無理な追い越しは最大のマナー違反であり、非常に危険な行為です。
隣のレーン(対向車線)には、向こうから泳いでくる人がいる可能性が高いです。その状況で追い越しをかけると、あなたと前を泳ぐ人、そして対向泳者の3人が横に並ぶことになり、コース幅が足りずに接触事故が起きます。
混雑しているときは「追い越し禁止」と考えておくのが無難です。
もし前の人が遅くて泳ぎにくい場合は、一度壁際で止まって距離を空けるか、コースを変えるなどの工夫をしましょう。「急がば回れ」の精神で、前の人のペースに合わせて泳ぐことも、混雑時ならではの練習の一つと捉えてみてください。
2. 泳ぎ出すタイミングと車間距離の重要性

プールの中では、前後の人との距離感(車間距離ならぬ泳間距離)を適切に保つことが、トラブル回避の鍵となります。ここでは、スタート時の配慮について深掘りします。
前の人との距離を適切に保つ
前の人がスタートした直後に、すぐ後ろを追いかけるようにスタートするのは危険です。水泳は推進力が一定ではないため、前の人が不意に失速したり、水を飲んで止まってしまったりすることがあります。
適切な距離としては、前の人が壁を蹴ってから「5秒〜10秒」程度空けるのが理想的です。距離にすると、少なくとも5メートル以上は間隔を確保したいところです。
この距離が近すぎると、前の人が蹴った水流(乱流)の影響を受けて泳ぎにくくなるだけでなく、前の人の足に自分の手が接触してしまう可能性があります。また、前の人も「後ろから突っつかれるのではないか」というプレッシャーを感じてしまい、安心して泳げません。
お互いが自分のペースでリラックスして泳ぐために、焦らず十分な間隔を空けてからスタートするようにしましょう。待っている時間は、呼吸を整えたりフォームの確認をしたりする有意義な時間になります。
スタート時は時計を確認する
多くのプールには、壁や高い位置に「ペースクロック(60秒計)」と呼ばれる大きな時計が設置されています。これは単に時間を見るためだけのものではなく、泳ぎ出すタイミングを計るための重要なツールです。
例えば、「前の人が10秒のところで出たから、自分は20秒のところで出よう」というように、時計を見て正確に間隔を空けることができます。これによって、感覚だけに頼らず、確実な安全マージンを確保できるのです。
また、上級者や常連のスイマーは、この時計を見て「5秒間隔」や「10秒間隔」でサークル練習をしていることが多いです。もし、きりの良い秒数でスタートしようとしている人がいたら、その流れを乱さないように配慮することも大切です。
混雑時は特に、このペースクロックを活用して、周囲とリズムを合わせることで、驚くほどスムーズにコースが回るようになります。
コースに入る時は挨拶や合図を
既に誰かが泳いでいるコースに途中から入るときは、無言でドボンと入るのではなく、ひと声かけるか、目配せをするのがマナーです。
水の中では声が届きにくいですが、壁際で休んでいる人に「入りますね」と軽く会釈をするだけでも、お互いの印象は大きく変わります。これにより、「新しい人が入ってきた」という認識を共有でき、接触事故の予防にもつながります。
また、入水する際は、絶対に飛び込みや勢いよく入ることは避けてください。波が立って泳いでいる人の妨げになったり、予期せぬ衝突を招いたりします。プールサイドに座り、静かに足から入るようにしましょう。
「お互い様」の気持ちを持ってコミュニケーションをとることで、殺伐としがちな混雑時のプールも、気持ちの良い空間に変えることができます。
3. 接触トラブルを防ぐための具体的な対策

