「もっと楽に、長く泳げるようになりたい」
「練習を頑張っているのに、タイムがなかなか縮まらない」
「泳いだ後に肩や腰が痛くなることが多い」
もしあなたがこのような悩みをお持ちなら、それは泳ぎの技術不足ではなく、体の内側にある筋肉、「インナーマッスル」の使い方が原因かもしれません。
水泳は、水の抵抗を受けながら全身を使って進むスポーツです。力任せに手足を動かすだけでは、すぐに疲れてしまいますし、怪我のリスクも高まります。そこで重要になるのが、体の深層部で骨格や関節を支えるインナーマッスルです。
この記事では、水泳におけるインナーマッスルの重要性から、自宅でできる簡単なトレーニング方法、そして実際に泳ぐときに意識すべきポイントまで、初心者の方にもわかりやすく解説します。
インナーマッスルを正しく使えるようになれば、あなたの泳ぎは劇的に変わります。まるで水と一体になったような、スムーズで力強い泳ぎを手に入れましょう。
水泳でインナーマッスルが重要視される4つの理由

水泳の指導現場や雑誌などで「インナーマッスル」という言葉をよく耳にするようになりました。しかし、なぜそれほどまでに重要なのでしょうか。
外側の大きな筋肉(アウターマッスル)がパワーを生み出すエンジンだとしたら、インナーマッスルはその力を効率よく伝えるための土台や車軸のような役割を果たします。ここでは、水泳においてインナーマッスルが果たす具体的なメリットを4つに分けて解説します。
水の抵抗を最小限にする「ストリームライン」の維持
水泳で最も大切と言われるのが、水の抵抗を減らす一直線の姿勢「ストリームライン」です。どんなに力強いキックやストロークができても、姿勢が悪く腰が沈んでいたり、体が左右にブレていたりしては、水の抵抗を受けてブレーキがかかってしまいます。
インナーマッスル、特にお腹周りの深層筋が働くと、体幹がコルセットを巻いたように安定します。これにより、水中で手足を激しく動かしても、体の中心軸である背骨や骨盤がブレにくくなります。
結果として、フラットで美しい姿勢を長くキープできるようになり、水の抵抗を最小限に抑えながらスイスイと進むことができるのです。
生み出したパワーを無駄なく推進力に変える
泳ぐための推進力は、手足の動きだけで生まれているわけではありません。体幹から生まれた力を、手先や足先へと伝達することで大きな力が発揮されます。
もし体幹のインナーマッスルが弱いと、体の軸がグラグラしてしまい、せっかく生み出した力が途中で逃げてしまいます。これは、柔らかいこんにゃくの上でジャンプしようとしても高く飛べないのと同じ原理です。
インナーマッスルを鍛えて体の軸を固めることで、手足の動きと体幹が連動し、1回のストロークやキックで進む距離が伸びます。少ない力で大きく進むことができるため、効率的な泳ぎが可能になるのです。
肩や腰などのスポーツ障害・怪我を防ぐ
水泳は関節への負担が少ないスポーツと言われますが、フォームが崩れたまま反復練習を行うと、肩や腰を痛めることがあります。いわゆる「水泳肩(スイマーズショルダー)」や腰痛です。
特に肩関節は、可動域が広いぶん不安定な構造をしています。肩のインナーマッスルが弱い状態で、大きなアウターマッスル(三角筋や広背筋など)ばかりを使って力任せに泳ぐと、関節内部で摩擦や衝突が起き、炎症の原因となります。
インナーマッスルを強化することで、関節が正しい位置に安定し、スムーズに動くようになります。これにより、激しい練習を続けても怪我をしにくい、タフな体を作ることができるのです。
長く泳いでも疲れにくい「省エネ」な体になる
「25メートル泳ぐだけで息が上がってしまう」「後半になると体が沈んでくる」という悩みも、インナーマッスルが解決してくれるかもしれません。
インナーマッスルは持久力に優れた筋肉(赤筋繊維が多い)であり、長時間使っても疲れにくいという特徴があります。姿勢の維持を疲れやすいアウターマッスルに頼っているとすぐにバテてしまいますが、インナーマッスルで姿勢を支えることができれば、アウターマッスルは推進力を生むことだけに集中できます。
