プールで泳いでいると、「今日はサークル1分15秒で回ろう」といった会話を耳にしたことはありませんか。「サークル」と聞くと、大学の同好会や仲良しグループを想像する方も多いかもしれません。
しかし、水泳における「サークル」とは、練習の強度やペースを決めるための重要なトレーニング用語です。この仕組みを理解すると、ただ泳ぐだけだった時間が、ゲーム性を持った充実したトレーニングに変わります。
この記事では、水泳初心者の方に向けて、サークル練習の基本的な意味や時計の見方、そして実践するためのコツをやさしく解説していきます。用語の意味をしっかりと理解して、毎日の練習をより効果的なものにしていきましょう。
水泳の「サークル練習」とは?基礎知識をマスターしよう

まずは、水泳における「サークル練習」という言葉が持つ本来の意味について解説します。
初心者のうちは、距離を泳ぎ切ることやフォームを気にすることに精一杯になりがちですが、この概念を知ることで練習の質が大きく向上します。
「サークル」は仲間という意味ではありません
水泳の世界で使われる「サークル」という言葉は、決して「水泳サークル(同好会)」のことではありません。これは「インターバルトレーニング」を行う際の、1セットあたりの「持ち時間」のことを指しています。
具体的には、スタートしてから次のスタートまでの時間をあらかじめ決めておき、その時間内に「泳ぐ時間」と「休憩時間」の両方を収める練習方法です。
たとえば、「50メートルを1分サークルで泳ぐ」と決めたとしましょう。これは、50メートルを泳ぎ終わって休憩し、また次の50メートルをスタートするまでを「合計1分間」で行うというルールになります。
もし50秒で泳げば、残りの10秒が休憩時間になります。しかし、55秒かかってしまった場合は、休憩時間はわずか5秒しかありません。
このように、速く泳げば泳ぐほど休憩時間が長くなり、遅くなると休憩が短くなるのがサークル練習の大きな特徴であり、面白いところでもあります。
なぜ「サークル」と呼ばれるのか
では、なぜこの練習方法を「サークル」と呼ぶのでしょうか。その由来は、プールサイドに設置されている「ペースクロック」と呼ばれる大きな時計にあります。
プールの時計は通常、60秒で一周するアナログ時計が使われています。針がぐるっと円(サークル)を描いて一周することから、このサイクルを利用した練習を「サークル練習」と呼ぶようになりました。
時計の針が「上(0秒)」を指したときにスタートし、次にまた針が「上」に戻ってきたときに2本目をスタートする。このように、時計の円運動に合わせて泳ぐことから定着した呼び名です。
海外や競泳の専門的な場では「インターバル」と呼ばれることもありますが、日本のスイミングスクールやマスターズチームでは「サークル」という呼び方が一般的です。
時計の針の位置を意識しながら、決められたサイクルの中で泳ぎ続けることが、この練習の基本となります。
「休憩時間」と「サークル」の決定的な違い
初心者が最も勘違いしやすいのが、「休憩時間」と「サークルタイム」の混同です。ここを間違えると、練習の意図がまったく変わってしまいますので注意が必要です。
【間違いやすい例】
指示:「1分サークルで泳ぎましょう」
誤解:「1分間泳いで、そのあと1分間休憩するんだな」
正解:「泳ぐ時間と休憩時間を合わせて1分間なんだな」
もし「1分サークル」で「1分休憩」を取ってしまったら、それはサークル練習になりません。サークル練習における時間は、あくまで「次のスタートまでの時間」を含んだトータルの持ち時間です。
常に時計を確認し、「あと何秒で次のスタートが来るか」を計算しながら泳ぐ必要があります。最初は忙しなく感じるかもしれませんが、慣れてくるとリズムよく泳げるようになります。
この「サークル」と「休憩(レスト)」の違いを明確に理解することが、水泳上級者への第一歩と言えるでしょう。
練習メニューの読み方とサークルの計算方法

サークル練習の概念がわかったところで、次は実際にメニューボードに書かれている数字の読み方や、泳ぎながらの計算方法を覚えましょう。
最初は数字が並んでいて難しそうに見えますが、法則さえ覚えてしまえば、誰でも簡単に理解できるようになります。
メニュー表記の「×(かける)」の意味を知る
水泳の練習メニューは、ホワイトボードなどに数式のような形で書かれることがよくあります。代表的な表記を見てみましょう。
この表記は、「50メートルを4回泳ぎます。持ち時間は1本あたり1分15秒です」という意味になります。括弧の中の数字がサークルタイムを表しています。
