「グライドキック」という言葉を耳にしたことはありますか?水泳教室の進級テストの項目にあったり、コーチから練習するように言われたりして、具体的にどのような練習なのか気になっている方も多いでしょう。
グライドキックは、簡単に言えば「ビート板を使わずに、けのびの姿勢でキックをする練習」のことです。一見地味に見えるかもしれませんが、実はクロールや平泳ぎなど、あらゆる泳ぎの土台となる非常に重要なテクニックです。
この練習をマスターすることで、水の中での正しい姿勢が身につき、体が沈みにくくなり、楽に長く泳げるようになります。水泳を始めたばかりの初心者の方や、お子様の練習をサポートしたい保護者の方に向けて、グライドキックの基本から上達のコツまでをやさしく解説していきます。
グライドキックとは何か?水泳における重要な基礎技術

まずは、グライドキックがどのような練習なのか、なぜ水泳において重要視されているのかを詳しく見ていきましょう。言葉の意味を理解することで、練習の目的が明確になります。
グライドキックの定義(けのび+キック)
グライドキックとは、「グライド(滑るように進む姿勢)」と「キック(足の動作)」を組み合わせた言葉です。具体的には、壁を蹴って「けのび」をした一直線の姿勢のまま、ビート板を持たずにバタ足や平泳ぎのキックを行って進む練習方法を指します。
多くのスイミングスクールでは、ビート板を使った「板キック」の次のステップとして導入されています。板キックではビート板の浮力に頼ることができますが、グライドキックでは自分の力だけで体を水平に保たなければなりません。
顔を水につけた状態で手先から足先までを一直線にし、水の抵抗を最小限に抑えながら進む感覚を養うための、まさに「泳ぎの第一歩」とも言える練習なのです。
ビート板キック(板キック)との決定的な違い
ビート板を使ったキック練習とグライドキックの最大の違いは、「浮力の確保」と「重心の位置」にあります。ビート板があるときは、頭や手が水面より高い位置に保たれやすく、上半身が浮いているため呼吸も自由に行えます。
一方、グライドキックでは支えとなる道具がありません。そのため、自ら水に浮くバランス感覚を掴む必要があります。特に初心者の場合、ビート板がないと不安で頭を上げてしまいがちですが、頭を上げると逆に下半身が沈んでしまいます。
この「道具に頼らずに体を水平に保つ」という点が、実際の泳ぎ(クロールや平泳ぎ)に直結する重要なスキルとなります。板キックで脚力と体力をつけ、グライドキックで姿勢とバランスを完成させるという流れが一般的です。
なぜグライドキックが必要なのか
「なぜわざわざビート板なしで練習するの?」と思うかもしれませんが、これには大きなメリットがあります。最大の目的は「ストリームライン(流線型)」の習得です。水の抵抗を最も受けにくいこの姿勢をキープしながらキックを打つことができれば、無駄な力を使わずにスイスイと進めるようになります。
また、手を使わずに足だけで進むため、キックの推進力が正しく発揮されているかどうかがダイレクトに分かります。姿勢が悪いと全く進まないため、自分の泳ぎの課題に気づきやすいのです。
さらに、クロールの息継ぎや平泳ぎの伸びなど、次のレベルの技術へ進むための「体幹の安定性」を養う効果もあります。グライドキックは、初心者から上級者まで、常に立ち返るべき基本の練習と言えるでしょう。
初心者必見!グライドキックの正しいやり方と姿勢

ここでは、最も基本的な「クロールのバタ足を使ったグライドキック」の正しいやり方を解説します。形を真似するだけでなく、意識すべきポイントを押さえることが成功への近道です。
理想的なストリームラインの作り方
グライドキックの基本は、美しい「けのび」の姿勢から始まります。壁を蹴り出した後、両腕を耳の後ろでしっかりと組み、頭を腕の間に挟み込むようにします。手先は鋭く前へ伸ばし、重ねた手のひらは離れないようにしましょう。
このとき、肩に力が入りすぎて首がすくんでしまわないように注意が必要です。肩甲骨を少し寄せるイメージで腕を伸ばすと、胸が開きやすくなります。背筋を反りすぎるのではなく、お腹を薄く引き伸ばすような感覚で、頭のてっぺんから足の指先までが一本の棒になるように意識してください。
この「ストリームライン」が崩れていると、いくら足を強く動かしても水に抵抗を受けてしまい、前に進むことができません。まずはキックをせずに、けのびだけで5メートルほどきれいに進めるか確認してみるのも良いでしょう。
目線と頭の位置で浮き沈みが決まる
グライドキックで体が沈んでしまう最大の原因は「頭の位置」です。人間は頭が上がると足が下がるという構造になっています。そのため、プールの底を見るようにして、しっかりと顔を水につけることが大切です。
目線は「真下」か「やや斜め後ろ(おへその方向)」を見るくらいがちょうど良いでしょう。前を見ようとして顎が上がると、お尻と足が沈んでブレーキがかかってしまいます。「後頭部で水面を押す」ようなイメージを持つと、頭が適切な位置に収まりやすくなります。
水泳ゴーグルをしている場合は、プールの床にあるラインやタイルを目印にして、頭の位置を固定するように意識してみてください。これだけでボディポジションが驚くほど安定します。
足の動かし方と推進力のポイント
姿勢ができたら、いよいよキック(バタ足)を行います。このとき、膝を大きく曲げてバチャバチャと水面を叩くようなキックはNGです。膝が曲がると水の抵抗が増え、体が沈む原因になります。
理想的なキックは、足の付け根(股関節)から動かすイメージで行います。太ももから動かし、その力が膝、足首、足の甲へと波のように伝わっていくのが正解です。足首はリラックスさせ、足の甲で水を後ろへ押しやるように蹴りましょう。
また、足の幅を開きすぎないことも重要です。両足の親指が触れ合うくらいの幅で、小刻みにリズミカルに動かす方が、姿勢が安定しやすく推進力も生まれます。「水面を撫でるように」「水中に泡を蹴り込むように」動かすと良いでしょう。
うまくできない!沈んでしまう原因と解決のコツ4選

