水泳部の練習と聞くと、ひたすらプールで泳ぎ続けているイメージを持つ方が多いかもしれません。しかし実際には、陸上でのトレーニングから始まり、緻密に計算されたメニュー構成、そして独特の専門用語が飛び交う、非常に奥深い世界が広がっています。
これから水泳部に入ろうと考えている方や、練習内容について詳しく知りたい保護者の方、あるいはもっと速くなりたいと考えている現役部員の方へ。
この記事では、水泳部の練習の全貌を、基本の流れから必須アイテム、知っておくべき用語まで、初心者の方にもわかりやすく丁寧にお伝えします。
水泳部の練習の流れと基本構成

水泳部の練習は、ただ闇雲に泳ぐわけではありません。効果的に体力をつけ、技術を向上させるために、段階を追ってメニューが組まれています。
学校やチームによって多少の違いはありますが、一般的に行われている練習の基本構成について、順を追って見ていきましょう。
練習全体を通して、身体への負荷を徐々に上げ、最後に整えるという流れが基本となっています。
陸上トレーニング(ドライランド)
プールに入る前に、「ドライランド」と呼ばれる陸上トレーニングを行うのが一般的です。水泳は全身を使うスポーツであるため、入水前の準備運動は怪我の予防だけでなく、パフォーマンス向上に直結します。
具体的には、ストレッチで関節の可動域を広げたり、体幹(コア)トレーニングで水中で姿勢を維持するための筋肉を刺激したりします。時にはランニングや筋力トレーニングを取り入れることもあります。
このドライランドをおろそかにすると、泳ぎのバランスが崩れやすくなるため、非常に重要なパートです。
ウォーミングアップ(W-up)
シャワーを浴びてプールサイドに挨拶をした後、いよいよ入水してウォーミングアップ(W-up)が始まります。ここでは、冷えた体を水温に慣らし、心拍数を徐々に上げていくことが目的です。
いきなり全力で泳ぐことは少なく、ゆっくりとしたペースで長く泳いだり(ロングスイム)、いろいろな泳法を混ぜたりして、水の感覚(水感)を確かめます。
「今日の調子はどうかな?」と自分の体と対話しながら、リラックスして泳ぐことが大切です。
キック(Kick)とプル(Pull)の強化練習
ウォーミングアップが終わると、泳ぎを「足」と「腕」に分解した部分練習に入ります。
「キック(Kick)」はビート板を持って足の動作だけで進む練習です。脚力だけでなく、下半身を浮かせるためのボディバランスも養います。
「プル(Pull)」は足に「プルブイ」と呼ばれる浮き具を挟み、腕の力だけで進む練習です。水をかく力(推進力)を強化するために行います。これらを個別に行うことで、それぞれの部位にかかる負荷を高め、効率的なフォーム作りを目指します。
スイム(Swim)とメインセット(Main)
部分練習の後は、手足を連動させた通常の泳ぎ「スイム(Swim)」に入ります。そして、練習の山場となるのが「メインセット(Main)」です。
この時間は、最も強度が高く、精神的にも肉体的にもハードなメニューが組まれます。心肺機能を高めるためのダッシュや、持久力をつけるための長距離泳など、その日の目的に合わせたトレーニングが行われます。
部員同士で声を掛け合い、限界に挑戦する、まさに練習のクライマックスと言える時間です。
クールダウン(Down)
激しいメインセットを終えた後は、必ずクールダウン(Down)を行います。急に運動を止めると疲労物質が溜まりやすくなるため、ゆっくりと泳ぎながら心拍数を落ち着かせていきます。
ここではフォームを修正したり、筋肉をほぐすようなイメージで泳いだりします。練習後のケアは翌日のパフォーマンスに大きく影響するため、最後まで気を抜かずに行います。
練習後はしっかりとストレッチを行い、身体をいたわって終了となります。
水泳部の練習でよく使われる専門用語