この場合、1本目のスタートが0分00秒だとすると、2本目のスタートは1分15秒、3本目は2分30秒、4本目は3分45秒となります。
慣れないうちは、指導者が「次は50メートルを4本、1分15秒サークルで行きます」と口頭で説明してくれることが多いですが、自分でもボードを見て理解できるようになると、練習への意識が高まります。
また、表記によっては「50×4 @1:15」のように、アットマークを使ってサークル時間を表す場合もあります。どちらも意味は同じですので、慌てずに数字を確認してください。
ペースクロック(60秒計)の見方を攻略する
サークル練習に欠かせないのが、プールサイドにある「ペースクロック」です。普通の時計とは違い、秒針が非常に大きく見やすいのが特徴です。
多くのプールでは、秒針が4本(赤・黄・青・緑など)または2本ついているタイプが使われています。これは、前の人がスタートしてから5秒後や10秒後にスタートする際、自分の色の針を追いかけやすくするためです。
サークル練習では、主に以下の4つのポイント(針の位置)を基準にします。
- 上(0秒/60秒):時計の12時の位置。「トップ」とも呼ばれます。
- 右(15秒):時計の3時の位置。「クォーター」とも呼ばれます。
- 下(30秒):時計の6時の位置。「ボトム」や「半(ハン)」とも呼ばれます。
- 左(45秒):時計の9時の位置。
例えば「1分サークル」なら、毎回「上(0秒)」でスタートします。「1分30秒サークル」なら、1本目は「上」、2本目は「下」、3本目はまた「上」でスタートすることになります。
この針の位置関係を視覚的に覚えることが、計算を楽にするコツです。
泳ぎながら休憩時間を計算するテクニック
泳いでいる最中は酸欠状態になりやすく、複雑な計算をするのは難しいものです。そのため、スイマーたちは簡易的な計算方法を使っています。
例えば「1分10秒サークル」の場合を考えてみましょう。毎回10秒ずつスタート時間がずれていくため、暗算が大変そうに思えます。
この場合、「針の位置が10秒ずつ進む」と覚えるのが簡単です。1本目が「0秒(上)」スタートなら、次は「10秒」、その次は「20秒」の位置でスタートします。
また、ゴールした瞬間に時計を見て、次のスタートまでの残り時間を把握することも大切です。
【例:1分サークルで、50秒でゴールした場合】
ゴールした時に針が「50」を指しています。次のスタートは「0(60)」なので、残り時間は10秒だと瞬時に判断します。
このように、「何分何秒」という絶対的な時間よりも、「針がどこにあるか」「あと針がどれくらい進んだらスタートか」という、針の位置と間隔で捉えるのがコツです。
サークルに間に合わなかった時の対処法
練習を続けていると、疲れが溜まってきて設定されたサークルタイムに間に合わなくなることがあります。
例えば「1分サークル」なのに、泳ぎ終わったのが「58秒」や「1分02秒」になってしまった場合です。これでは休憩が取れないどころか、次のスタート時間が過ぎてしまっています。
このような場合は、無理をして遅れたまま追いかけるのではなく、1本お休みして調整するのが一般的なマナーです。
これを「1本飛ばす」や「1本落とす」と言います。無理に泳ぎ続けるとフォームが崩れたり、後ろから来る人の迷惑になったりする恐れがあります。
1本休んで呼吸を整え、次の正しいスタート時間に合わせて合流しましょう。指導者がいる場合は、一言「1本落とします」と伝えるとスムーズです。
なぜサークル練習をするの?得られる効果とメリット

「ただ長く泳ぐだけではダメなの?」「なぜわざわざ時間を区切って苦しい思いをするの?」と疑問に思う方もいるでしょう。
しかし、サークル練習には、ただ漫然と泳ぐだけでは得られない多くのメリットがあります。ここではその効果を詳しく解説します。
心肺機能とスタミナの向上
サークル練習の最大のメリットは、心肺機能の強化です。休憩時間を短く制限することで、心拍数が完全には下がりきらない状態で次の泳ぎを始めることになります。
これにより、体は「苦しい状態でも動き続ける」ことに慣れていきます。有酸素運動としての効果が非常に高く、長い距離を泳ぎ続けるための基礎的なスタミナ(持久力)が効率よく身につきます。
また、短い休憩で繰り返すことは、筋肉への負荷も適切にかかり続けるため、筋持久力の向上にもつながります。
最初は息が上がって辛いかもしれませんが、継続することで以前よりも楽に、長く泳げるようになっている自分に気づくはずです。これはダイエット目的の方にとっても、脂肪燃焼効率が上がるため嬉しい効果です。
