水泳の練習といえば、まず思い浮かべるのが「ビート板」を使ったバタ足ではないでしょうか。初心者から上級者まで、プールサイドには必ずと言っていいほどビート板が置かれています。しかし、「ただ持っていればいい」「なんとなく足を動かせばいい」と思って練習していると、なかなか前に進まなかったり、すぐに疲れてしまったりすることがあります。
実は、ビート板を使ったバタ足には、泳ぎを上達させるための重要なポイントがたくさん詰まっています。正しい持ち方や姿勢、足の動かし方をマスターすることで、クロールなどの泳ぎが劇的に楽に、そして速くなるのです。この記事では、ビート板バタ足の基本から、楽に進むためのコツ、よくある間違いとその改善策までを、初心者の方にもわかりやすく解説していきます。
なぜビート板を使うの?バタ足練習の4つのメリット

水泳のレッスンでは、なぜこれほどまでにビート板を使った練習が重視されるのでしょうか。まずは、ビート板を使うことで得られる効果やメリットについて理解しておきましょう。これを知ることで、日々の練習の質がぐっと高まります。
浮力を借りてフォーム作りに集中できる
ビート板を使う最大のメリットは、何といっても「浮力」を得られることです。水泳初心者にとって、水の中で体を水平に保つことは簡単ではありません。どうしても足が沈んでしまい、泳ぐ以前に浮くことに必死になってしまうケースが多いのです。
ビート板に体重を預けることで、上半身が安定して浮くため、沈む心配をせずに「足の動き」だけに集中することができます。どのようなリズムで足を動かせば進むのか、どの筋肉を使えば楽なのかといった感覚を、落ち着いて確認できるのが大きな利点です。フォームを固める段階では、この補助具の存在が非常に大きな助けとなります。
下半身の筋力アップと体幹の強化
ビート板バタ足は、単純そうに見えて実はかなりの運動量を誇ります。腕を使わずに足だけの力で前に進む必要があるため、太ももやお尻、ふくらはぎといった下半身の大きな筋肉を重点的に鍛えることができます。
また、不安定な水中でバランスを取ろうとする際、自然とお腹周りのインナーマッスル(体幹)も使われます。体幹が強くなると、水中で体がブレにくくなり、結果として水の抵抗を減らすことにつながります。ダイエット効果や体力向上を目指す人にとっても、ビート板バタ足は非常に効率の良いトレーニングと言えるでしょう。
水への恐怖心をなくしてリラックス
泳ぎが苦手な人の中には、顔を水につけるのが怖い、あるいは体が沈む感覚が怖いという人が少なくありません。恐怖心があると体全体がガチガチに固まってしまい、余計に沈みやすくなるという悪循環に陥ります。
ビート板という「つかまるもの」がある安心感は、精神的なリラックス効果を生みます。リラックスして力が抜けると、体は自然と水に浮きやすくなります。まずはビート板を持って水に親しみ、水中で力を抜く感覚を養うことは、泳げるようになるための第一歩として非常に大切です。
呼吸動作の練習にも最適
クロールの息継ぎで苦戦する人は多いですが、ビート板を使うことで呼吸動作の練習もスムーズに行えます。手でビート板を持ったまま、片手だけで水をかきながら横を向いて呼吸する練習(片手回し)などは、その代表例です。
足の動きが安定していない状態で息継ぎの練習をしても、体が沈んでしまってうまくいきません。ビート板の浮力で体を支えながら行うことで、焦らずに正しい呼吸のタイミングや顔の向きを習得することができます。このように、バタ足だけでなく、泳ぎ全体の基礎固めに役立つのです。
基本が大事!ビート板の正しい持ち方と姿勢

「ビート板なんて、ただ持てばいいんでしょ?」と思っていませんか?実は、練習の目的やスタイルによって、正しい持ち方は異なります。間違った持ち方をしていると、姿勢が崩れて腰が沈む原因になってしまいます。ここでは、状況に合わせた正しい持ち方を解説します。
顔を水につける時の持ち方は「真ん中か後ろ」
顔を水につけて基本的なバタ足の練習をする場合、ビート板の持ち位置は「真ん中からやや後ろ(手前)」を持つのが基本です。あるいは、ビート板の下側の端に親指をかけ、残りの指を上側に乗せて軽く添える持ち方も一般的です。
この時、大切なのは「肘を伸ばす」ことです。肘が曲がってビート板を抱え込むような姿勢になると、上半身に力が入りすぎてしまいます。腕をリラックスさせて前に伸ばし、ビート板の上に手を乗せるような感覚で持ちましょう。これにより、ストリームライン(流線型)に近いきれいな姿勢を保ちやすくなります。