役割分担が明確になることで無駄なエネルギー消費が減り、楽に長い距離を泳ぎ続けることができるようになります。
知っておきたい水泳に関わる主要なインナーマッスル

一口にインナーマッスルと言っても、体には多くの深層筋が存在します。その中でも、スイマーが特に意識して鍛えるべき筋肉がいくつかあります。
どこの筋肉を使っているかをイメージできるだけで、トレーニングや水泳中の効果は大きく変わります。ここでは代表的な4つの部位について、その役割と場所を簡単に見ていきましょう。
肩の安定を司る「ローテーターカフ(回旋筋腱板)」
水泳選手にとって命とも言えるのが肩です。その肩関節の深層部にあり、上腕骨を肩甲骨に引き寄せて安定させているのが「ローテーターカフ」と呼ばれる4つの筋肉群です。
これらは非常に小さな筋肉ですが、腕を回したりひねったりする動作の初動で重要な働きをします。クロールのリカバリー(腕を前に戻す動作)やキャッチ(水を捉える動作)において、肩関節を正しい軌道に導き、スムーズな回転をサポートしてくれます。
姿勢をつくる天然のコルセット「腹横筋」
お腹の筋肉というと、シックスパックに割れる「腹直筋」を思い浮かべるかもしれませんが、水泳でより重要なのはその奥にある「腹横筋(ふくおうきん)」です。
腹横筋は、お腹をぐるりと囲むように付いており、「天然のコルセット」とも呼ばれます。この筋肉が収縮すると腹圧が高まり、腰椎が安定します。
泳いでいる最中に腰が反りすぎてしまったり、逆にお尻が落ちてしまったりするのは、この腹横筋の働きが弱く、腹圧が抜けていることが大きな原因です。
背骨を一本一本支える「多裂筋」
背骨に沿ってびっしりと付いている細かい筋肉が「多裂筋(たれつきん)」です。背骨を一本一本つなぎ止め、安定させる役割を持っています。
クロールや背泳ぎでは、体を左右に回転させる「ローリング」という動作を行いますが、この時に背骨が軸としてしっかり安定していないと、体がくねくねと蛇行してしまいます。
多裂筋が機能することで、背骨という「マスト」が安定し、力強いストロークを生み出す土台ができあがります。
上半身と下半身をつなぐキックの要「腸腰筋」
「腸腰筋(ちょうようきん)」は、背骨と太ももの骨をつなぐ、体の深部にある筋肉です。主に太ももを持ち上げる動作に使われます。
水泳のキック(バタ足など)において、「太ももの付け根から動かす」とよく指導されますが、これを実現するために必要なのが腸腰筋です。表面の太ももの筋肉だけでキックを打つとすぐに疲れてしまいますが、腸腰筋を使って体幹部から脚を動かすことで、鞭のようにしなやかで力強いキックが打てるようになります。
また、下半身が沈まないように高い位置でキープするためにも欠かせない筋肉です。
自宅で手軽にできる陸上トレーニング法(ドライランド)

インナーマッスルは、重いダンベルを持ち上げるような激しいトレーニングではなく、軽い負荷で正確な動作を繰り返すことで鍛えられます。そのため、ジムに行かなくても自宅で手軽に取り組むことができます。
ここでは、水泳の上達に直結するおすすめの陸上トレーニング(ドライランド)を紹介します。お風呂上がりや寝る前の習慣にしてみてください。
基本中の基本!呼吸と連動させる「ドローイン」
まずは全てのインナーマッスルトレーニングの基礎となる「ドローイン」です。腹横筋を活性化させ、お腹を凹ませた状態をキープする感覚を養います。
【ドローインのやり方】
1. 仰向けになり、膝を90度くらいに立てます。
2. お腹に手を当て、大きく息を吸ってお腹を膨らませます。
3. 息を細く長く吐きながら、おへそを背骨にくっつけるイメージでお腹を凹ませていきます。
4. 息を吐ききり、お腹がぺちゃんこになった状態で、浅い呼吸を繰り返しながら10〜30秒キープします。
ポイントは、お腹を凹ませたまま呼吸を止めないことです。水泳中も常にこの「お腹が薄い状態」を保つことで、ストリームラインが安定します。慣れてきたら、立った状態や座った状態でも行ってみましょう。