ペース配分(ペース感覚)が身につく
長く泳ぐためには、一定のリズムとペースを保つことが不可欠です。サークル練習を行うと、自分がどのくらいのスピードで泳いでいるのかを常に時計で確認することになります。
「このくらいの力加減で泳ぐと50秒かかる」「もう少し力を抜いても55秒でいける」といった感覚が、数字として体感できるようになります。
この「体内時計」と「実際のタイム」のズレを修正していく作業が、ペース感覚を養います。ペース配分が上手くなると、前半に飛ばしすぎて後半バテてしまうといった失敗が減ります。
特に長い距離(1500mなど)を泳ぐ際には、このペース感覚が非常に重要になります。サークル練習は、自分自身をコントロールする能力を磨くための最適な練習なのです。
客観的な成長の指標になる
水泳は、自分の成長が目に見えにくいスポーツの一つです。しかし、サークル練習を取り入れることで、成長を数字で管理できるようになります。
たとえば、先月までは「50m×10本(1分10秒サークル)」がギリギリだったのに、今月は「1分05秒サークル」で回れるようになった、という具合です。
このように、具体的な数値目標ができることで、モチベーションを維持しやすくなります。「もっと楽に泳ぎたい」「もっと速いサークルで回りたい」という意欲が湧いてくるでしょう。
日々の体調の変化にも気づきやすくなります。「今日はいつものサークルがきついから、疲れが溜まっているのかもしれない」と、コンディション調整の目安にもなります。
集中力とメンタルの強化
サークル練習中は、常に時計を見ながら計算し、自分の泳ぎに集中する必要があります。「あと5秒でスタートだ」「前の人についていこう」と考えるため、余計なことを考えている暇がありません。
この「集中する時間」は、精神的なトレーニングにもなります。苦しい場面で諦めずに泳ぎ切る経験を積み重ねることで、メンタル面での強さが養われます。
また、決められたメニューをすべてこなし終えたときの達成感は格別です。「やりきった!」という自信は、水泳以外の日常生活においてもポジティブな影響を与えてくれるでしょう。
仲間と一緒に泳いでいる場合は、お互いに励まし合いながら乗り越えることで、連帯感や楽しさも生まれます。
練習中によく聞く専門用語と記号の意味

サークル練習のメニューには、単に距離と時間だけでなく、泳ぎ方を指定する専門用語が書かれていることがあります。
これらの用語を知っておくと、メニューの意図を深く理解でき、より質の高い練習が可能になります。代表的なものをいくつか紹介します。
「Des(ディセンディング)」:徐々に速く
Des(ディセンディング)は、本数を重ねるごとにタイムを上げていく(速くする)練習です。
例えば「50m × 4 (Des)」という指示があった場合、1本目より2本目、2本目より3本目と、徐々にスピードを上げていき、最後の4本目を一番速く泳ぎます。
英語の「Descend(下る)」が語源で、階段を降りるようにタイムを縮めていくイメージです。ペース配分のコントロール能力を磨くのに最適なメニューです。
最初はゆっくり入り、最後は全力に近いスピードで泳ぐため、ウォーミングアップの最後やメイン練習の導入としてよく取り入れられます。
「Build-up(ビルドアップ)」:1本の中で加速
Build-up(ビルドアップ)は、1本の泳ぎの中で、スタートからゴールに向かって徐々にスピードを上げていく練習です。
Desが「本数ごと」に速くするのに対し、ビルドアップは「距離の中」で加速します。例えば50メートル泳ぐ場合、最初の25メートルはゆったり泳ぎ、後半の25メートルでスピードを上げます。
後半の疲れてきたところでスピードを上げる必要があるため、スタミナ強化やラストスパートの練習になります。
フォームを崩さずにスピードを切り替える技術が必要とされるため、初心者から上級者まで幅広く行われる重要なドリルです。
「Negative Split(ネガティブスプリット)」:後半を速く
Negative Split(ネガティブスプリット)は、前半のタイムよりも後半のタイムを速く泳ぐことです。
例えば100メートル泳ぐ際、前半の50メートルを40秒で泳いだら、後半の50メートルはそれよりも速い39秒以内で泳ぐことを目指します。
通常は疲労で後半のタイムが落ちるものですが、あえて後半を上げることで、強い精神力と持久力を養います。
レース本番での「後半の粘り」を身につけるためには欠かせない練習概念です。