顔を上げて泳ぐ時は「先端」を持って肘を乗せる
顔を上げて周囲を見ながら泳ぐ場合や、キック力を強化するための「顔上げキック」を行う場合は、持ち方を変える必要があります。このときは、ビート板の「先端(一番向こう側)」を両手でつかみ、前腕(手首から肘までの部分)をビート板の上にしっかりと乗せましょう。
もし顔を上げている状態でビート板の後ろ側を持ってしまうと、体重でビート板の手前が沈み、逆に先端が跳ね上がってしまいます。これでは水の抵抗を大きく受けてしまい、ブレーキがかかります。先端を持って肘で体重を支えることで、ビート板をフラットな状態に保つことができ、顔を上げていても腰が沈みにくくなります。
腕はまっすぐ伸ばして体重を預ける
どのような持ち方をする場合でも共通するポイントは、肩の力を抜いて「脇を伸ばす」ことです。ビート板を手元に引き寄せようとすると、肩がすくんでしまい、窮屈な姿勢になります。これでは呼吸も苦しくなりますし、何より重心が後ろに下がって足が沈む原因になります。
腕は遠くへ伸ばすイメージを持ち、ビート板に上半身の体重を預けてしまいましょう。「ビート板に乗っかる」くらいの気持ちでちょうど良いです。重心を前に移動させることで、シーソーの原理で下半身が自然と浮き上がりやすくなります。
目線は「真下」か「斜め前」で腰を浮かせよう
姿勢を安定させるためには、目線(頭の位置)も非常に重要です。顔を水につけている時は、プールの底の真下を見るようにしましょう。真下を見ることで頭頂部が水面ギリギリになり、背中からお尻にかけて一直線の姿勢を作りやすくなります。
前を見ようとして頭を上げすぎると、背中が反って腰が落ちてしまいます。逆に、顔を上げている時(顔上げキック)でも、あごを突き出すのではなく、少しあごを引いて斜め前の水面を見るようにすると、首への負担が減り、姿勢が安定します。頭はボウリングの玉くらいの重さがあると言われています。その重さを上手くコントロールして、重心位置を調整しましょう。
グングン進む!バタ足(キック)の打ち方のコツ

正しい姿勢ができたら、次は実際に足を動かしてみましょう。バタ足は、ただ激しく水を蹴れば良いというものではありません。効率よく進むための足の使い方には、明確なコツがあります。ここでは、疲れずに進むキックの技術を深掘りします。
太ももの付け根から足を動かすイメージ
バタ足が苦手な人の多くは、膝から下だけでパタパタと動かそうとしています。しかし、推進力を生むエンジンの役割を果たすのは、実は「股関節(太ももの付け根)」です。足全体を一本の棒のようにイメージし、太ももの付け根から大きく動かす意識を持ちましょう。
足の付け根から動かすことで、太ももの大きな筋肉を使うことができ、疲れにくくパワフルなキックになります。 イメージとしては、歩く時に足を踏み出すような感覚に近いです。まずは陸上で、足の付け根からブラブラと足を振る動きを確認してみると、感覚がつかみやすくなります。
膝は曲げすぎず「ムチ」のようにしならせる
「膝を曲げてはいけない」と教わったことがあるかもしれませんが、これは「膝だけで曲げてはいけない」という意味です。実際には、完全に膝を棒のように伸ばしきったままでは、水をうまくとらえることができません。
理想的な動きは、ムチがしなるような動作です。太ももを振り下ろした時、水の抵抗を受けて膝が自然に少し曲がり、その後に足先が遅れてついてくるようなイメージです。そして、蹴り終わった瞬間に膝が伸びます。この「しなり」が生まれることで、足の甲でしっかりと水を後ろに押し出すことができ、大きな推進力が生まれます。
足首の力は抜いて足の甲で水を押す
足首の状態も非常に重要です。足首に力が入って直角に曲がっていると、足の甲で水を捉えることができず、水流をせき止めるブレーキになってしまいます。バレリーナのように足先までピンと伸ばすのが理想ですが、力を入れて伸ばそうとすると足がつりやすくなります。
ポイントは「足首の力を抜いて、ブラブラにしておく」ことです。リラックスしていれば、水を蹴る際の水圧で自然と足首が伸び、足の甲が広い面となって水を捉えてくれます。水中で足首を回したり、振ったりして、脱力する感覚を練習前に確認しておくと良いでしょう。
水面を叩きすぎず「水中」で泡を立てる
バタ足をしている時に、水面で「バシャバシャ」と大きな音や水しぶきを立てていませんか?水面を叩く動きは、空気ばかりを蹴っていることになり、実はあまり前に進みません。見た目は派手でも、空回りしている状態です。