体幹全体を固めて安定させる「プランク」
プランクは、頭から足までを一直線に保つことで、腹横筋だけでなく全身のインナーマッスルを刺激する種目です。
床にうつ伏せになり、両肘とつま先をついて体を持ち上げます。この時、お尻が上がりすぎたり、腰が反って落ちたりしないように注意してください。頭、背中、腰、かかとが一直線の棒になるようなイメージです。
最初は20秒から始め、徐々に時間を延ばして1分を目指しましょう。ただ耐えるだけでなく、「ドローイン」でお腹を凹ませる意識を組み合わせると、より水泳に近い実践的な効果が得られます。
肩のインナーマッスルを刺激する「チューブトレーニング」
ローテーターカフを鍛えるには、ゴムチューブ(セラバンドなど)を使ったトレーニングが最適です。非常に弱い負荷で行うのがコツです。
外旋(がいせん)運動:
柱などにチューブを結びつけ、立った状態で片手でチューブの端を持ちます。肘を脇腹に固定して90度に曲げ、前腕を外側(外へ開く方向)にゆっくり動かします。うちわを扇ぐような動きです。
内旋(ないせん)運動:
外旋とは逆に、お腹の前でチューブを持ち、外側から内側(お腹の方)へ前腕を動かします。
どちらも20〜30回程度、回数を多く行います。アウターマッスルを使わないよう、肘の位置を動かさないことが重要です。地味な動きですが、肩の奥がジワジワと熱くなる感覚があれば正解です。
背面とバランス感覚を養う「ダイアゴナル(バードドッグ)」
四つん這いの姿勢から、右手と左足(対角線の手足)を同時に水平に伸ばすトレーニングです。多裂筋や背面の筋肉を使いながら、不安定な状態でバランスを取る能力を養います。
上げた手足が下がらないように一直線を保ち、5秒ほどキープしてからゆっくり戻します。左右交互に10回ずつ行いましょう。
この時も骨盤が傾かないように、お腹に力を入れておくことが大切です。水中で手足をバラバラに動かしながら姿勢を保つ感覚に非常に近いため、スイマーには必須の種目と言えます。
水中で実践!泳ぎながらインナーマッスルを使うコツ

陸上でトレーニングした筋肉は、実際に水中で使えなければ意味がありません。しかし、泳いでいる最中に「今は腹横筋を使って…」と考えるのは難しいものです。
ここでは、水泳の練習中にインナーマッスルを自然と意識するための具体的なコツやイメージの持ち方を紹介します。
「けのび」でお腹を薄くする意識を持つ
練習のスタートや壁を蹴った直後の「けのび」は、インナーマッスルの入り具合を確認する絶好のチャンスです。
壁を蹴って伸びている間、陸上で練習した「ドローイン」を思い出してください。おへそを背中側に引き込み、お腹を薄く平らにします。こうすることで骨盤が安定し、下半身が浮きやすくなる感覚をつかめるはずです。
「お腹を薄くすると、体が水面近くにスッと浮いてくる」という感覚を体で覚えることが、上達への近道です。
ドローインしたまま手足を動かす感覚
クロールや背泳ぎを泳ぐ際、手足を動かすとお腹の力が抜けてしまいがちです。特に息継ぎの瞬間に力が抜け、腰が反ってしまうケースが多く見られます。
意識のポイントは、「お腹の中心は固めたまま、手足だけをリラックスして動かす」ことです。体幹というしっかりした土台から、手足が生えているようなイメージを持ってください。
最初はゆっくりとしたペースで構いません。25メートル泳ぐ間、常にお腹が凹んだ状態をキープできているかを確認しながら泳いでみましょう。これだけでも相当なトレーニング効果があります。
水中ウォーキングで骨盤の安定を確認する
泳ぐのが難しい場合は、水中ウォーキングを活用しましょう。水の抵抗を感じながら歩くことで、陸上よりも体幹への意識が向きやすくなります。
大股で歩きながら、上半身が前後左右にブレないように意識します。足を前に出すとき、腸腰筋を使って太ももの付け根から引き上げるようにすると効果的です。