「DPS(ディーピーエス)」:ひと掻きの距離
DPS(Distance Per Stroke)は、1ストローク(ひと掻き)で進む距離を重視する練習です。
この指定がある場合は、タイムを気にすることよりも、いかに少ないストローク数で泳ぎ切るかに集中します。
効率の良いフォームを身につけることが目的です。水をしっかりと捉え、抵抗の少ない姿勢で長く滑るように泳ぐことが求められます。
慌てて手を回すのではなく、ゆったりと大きく泳ぐことで、水の感覚を研ぎ澄ませることができます。
初心者がサークル練習で挫折しないためのコツ

サークル練習は効果的ですが、慣れないうちは「ついていけない」「邪魔になるかも」と不安になるものです。
ここでは、初心者が無理なくサークル練習に参加し、継続するためのポイントやマナーについて解説します。
余裕のあるサークル設定から始める
最初からギリギリのタイム設定に挑戦する必要はありません。まずは、1本泳ぎ終わった後に10秒〜15秒程度の休憩が確保できるくらいの、余裕のあるサークルから始めましょう。
例えば、50メートルを平均50秒で泳げる人なら、1分サークル(60秒サークル)ではなく、1分10秒や1分15秒サークルからスタートします。
大切なのは「止まらずに決められた本数を泳ぎ切る」ことです。途中でバテてフォームが崩れてしまうより、余裕を持ってきれいなフォームで完泳する方が、練習効果は高くなります。
慣れてきたら、徐々にサークルタイムを短くしていき、自分に負荷をかけていきましょう。
フォームを崩してまで速く泳がない
サークル練習でよくある失敗が、時計を気にするあまり、フォームが雑になってしまうことです。
特に疲れが出てくる後半は、腕だけで水を掻こうとしたり、姿勢が下がったりしがちです。しかし、崩れたフォームで何本泳いでも、悪い癖がつくだけで逆効果になりかねません。
「タイムに間に合わせなきゃ」と焦る気持ちはわかりますが、初心者のうちはタイムよりも「丁寧な泳ぎ」を優先してください。
もしサークルに間に合わなくなったら、前述したように1本スキップして呼吸を整え、きれいなフォームを取り戻してから再開する勇気を持ちましょう。
集団で泳ぐ時の「5秒ルール」を守る
サークル練習を複数人(チームやレッスン)で行う場合は、前の人との間隔を空けてスタートするのが基本マナーです。
一般的には、前の人がスタートしてから「5秒後」に次の人がスタートします。これを「5秒間隔」と呼びます。
時計の針が「上(0秒)」で先頭の人が出たら、2番目の人は「5秒」、3番目の人は「10秒」でスタートします。自分のスタート時間を間違えないように注意しましょう。
間隔を詰めすぎると、前の人の足に触れてしまったり、波の影響を受けたりして泳ぎにくくなります。適切な距離を保つことで、お互いに気持ちよく練習ができます。
追い越しや順番の譲り合いを知っておく
同じレーンで泳いでいると、どうしても泳力差によって追いついたり、追いつかれたりすることがあります。
もし後ろから速い人が来て、足に手が触れたり気配を感じたりした場合は、壁際(ターンする場所)でコースの端に寄り、先に行かせてあげましょう。
逆に自分が前の人に追いついてしまった場合は、無理に追い越そうとせず、足に軽く触れる(タッチする)などして合図を送るか、そのまま距離を保って泳ぎ、壁際で順番を入れ替わってもらいます。
コースの右側を泳いで往復する「右側通行」などのルールがそのプールごとに決まっているはずですので、事前に確認しておくと安心です。
サークル練習は自分との戦いですが、周りへの配慮も忘れないことが、スマートなスイマーへの条件です。
まとめ:水泳のサークル練習を取り入れてレベルアップを目指そう
今回は、水泳の「サークル練習」について、その意味や実践方法、時計の見方などを解説しました。
最初は難しく感じるかもしれませんが、サークル練習の仕組みは一度理解してしまえば非常にシンプルです。「サークル」とは休憩時間のことではなく、次のスタートまでの持ち時間であることを忘れないでください。
この練習方法を取り入れることで、心肺機能が強化され、ペース配分が上手くなり、何より日々の練習に明確な目標が生まれます。「今日はこのタイムで回り切れた!」という達成感は、水泳を続ける大きなモチベーションになるはずです。
プールサイドの大きな時計は、ただ時間を知らせるためだけのものではなく、あなたの最高のトレーニングパートナーです。ぜひ次回の練習から、時計の針を意識して泳いでみてください。きっと今までとは違う、充実した水泳ライフが待っています。