効率の良いキックは、水面下で行われます。足の裏が水面ギリギリに出るか出ないかくらいの深さで、水の中に「ボコボコ」と泡を作るようなイメージで蹴ってみてください。水中で重みを感じながら蹴ることで、その力がしっかりと推進力に変わります。静かで、かつ進むキックを目指しましょう。
進まないのはなぜ?よくあるNG例と改善ポイント

「一生懸命キックしているのに、全然前に進まない」「隣の人にどんどん抜かされてしまう」…そんな悩みを抱えているなら、どこかに原因があるはずです。ここでは、初心者が陥りやすい典型的なNG例と、それを解決するためのポイントを紹介します。
膝が大きく曲がる「自転車こぎ」になっている
最も多いNG例が、膝を大きく曲げてお腹の下に引き込んでしまう「自転車こぎ」のようなキックです。これをしてしまうと、太ももの前面が水の抵抗をまともに受けてしまい、強烈なブレーキがかかります。前に進もうとしているのに、自分でブレーキをかけている状態です。
改善策としては、やはり「股関節から動かす」意識を徹底することです。また、膝を曲げるのではなく、「膝を伸ばしたまま足を上下させる」くらいの極端な意識で練習してみるのも効果的です。パートナーがいる場合は、足首を持ってもらい、膝を曲げずに動かす感覚を補助してもらうのも良い練習になります。
ビート板にしがみついて体が沈んでいる
水への恐怖心や力みから、ビート板をギュッと握りしめ、覆いかぶさるようにして体重をかけすぎてしまうケースです。上半身、特に肩に力が入ると、体は硬くなり沈みやすくなります。また、ビート板の前側を押さえつけてしまうと、ビート板が斜めになって抵抗が増えます。
ビート板は「つかまるもの」ではなく、「手を乗せておくもの」と考えを変えてみてください。手のひらや腕全体で優しく板を押さえるようにし、リラックスした姿勢を心がけることで、自然と腰の位置も上がってきます。
足首がガチガチに固まって水を蹴れていない
足首が硬い、あるいは力んでしまって足首が90度のまま固定されていると、足の甲で水を後ろに押し出すことができません。これでは、どんなに速く足を動かしても、水を切るだけで前に進む力は生まれません。
日常生活で足首を伸ばすストレッチを取り入れるのがおすすめです。お風呂上がりなどに、正座をした状態で後ろに少し体重をかけたり、足の指を持って足首を伸ばしたりしてみましょう。水泳中も、足首を柔らかく使うことを意識し、フィンのような形を作ることを目指してください。
全身に力が入りすぎてすぐに疲れてしまう
「速く進みたい!」と思うあまり、全身に力を入れてガムシャラに足を動かしていませんか?筋肉は、力を入れる時(収縮)だけでなく、力を抜く時(弛緩)も大切です。ずっと力を入れっぱなしでは、酸素を大量に消費し、すぐに息が上がってしまいます。
上手な人は、キックを打ち下ろす瞬間にだけ力を入れ、足を上げる時には脱力しています。この「オン・オフ」の切り替えがスムーズなため、長時間泳いでも疲れないのです。最初はゆっくりとしたテンポで、力を抜く時間を意識しながら練習し、徐々にスピードを上げていくのがコツです。
レベル別!ビート板を使った効果的な練習メニュー

ビート板バタ足と一口に言っても、初心者と上級者では練習の目的や内容が異なります。自分のレベルに合ったメニューに取り組むことで、着実にステップアップしていけます。ここでは、レベル別のおすすめ練習法を紹介します。
初心者向け:25mを止まらずに泳ぎ切る練習
まだ泳ぎに慣れていない段階では、「止まらずに泳ぎ続ける」ことを目標にしましょう。速さは必要ありません。正しいフォームを維持したまま、一定のリズムで足を動かし続けることが大切です。
まずは、顔を上げたままのバタ足ではなく、「顔を水につけて、息継ぎの時だけ顔を上げる」練習をおすすめします。これにより、水平な姿勢を保つ感覚が身につきます。最初は12.5mでも構いません。途中で立たずに壁までたどり着く成功体験を積み重ねましょう。慣れてきたら25mに挑戦し、リラックスして完泳できることを目指します。
中級者向け:顔上げキックで推進力を強化する
ある程度長く泳げるようになってきたら、次は「顔上げキック(ヘッドアップキック)」を取り入れてみましょう。顔を上げると下半身が沈みやすくなるため、それを支えるためにより強いキック力が求められます。