どれだけ気をつけていても、水の中では視界が限られるため、接触してしまうことがあります。ここでは、接触を防ぐための対策と、万が一接触してしまったときの対応について詳しく解説します。
前の人の足に触れてしまった時の対応
泳いでいる最中に、意図せず前の人の足に自分の手が触れてしまうことがあります。これは「タッチ」と呼ばれ、本来は避けるべきですが、混雑時には起こりうることです。
もし触れてしまった場合は、すぐに「すみません」と声をかけるか、動きで謝罪の意思を示しましょう。
泳ぎ続けている最中で声が出せない場合は、コースの端に寄って追い越してもらうのを待つか、次の壁に到着した際に必ず謝ることが大切です。無視して泳ぎ続けると、相手を不快にさせるだけでなく、「煽られている」と誤解される原因にもなります。
逆に、自分の足に誰かの手が触れた場合も、過剰に反応して怒ったりせず、冷静に対応しましょう。「ペースが合っていないな」と判断し、壁際で先に行かせるなどの譲り合いの精神がトラブルを防ぎます。
バタフライや平泳ぎなど幅をとる泳法の注意点
バタフライや平泳ぎは、クロールに比べて横幅を大きく使う泳法です。混雑時にこれらの泳ぎをする際は、細心の注意が必要です。
特にバタフライの両手を広げたリカバリーや、平泳ぎのキックは、すれ違う人や追い越そうとする人に接触すると大きな怪我に繋がる恐れがあります。混雑が激しいコースでは、これらの泳法を控えるか、あるいは「片手バタフライ」や「小さめの平泳ぎ」に切り替えるなどの配慮が求められます。
自分がこれらの泳法を行うときは、対向者が来ていないタイミングを見計らって泳ぐようにしましょう。対向者が来た瞬間に、ストロークを小さくしたり、キックの幅を狭めたりする技術的な配慮も、上級者としてのマナーです。
ターンをする際の周囲への確認
壁でのターン時は、視界が回るため周囲が見えにくくなります。しかし、実はここが最も事故が起きやすいポイントの一つです。
ターンをして壁を蹴り出す際、自分が進もうとしている方向に他の人が入ってきていないか、必ず目視で確認してください。特に、後続の人がすぐ後ろに迫っている場合、壁際で立ち止まろうとしている人と交錯する可能性があります。
クイックターンをする場合は特に注意が必要です。水中で回転する前に、前方の安全を確認し、壁を蹴った後のストリームライン(けのびの姿勢)で他の人とぶつからないラインを確保しましょう。
不安な場合は無理にクイックターンをせず、一度壁に手をつくタッチターンに切り替えて、安全を確実に確認してから再スタートすることをおすすめします。
急な進路変更やコース横断の危険性
泳いでいる途中で急にコースを変えたり、コースロープをくぐって隣のコースへ移動したりする行為は大変危険です。
水の中では、光の屈折やゴーグルの曇りなどで、周囲の状況が完全には把握できません。あなたが「いない」と思った場所に、潜水している人がいるかもしれません。コースを横切る行為は、水面に浮上してきた人と衝突するリスクが非常に高いです。
コースを変更したい場合は、必ず一度プールの壁際まで泳ぎ切ってから、コースロープの下を安全にくぐるようにしましょう。コースの途中での横断は、緊急時以外は避けるのが鉄則です。
また、ウォーキングコースなどで、急に横を向いて歩き出したり、後ろ向きに歩き出したりする場合も、必ず周囲を確認してから動作に移るようにしてください。
4. レベルや目的に合わせたコース選びの重要性

多くのプールでは、泳力や目的別にコースが分けられています。自分のレベルやその日の目的に合ったコースを選ぶことは、自分自身が快適に泳ぐためだけでなく、全体の安全を守るためにも不可欠です。
自分の泳力に合ったコースを選ぶ
プールには通常、「初心者コース」「中級者コース」「上級者コース」、あるいは「ゆっくり泳ぐコース」「速く泳ぐコース」といった表示があります。
自分の泳ぐスピードが、そのコースの平均的な流れと合っているかを確認しましょう。もし、自分が泳いでいて頻繁に追い越されるようであれば、一つゆっくりなコースに移るのが賢明です。逆に、前の人に頻繁に追いついてしまう場合は、速いコースへの移動を検討しましょう。
「空いているから」という理由だけで、自分の泳力と合わない上級者コースに入ってしまうと、練習熱心な速いスイマーたちのリズムを崩してしまい、お互いにストレスが溜まります。
自分の実力を客観的に判断し、その時々の混雑状況に合わせて柔軟にコースを選ぶことが、スマートなプールの利用方法です。
フリーコースと完泳コースの使い分け
多くの施設には、途中で立っても良い「フリーコース」と、25メートル(または50メートル)を泳ぎ切ることを前提とした「完泳コース」があります。
完泳コースで泳いでいる途中で立ってしまうと、後続の人のリズムを止めてしまいます。25メートルを泳ぎ切る自信がない場合や、途中でフォームの練習をしたい場合は、フリーコースを利用しましょう。
フリーコースは、ウォーキングをする人や、短い距離を練習する人が混在しています。ここでは「譲り合い」が基本ルールとなります。逆に、完泳コースでは「止まらずに泳ぎ続けること」が基本ルールです。
この使い分けをしっかりと理解し、自分の練習メニューに合わせてコースを移動することで、トラブルを未然に防ぐことができます。
歩行専用コースでのマナー
水中ウォーキングを楽しむ人のために設けられた「歩行専用コース」にも、独自のマナーが存在します。
まず、歩行コースでは絶対に泳がないことが原則です。泳ぐ動作は腕や足が大きく広がるため、歩いている人に接触すると怪我をさせてしまう恐れがあります。少しだけ浮いてみたい、といった場合でも、歩行コースでの遊泳は控えましょう。
また、おしゃべりに夢中になってコースを並列で塞いでしまうのもマナー違反です。混雑時は一列になって歩き、追い越しをする人のためのスペースを空けておくように心がけてください。
さらに、水しぶきにも配慮が必要です。激しく腕を振ったり、バシャバシャと音を立てて歩いたりすると、顔を水につけたくない利用者の迷惑になることがあります。静かに、周囲に配慮しながら運動を楽しみましょう。
5. 意外と見落としがちな更衣室や休憩エリアでの配慮