また、歩きながら上半身をひねる動作を加えることで、腹斜筋などのインナーマッスルも刺激でき、ローリング動作の安定につながります。
ターン後の壁キックでの姿勢保持
クイックターンやタッチターンの後、壁を強く蹴る瞬間もインナーマッスルが重要です。壁を蹴った勢いで体が弓なりに反ってしまうと、大きな抵抗を受けて失速してしまいます。
壁を蹴る瞬間、瞬間的にお腹に「グッ」と力を入れ、体を一本の硬い棒にするイメージを持ちましょう。インナーマッスルで衝撃を受け止め、その反発力を推進力に変えることができます。
壁を蹴ってからストロークを始めるまでの数秒間、姿勢が崩れないように集中することで、後半の泳ぎの安定感が増します。
トレーニング効果を高めるための重要なポイント

インナーマッスルのトレーニングは、一見簡単そうに見えますが、実は正しく行うのが難しいトレーニングでもあります。間違ったやり方をしてしまうと、効果が出ないばかりか、アウターマッスルが過剰に働いて逆効果になることもあります。
努力を確実に成果につなげるために、以下の3つのポイントを必ず守ってください。
呼吸を止めずにリラックスして行う
最も重要なのは「呼吸」です。力を入れようとすると、無意識に息を止めてしまう人が多いですが、息を止めると体が緊張し、表面のアウターマッスルに力が入ってしまいます。
インナーマッスルは、リラックスした状態で深層部だけを働かせる必要があります。トレーニング中も水泳中も、常に自然な呼吸を続けるように意識しましょう。会話ができるくらいの余裕を持って行うのが理想的です。
メモ: ドローインなどを行う際は、「吸う」ことよりも「吐ききる」ことに集中すると、腹横筋が反応しやすくなります。
回数や強さより「正しいフォーム」を優先する
インナーマッスルトレーニングにおいて、「きつい負荷」や「回数の多さ」は重要ではありません。むしろ、負荷が強すぎると、強いアウターマッスルが助けに入ってしまい、インナーマッスルがサボってしまいます。
例えばチューブトレーニングなら、一番弱い強度のチューブを使い、正しい軌道で動かすことに全神経を集中させます。プランクなら、形が崩れた状態で1分やるよりも、完璧な姿勢で30秒やる方が効果的です。
「地味すぎて効いているかわからない」くらいで丁度良い場合も多いです。焦らず、自分の体と対話するように丁寧に行いましょう。
アウターマッスルとのバランスを考える
インナーマッスルは重要ですが、それだけで速く泳げるわけではありません。実際に水をかいて進むのはアウターマッスルの力です。
重要なのはバランスです。「インナーマッスルで体を支え、アウターマッスルで進む」という役割分担ができてこそ、パフォーマンスが向上します。
陸上での筋力トレーニング(スクワットや懸垂など)を行う際も、まずはドローインでお腹を固めてから動作を開始するなど、常にインナーマッスルを先行して働かせる癖をつけるのがおすすめです。
まとめ:インナーマッスルを鍛えて理想の泳ぎを手に入れよう
水泳におけるインナーマッスルの重要性と、具体的なトレーニング方法について解説してきました。最後に記事の要点を振り返りましょう。
【記事のポイント】
・インナーマッスルは「ストリームラインの維持」や「怪我の予防」に不可欠。
・「ローテーターカフ」や「腹横筋」など、部位ごとの役割を知ることが大切。
・陸上では「ドローイン」や「プランク」で基礎を作り、呼吸を止めないことがコツ。
・水中では「お腹を薄くする意識」を持ち、けのびやスイムにつなげる。
インナーマッスルの強化は、今日やって明日すぐにタイムが縮まるような即効性のあるものではありません。しかし、地道に続けることで、数ヶ月後には「あれ?体が軽く感じる」「後半になってもフォームが崩れない」といった確実な変化を感じられるはずです。
水泳初心者の方も、ベテランの方も、ぜひ今日からインナーマッスルへの意識を取り入れてみてください。体の内側から湧き出る安定感が、あなたの水泳ライフをより楽しく、快適なものにしてくれるでしょう。