グライドキックに挑戦しても、「すぐに足が沈んでしまう」「全然前に進まない」と悩む方は少なくありません。ここでは、よくある失敗の原因と、それを解決するための具体的なコツを4つ紹介します。
【コツ1】息をしっかり吸って肺を「浮き袋」にする
人間の体は、空気をたくさん吸い込むほど水に浮きやすくなります。グライドキックを始める前に、これ以上吸えないというくらい大きく息を吸い込み、水の中ではその息を止めておきましょう。
肺に空気が満タンに入っている状態は、体の中に大きな「浮き袋」があるのと同じです。逆に、苦しくなって息を吐ききってしまうと、浮力がなくなって体は沈んでいきます。
練習距離が長くて途中で息継ぎが必要な場合も、吐くのは一瞬にして、すぐにまた新鮮な空気をたっぷりと吸い込むように意識してください。初心者のうちは、無理に息継ぎをせず、息が続く範囲で短い距離を泳ぐことから始めるのがおすすめです。
【コツ2】重心を前(胸の方)に乗せる感覚を持つ
水の中では、どうしても下半身の方が重く、沈みやすくなっています。水平な姿勢を保つためには、重心を意識的に「前(胸のあたり)」に乗せる必要があります。
シーソーをイメージしてみてください。足側が下がらないようにするには、頭や胸側の方に体重をかける必要があります。具体的には、伸ばした腕と胸で水にもたれかかるような感覚を持つと良いでしょう。
この感覚は「伏し浮き」の練習で掴むことができます。胸を少し張って、水底に向かって胸を押し付けるようなイメージを持つと、不思議とお尻や足が浮いてくる感覚が分かるはずです。この「重心移動」ができると、キックがとても楽になります。
【コツ3】力みすぎない!リラックスが浮く鍵
「沈みたくない!」と思って体に力を入れすぎると、筋肉が硬くなり、かえって沈みやすくなってしまいます。特に肩や首に力が入ると、姿勢がこわばってスムーズな動きができなくなります。
水泳では「脱力」が非常に重要なキーワードです。必要な部分(お腹や足の付け根など)には力を入れつつ、肩や手首、足首などの関節はリラックスさせておく必要があります。
水に体を預けるような気持ちで、ゆったりと構えましょう。もし練習中に力んでしまったら、一度立ち上がって深呼吸をし、肩を回してリセットしてから再開してみてください。リラックスした状態の方が、水が体を支えてくれる感覚を掴みやすくなります。
【コツ4】キックの幅とリズムを一定にする
一生懸命進もうとして、キックのリズムがバラバラだったり、蹴り幅が大きすぎたりすると、姿勢が上下に揺れてしまい、抵抗が増えて進みません。
キックは「速く強く」よりも、「一定のリズムで細かく」打つことを意識しましょう。足の幅は握りこぶし1つ分程度空け、その範囲内でバタバタと動かし続けます。大きな水しぶきを上げる必要はありません。
水中で「ボコボコ」と低い音が響くようなキックが理想的です。一定のリズムを刻むことで、体の軸が安定し、推進力が途切れずに前へ進み続けることができます。
応用編:平泳ぎや背泳ぎでのグライドキック