プールのマナーは、水の中だけではありません。更衣室やシャワー室、採暖室(サウナやジャグジー)といった陸上のエリアでも、周囲への気遣いが求められます。
濡れた体で更衣室に戻らない
プールから上がり、更衣室に戻る際、もっとも大切なのが「しっかりと身体を拭くこと」です。
水着から滴る水で更衣室の床が濡れていると、非常に滑りやすくなり危険です。特に高齢の方や子供が転倒すると、大きな事故につながりかねません。また、湿気がこもることでカビの原因や不衛生な環境を作ってしまいます。
更衣室に入る前のゾーン(乾燥室などと呼ばれる場所)で、必ずバスタオルやセームタオルを使って、身体と水着の水分を十分に拭き取ってください。絞れるくらいまで水分を落としてからロッカーに向かうのが、洗練されたスイマーのマナーです。
もし床を濡らしてしまった場合は、備え付けのモップなどで自ら拭き取る心掛けも大切です。
シャワーやドライヤーの独占を避ける
練習後のシャワーやドライヤーは、誰もが早く使いたいものです。しかし、数に限りがある設備を長時間独占するのは避けなければなりません。
特に混雑時は、シャワーブースに行列ができることもあります。シャンプーやボディソープの使用が許可されている施設でも、手短に済ませて次の方に譲るよう意識しましょう。自宅のお風呂のようにリラックスして長居する場所ではありません。
パウダールームのドライヤーも同様です。髪を乾かすための必要最低限の時間に留め、メイク直しや念入りなスタイリングは場所を変えて行うなどの配慮が必要です。
「次は自分が待っているかもしれない」と想像力を働かせ、譲り合いの気持ちで設備を利用しましょう。
共有スペースでの会話のボリューム
ジャグジーや採暖室、プールサイドのベンチなどの休憩エリアは、リラックスするための場所ですが、ここでの会話のボリュームにも注意が必要です。
仲間同士での会話は楽しいものですが、大きな声での談笑は、静かに休息を取りたい他の利用者にとっては騒音になりかねません。特に閉鎖的な空間であるサウナや採暖室では、声が響きやすいため一層の配慮が求められます。
また、昨今の感染症対策の観点からも、近距離での大声の会話は控えるのが新しいスタンダードとなっています。
会話をするなというわけではありませんが、周囲の人が本を読んでいたり、目を閉じて休んでいたりする場合は、声のトーンを落とすなど、その場の空気を読んだ行動を心がけましょう。
6. メンタル面の余裕が安全を生む

最後に、技術的なルール以上に大切な「心の持ち方」について触れておきます。混雑時のプールでイライラしないためのコツです。
「お互い様」の精神を持つ
どんなにマナーを守ろうとしていても、人間ですからミスは起きます。誰かの足に触れてしまったり、予想外の動きでぶつかりそうになったりすることは、混雑時には避けられないことです。
そんなとき、目くじらを立てて相手を睨みつけたり、舌打ちをしたりするのはやめましょう。相手もわざとやったわけではないはずです。
「今日は混んでいるから仕方ない」「自分もいつか迷惑をかけるかもしれない」という「お互い様」の精神を持つことで、自分自身のストレスも大幅に軽減されます。
笑顔で「大丈夫ですよ」と返せる余裕があれば、その場の雰囲気はとても良くなります。
混雑のピーク時間を避ける工夫
どうしても混雑がストレスになる場合は、利用する時間帯を変えてみるのも一つの手です。
一般的に、平日の18時〜20時や、土日の昼間は混雑のピークとなります。逆に、閉館間際の1時間や、平日の昼間、早朝などは比較的空いていることが多いです。
自分のライフスタイルに合わせて、少し時間をずらすだけで、驚くほど快適に泳げるようになるかもしれません。施設のスタッフに「空いている時間帯」を尋ねてみるのも良いでしょう。
監視員の指示には必ず従う
プールには、安全を守るためのプロである監視員(ライフガード)がいます。彼らは全体の状況を把握し、危険の芽を摘むために指示を出します。
もし監視員から注意を受けたり、コース変更の指示があったりした場合は、素直に従ってください。「自分は大丈夫」という過信は禁物です。
また、マナー違反をして危険な行為を繰り返している人がいて困っている場合は、直接その人に注意するのではなく、監視員に相談しましょう。直接の注意はトラブルの原因になりやすいですが、監視員を通すことで角を立てずに解決できることが多いです。
プールの混雑時もマナーを守って快適に利用しましょう
プールの混雑時に大切なのは、高度な泳力ではなく、周囲への「気配り」と「思いやり」です。
今回ご紹介したマナーは、どれも難しいことではありません。右側通行を守る、壁際を空ける、無理な追い越しをしない、といった基本的なルールを一人ひとりが意識するだけで、プールは驚くほど安全で快適な空間になります。
特に、初心者のうちは色々と不安なこともあるかと思いますが、まずは「ぶつからないように気をつける」「譲り合いの気持ちを持つ」ことから始めてみてください。ベテランのスイマーも、かつては初心者でした。一生懸命にマナーを守ろうとしている姿は、周囲にも好意的に受け入れられるはずです。
水泳は、心身ともにリフレッシュできる素晴らしいスポーツです。混雑した状況でもイライラせず、譲り合いの精神で、気持ちの良いスイミングライフを楽しんでください。