水泳部の練習メニュー(ホワイトボードなどに書かれています)は、独特の専門用語やアルファベットの略語で埋め尽くされています。
最初は暗号のように見えるかもしれませんが、意味を理解すれば練習の意図が明確になり、上達も早くなります。
ここでは、毎日のように使われる代表的な用語を詳しく解説します。
サークル(Circle / Cyc)
水泳の練習で最も基本的な時間管理の用語です。「1分30秒サークルで4本」と言われた場合、「1分30秒ごとにスタートして、それを4回繰り返す」という意味になります。
例えば、50メートルを1分10秒で泳いで帰ってきたとしましょう。サークルが1分30秒なら、残りの20秒間が休憩時間(レスト)になります。
もし1分25秒かかってしまったら、休憩はわずか5秒しかありません。つまり、速く泳げば泳ぐほどたくさん休める、逆に遅いと休みがなくなるという仕組みです。
ディセンディング(Descending / DES)
「ディセンディング」は「降りていく」という意味で、本数を重ねるごとに徐々にタイムを速くしていく練習方法です。
例えば「50m × 4本 DES」という指示であれば、1本目はゆったりと、2本目は少し力を入れて、3本目はさらに速く、最後の4本目は全力(ハード)で泳ぐ、といった具合です。
ペース配分を自分でコントロールする能力を養うとともに、疲れてきた後半にスピードを上げる精神力を鍛える効果があります。
ビルドアップ(Build-up)
ディセンディングと似ていますが、「ビルドアップ」は「1本の泳ぎの中で」スピードを上げていく練習です。
例えば200mを泳ぐ場合、最初の50mはゆっくり入り、次の50mは少しペースアップ、最後の50mは全力でダッシュする、というように加速していきます。
レースの後半でバテて失速しないためのスタミナと、ラストスパートをかけるための切り替えの技術を身につけるために行われます。
ハイポ(Hypoxic)
「ハイポ」とは、呼吸の回数を制限するトレーニングのことです。「Hypo 3」なら「3回手をかく間に1回呼吸」、「Hypo 5」なら「5回に1回」という指示になります。
この練習の目的は、苦しい状態で泳ぐことに慣れる心肺機能の強化だけではありません。呼吸動作は泳ぎのバランスを崩す大きな要因となるため、呼吸回数を減らすことでフォームを安定させる狙いもあります。
酸欠状態で泳ぐことは非常にきついですが、これを乗り越えることでレースでの余裕が生まれます。
イージー(Easy)とハード(Hard)
「イージー」は単に休むことではなく、リラックスして正しいフォームで泳ぐことを指します。一方、「ハード」は全力で泳ぐことを意味します。
メニュー表に「Easy / Hard」と書かれていれば、1本おきにゆっくり泳ぐのと全力で泳ぐのを繰り返すことになります。
このメリハリをつけることで、スピード感覚を養いつつ、乳酸(疲労物質)の除去能力を高めることができます。「イージー」と言われても、だらだら泳ぐのではなく「良いフォームで流す」ことがポイントです。
練習に必要な道具と選び方

水泳部では、水着以外にも練習の効率を上げるための様々な道具(ギア)を使用します。
学校で備品として用意されている場合もありますが、自分専用のものを持っておくと愛着も湧き、練習へのモチベーションも上がります。
ここでは、初心者が揃えるべき基本アイテムから、レベルアップのための専門用具までを紹介します。
必須アイテム(水着・ゴーグル・帽子)
まず絶対に欠かせないのが、水着、ゴーグル、スイムキャップ(帽子)の3点セットです。
練習用の水着(ボックスタイプやハーフスパッツ)は、競泳用の薄い素材のものよりも、耐久性のある「練習用モデル」を選ぶと長持ちします。塩素に強い素材が使われているものがおすすめです。
ゴーグルは、視界を確保するために重要です。室内プールでの練習が主なら、視界が明るいクリアタイプや薄いブルーなどが良いでしょう。曇り止め加工がされているものを選び、効果が薄れてきたら曇り止め液でメンテナンスします。
スイムキャップは、シリコン製とメッシュ製があります。練習では通気性が良く蒸れにくいメッシュ製が好まれることが多いですが、髪のダメージが気になる場合はシリコン製を選ぶ人もいます。
練習用具(ビート板・プルブイ)
キック練習に使う「ビート板」と、足に挟んで腕の練習をする「プルブイ」は、多くのプールに備え付けられていますが、マイ・プルブイを持つ選手も少なくありません。
プルブイは、下半身を浮かせた状態を作ることで、正しいボディポジション(姿勢)を覚えるのに役立ちます。
最近では、ビート板とプルブイの機能を兼ね備えたコンパクトなタイプも販売されており、荷物を減らしたい人にはおすすめです。
上級者向け(パドル・フィン)
筋力がついてきて、さらにレベルアップを目指す段階になると、「パドル」や「フィン」を使用します。
「パドル」は手のひらに装着するプラスチック製の板です。水の抵抗が大きくなるため、腕の筋力トレーニングになると同時に、水を正しくキャッチする感覚を養うことができます。
「フィン」は足ひれのことです。これを着けると驚くようなスピードが出るため、レーススピードに近い感覚(スピード感)を脳と体に覚え込ませるトレーニングになります。
また、フィンを使うと足首の柔軟性が高まり、しなやかなキックが打てるようになります。
レベルアップするための練習のコツ