顔を常に上げた状態で、ビート板の先端を持ち、25mあるいは50mを泳ぎます。この時、腰が落ちないように意識して、太ももから強く水を蹴るようにします。この練習はキックの推進力を高めるだけでなく、体幹のトレーニングにもなり、実際のスイムでの姿勢安定に大きく役立ちます。
上級者向け:インターバル練習でスピードアップ
タイムを縮めたい、もっと速く泳ぎたいという上級者は、時計を見ながらのインターバル練習に挑戦しましょう。例えば、「50m×8本(1分サークル)」のように、決められた時間内に泳ぎ切り、短い休憩を挟んで次の本数をスタートするという形式です。
例:50mを50秒で泳ぎ、10秒休憩して1分後に2本目をスタートする。
心拍数を上げて追い込むことで、持久力とスピードの両方を強化できます。ダッシュとイージー(ゆっくり)を繰り返す練習も効果的です。自分の限界に挑戦することで、キックの出力が上がり、スイム全体のスピードアップにつながります。
片手スイムを取り入れてストロークにつなげる
バタ足の練習から、徐々にクロールの動きにつなげていく練習です。ビート板を片手で持ち、もう片方の手は体側に添えます(気をつけの姿勢)。その状態でバタ足を行い、体の側面が水面に出るような「サイドキック」の姿勢をとります。
さらに、片手でビート板を持ったまま、空いている手でクロールのストローク(水をかく動作)を行う「片手スイム」も有効です。ビート板の浮力を借りて、呼吸のタイミングや腕のかき方を丁寧に確認できます。左右それぞれの腕で行い、苦手な側を重点的に練習することで、左右のバランスが整います。
自分に合ったビート板の選び方と種類

普段はプールに備え付けのビート板を使っている方が多いかもしれませんが、実はビート板にも様々な種類があります。マイビート板を購入する場合や、プールで選べる場合の参考に、選び方のポイントを知っておきましょう。
形で選ぶ:定番の四角型と持ちやすい穴あき型
最も一般的なのは、長方形の角を丸くしたようなシンプルな形のものです。浮力が大きく安定しているため、初心者から上級者まで幅広く使えます。迷ったらこのタイプを選べば間違いありません。
最近人気なのは、手をかけるための穴が開いているタイプや、中央がくびれているタイプです。これらは握りやすく、持ち運びにも便利です。また、流線型のデザインになっているものは水の抵抗が少なく、スピードを出したい練習に向いています。プルブイ(足に挟む浮き具)としても使える兼用タイプもあり、荷物を減らしたい人におすすめです。
素材で選ぶ:浮力の高いポリエチレンと丈夫なEVA
ビート板の素材は主に2種類あります。「発泡ポリエチレン」は、気泡が大きく、軽くて浮力が非常に高いのが特徴です。肌触りが少しざらざらしていることが多いです。水に慣れていない初心者や、しっかり体を浮かせて練習したい人に適しています。
一方、「EVA素材」は、きめが細かくしっとりとした肌触りで、弾力性があります。発泡ポリエチレンに比べると少し重みがあり、耐久性に優れています。浮力は適度で扱いやすいため、多くのスイミングスクールやジムで採用されています。長く使いたいならEVA素材が良いでしょう。
サイズで選ぶ:浮力重視なら大きめを選ぼう
サイズも重要です。基本的には、サイズが大きいほど浮力が大きく、体が安定しやすくなります。体が大きい男性や、沈みやすい人は、大きめのビート板を選ぶと練習が楽になります。
逆に、小さめのビート板は浮力が控えめになります。これは、あえて負荷をかけたい上級者や、肩幅が狭い子供や女性に向いています。自分の体格や泳力に合わせて、無理なく扱えるサイズを選ぶことが大切です。備え付けのものを使う場合は、何種類か試してみて、一番しっくりくるものを探してみましょう。
まとめ:ビート板バタ足をマスターして水泳をもっと楽しもう
ビート板を使ったバタ足は、単なる準備運動や初心者向けの練習ではなく、泳ぎの土台を作る非常に重要なトレーニングです。今回ご紹介したポイントを振り返ってみましょう。
これらのポイントを意識して練習すれば、「進まない」「疲れる」といった悩みは少しずつ解消されていくはずです。バタ足が楽に進むようになれば、クロールはもちろん、背泳ぎやバタフライなど、他の泳ぎの上達スピードも格段に上がります。
水泳は、ほんの少しのコツや意識の変化で、驚くほど感覚が変わるスポーツです。ぜひ次回のプールでの練習では、ビート板を味方につけて、効率の良いバタ足を体感してみてください。水の中をスイスイ進む楽しさが、きっと待っていますよ。