グライドキックと言えばクロールのバタ足が一般的ですが、実は他の泳ぎ方でも「グライド(伸び)」の意識は非常に重要です。ここでは、平泳ぎや背泳ぎにおけるグライドキックについて解説します。
平泳ぎにおける「伸び」を作るグライドキック
平泳ぎにおいて、グライドキックは最も重要な練習の一つです。平泳ぎは「キックで進み、その勢いで伸びる(グライドする)」泳ぎ方だからです。この「伸び」の時間がないと、忙しく泳ぐだけでなかなか進まない平泳ぎになってしまいます。
練習方法としては、気をつけの姿勢、またはストリームラインを組んだ状態で、平泳ぎのキックを行います。キックを打ち終わった後に、両足をピタリと閉じて、2〜3秒間じっと体を伸ばして進む時間を取ります。
この「蹴って、閉じて、伸びる」というリズムを体に覚え込ませることが目的です。足の裏で水を捉え、蹴り終わった後に足がバラバラにならないよう、内ももを締める意識を持つことがポイントです。
背泳ぎの姿勢を安定させる背面グライドキック
背泳ぎのグライドキックは、「背面キック」とも呼ばれます。仰向けの状態でストリームラインを組み、バタ足を行う練習です。この練習は、背泳ぎ特有の「鼻に水が入る恐怖心」を克服し、安定した仰向けの姿勢を作るのに役立ちます。
ポイントは、おへそを水面近くまで持ち上げることです。お尻が落ちてしまうと、「くの字」の姿勢になり沈んでしまいます。耳が水に浸かるまでしっかりと頭を倒し、天井(または空)を見上げながらキックをします。
このとき、膝が水面から飛び出さないように注意しましょう。膝が水面に出ると、自転車を漕ぐような動作になりがちです。足の甲で水を下から上へ蹴り上げる感覚を養うことが、きれいな背泳ぎへの第一歩です。
ドルフィンキックへの応用と水中動作
バタフライの基礎となるドルフィンキックも、グライドキックの姿勢で練習することができます。両足を揃えて、体全体をうねらせるようにして進みます。
通常のグライドキックよりも、さらに「体幹」の使い方が重要になります。手先や頭が大きく上下動しないように固定し、胸からお腹、足先へと波を伝えるように動かします。
また、壁を蹴った直後の水中動作(スタートやターン後)でも、この姿勢でのドルフィンキックが使われます。4泳法すべてのスタート局面に共通する技術なので、グライド姿勢でのドルフィンキックができるようになると、レースやタイム測定でのパフォーマンスが大きく向上します。
グライドキックをマスターするための効果的な練習ステップ

いきなり完璧なグライドキックをやろうとしても、難しくて挫折してしまうことがあります。ここでは、段階を追って無理なく習得できる練習ステップを紹介します。
ステップ1:まずは壁を蹴って「けのび」だけを確認
最初はキックを打たずに、「けのび」だけでどこまで進めるか試してみましょう。壁を強く蹴り、ストリームラインを作って、体が完全に止まって浮き上がるまでじっとしています。
この練習で、自分の姿勢が正しいかどうかが分かります。すぐに足が沈んでしまう場合は、頭の位置や重心の乗せ方を修正する必要があります。5メートル以上のラインまで、キックなしでスーッと進めるようになれば合格点です。
この「何もしないで進む感覚」こそが、グライド(滑る)の本質です。この感覚を体に覚えさせてから、次のステップへ進みましょう。
ステップ2:短い距離から呼吸なしでトライ
けのびの姿勢が安定したら、静かにバタ足を加えてみます。まずは呼吸のことを考えず、息が続く範囲で短い距離(5メートル〜7メートル程度)を目指しましょう。
壁を蹴ってスタートし、けのびのスピードが落ちてきたタイミングでキックを始めます。最初はゆっくりとしたリズムで、姿勢が崩れないことを最優先にします。
途中で苦しくなったら無理せず立ち上がってください。「正しい姿勢で泳ぎ切る」という成功体験を積み重ねることが大切です。慣れてきたら、徐々に距離を伸ばしていきます。
ステップ3:呼吸動作を入れた練習への移行
ある程度長い距離を進めるようになったら、呼吸動作を取り入れます。グライドキックの練習における呼吸は、いくつかの方法があります。
一つは、顔を上げてパッと息を吸い、すぐにまた頭を入れて元の姿勢に戻る方法(面かぶりクロールに近い動作)。もう一つは、片手を回して横向きに呼吸をする、実際のクロールに近い方法です。
初心者の場合は、顔を上げて前を向く呼吸で構いません。重要なのは「呼吸した後に、再びきれいなストリームラインに戻れるか」です。呼吸のたびに体が沈んでしまわないよう、息を吸ったら素早く頭をしまい、重心を前に戻す意識を持ちましょう。
まとめ
今回は、水泳の基礎である「グライドキック」について、その意味や正しいやり方、上達のコツを解説しました。
グライドキックは、単なる「ビート板なしのバタ足」ではありません。水の中で抵抗の少ない姿勢を作り、自分の力で浮きながら進むためのバランス感覚を養う、非常に奥の深い練習です。この練習を通して「ストリームライン」や「重心移動」をマスターできれば、クロールはもちろん、平泳ぎや背泳ぎなど、すべての泳ぎが見違えるように楽になります。
最後に、記事のポイントを振り返ってみましょう。
グライドキック上達のポイント
● 基本姿勢:手先から足先まで一直線の「ストリームライン」を保つ。
● 目線:真下か少し後ろを見て、頭をしっかり水に入れる。
● 浮力確保:息をたくさん吸って肺を浮き袋にし、重心を胸に乗せる。
● キック:膝を曲げすぎず、足の付け根から一定のリズムで動かす。
もし練習中にうまくいかなくなったら、一度「けのび」だけの練習に戻ってみるのもおすすめです。焦らず、リラックスして水に浮く感覚を楽しんでください。地道な練習ですが、グライドキックができるようになれば、あなたの水泳ライフはもっと楽しく、快適なものになるはずです。