毎日練習に参加していても、ただ漫然と泳いでいるだけではなかなかタイムは縮まりません。
速くなる選手は、練習中の「意識」が違います。限られた練習時間の中で最大限の効果を得るために、どのようなことを心がければよいのでしょうか。
ここでは、明日からすぐに実践できる練習のコツを3つ紹介します。
フォームを常に意識する
水泳は、陸上のスポーツに比べて「抵抗」との戦いが非常に大きなウェイトを占めます。どんなにパワーがあっても、水の抵抗を受ける姿勢で泳いでいては速く進みません。
きつい練習の時こそ、フォームが崩れないように意識することが大切です。特に重要なのが「ストリームライン(けのびの姿勢)」です。
壁を蹴った後のストリームラインを毎回丁寧に行い、抵抗の少ない姿勢を体に染み込ませましょう。疲れてくると腰が下がったり、あごが上がったりしがちですが、そこを我慢して姿勢を保つことが上達への近道です。
タイム管理とサークルへの意識
練習中は常にプールサイドの時計(ペースクロック)を見る癖をつけましょう。
自分が今、50mを何秒で泳いでいるのか、そしてサークルに対してどれくらいの余裕があるのかを把握することは、ペース配分を学ぶ上で必須のスキルです。
「なんとなく泳いでいたら終わっていた」ではなく、「このセットは35秒キープを目標にする」といった具体的な数字の目標を持つことで、練習の質が劇的に向上します。
前の人がスタートした5秒後に自分もスタートするなど、時計を見ながら正確に行動できるようになりましょう。
休息と栄養補給の徹底
「練習」と同じくらい重要なのが「回復」です。水泳は全身運動であり、水の冷却効果も相まって、想像以上にエネルギーを消費します。
練習後はできるだけ早く(30分以内が理想と言われています)、おにぎりやプロテインなどで炭水化物とタンパク質を補給し、傷ついた筋肉を修復させましょう。
また、しっかり睡眠をとることもトレーニングの一部です。疲労が蓄積したまま練習を続けると、怪我のリスクが高まるだけでなく、集中力が低下してフォームが崩れる原因にもなります。
しっかり食べて、しっかり寝る。これも速くなるための立派な才能の一つです。
初心者が練習についていくための心構え

初めて水泳部の練習に参加すると、その量とスピードに圧倒されて「自分には無理かもしれない」と不安になることがあるかもしれません。
しかし、今は速い先輩たちも、最初はみんな初心者でした。最初から完璧にこなせる人はいません。
ここでは、初心者が挫折せずに練習を乗り越え、成長していくための心構えをお伝えします。
最初はきつくて当たり前と割り切る
水泳の練習は、呼吸が制限されるという特殊な環境下で行われるため、他のスポーツ経験者でも最初は苦しいものです。
「ついていけない自分はダメだ」と落ち込む必要はありません。「最初はきつくて当たり前」と割り切りましょう。
人間の体は適応能力が高いので、1ヶ月、3ヶ月と続けていくうちに、心肺機能が強化され、必ずメニューをこなせるようになっていきます。焦らず、自分の成長を楽しむくらいの気持ちで臨みましょう。
先輩やコーチに積極的に質問する
わからないことがあれば、遠慮せずに先輩やコーチに質問しましょう。
「サークルの見方がわからない」「ターンのタイミングが合わない」「肩が痛くならない泳ぎ方は?」など、具体的な質問をすることで、コミュニケーションが生まれ、アドバイスをもらいやすくなります。
水泳部は個人競技の側面もありますが、チームとしての絆も強い部活です。一生懸命な後輩を助けたくない先輩はいません。教わることで上達が早まり、部活全体に良い雰囲気が生まれます。
自分のペースとマナーを守る
練習中は、レーンの中で複数の人が泳ぎます。通常は「サークルスイム」と言って、レーンの右側(または左側)を反時計回りにぐるぐると回るルールが採用されます。
初心者のうちは、どうしても周りより遅れてしまうことがありますが、それは仕方のないことです。もし後ろから速い人が来たら、壁際で止まって道を譲るなど、マナーを守ればトラブルにはなりません。
また、無理をしてサークルを守ろうとしてフォームが崩れるよりは、コーチに相談して本数を減らしたり、サークルを長めに設定してもらったりして、正しいフォームで泳ぎ切ることを優先しましょう。
初心者のためのチェックリスト
□ 挨拶は大きな声で元気よく
□ わからない用語はその場で聞く
□ きつい時は無理せず休む勇気も持つ
□ 練習後はしっかりケアをする
まとめ:水泳部の練習を理解して楽しく上達しましょう
水泳部の練習について、基本的な流れから専門用語、上達のコツまで解説してきました。
一見するとハードで複雑に見える練習メニューも、一つ一つには「速く、長く、美しく泳ぐ」ための明確な意図が込められています。
最初は用語を覚えたり、サークル計算をしたりするだけで精一杯かもしれませんが、慣れてくれば自分でメニューの意図を汲み取り、より質の高い練習ができるようになります。
練習は嘘をつきません。日々の積み重ねが、やがて大きなタイム短縮となって返ってきます。
この記事を参考に、水泳部の練習に対する理解を深め、仲間と共に自己ベスト更新を目指して頑張ってください。プールの底から見える景色が、努力の数だけ輝いて見えるはずです。



