水泳の4泳法の中でも、特に「難しい」「体力がいる」というイメージを持たれがちなバタフライ。プールでダイナミックに泳ぐ姿に憧れつつも、自分には無理だと諦めてしまっている初心者の方も多いのではないでしょうか。
しかし、バタフライは力だけで泳ぐものではありません。実は、正しい「うねり」と「リズム」さえ身につければ、女性や年配の方でも楽に長く泳ぎ続けることができる種目なのです。大切なのは、我流で力を込めることではなく、水の抵抗を減らす効率的な体の使い方を知ることです。
この記事では、バタフライ初心者が最初に押さえておくべき基本のフォームから、具体的な練習方法までをわかりやすく解説します。一つひとつの動作を分解して理解し、焦らずステップアップしていくことで、必ずスムーズに泳げるようになります。憧れのバタフライをマスターして、水泳の楽しさをさらに広げていきましょう。
バタフライ初心者が最初に知っておくべき泳ぎのメカニズム

バタフライを習得しようとする際、多くの初心者が「腕力で体を持ち上げよう」としてしまいます。しかし、これは大きな誤解です。バタフライはパワーではなく、体全体の連動性で泳ぐ種目です。まずは、その独特な泳ぎの仕組みを頭で理解することから始めましょう。
力任せはNG!リズムで泳ぐことの重要性
バタフライにおいて最も大切な要素は「リズム」です。クロールや背泳ぎが左右の手足を交互に動かすのに対し、バタフライは左右対称に同時に動かします。この動きの特性上、タイミングがずれると一気に失速し、再加速するために余計なエネルギーを使ってしまうことになります。
初心者の多くは、体を高く持ち上げようとして腕に力を入れすぎ、その結果リズムが崩れて後半にバテてしまいます。上手な人は、水の上に体を「乗せる」ような感覚で、一定のリズムを刻みながら泳いでいます。まずは「イチ、ニ、イチ、ニ」という頭の中でのリズム作りを意識し、リラックスして動作を行うことが上達への第一歩です。
推進力の源となる「うねり」とは
バタフライ特有の動きである「うねり」は、イルカが泳ぐようなドルフィンキックの動きから生まれます。これは単に足を上下させるだけでなく、胸、腰、足先へと波が伝わるような全身運動です。この「うねり」がうまくできると、腕の力を使わなくても自然と体が前に進み、水面へと浮き上がることができます。
逆に言えば、うねりが使えていない状態で手だけを回そうとしても、下半身が沈んでしまい、非常に苦しい泳ぎになってしまいます。バタフライは「手で泳ぐ」のではなく「体のうねりで泳ぐ」という意識を強く持ちましょう。この感覚をつかむことが、楽に泳ぐための最大のポイントとなります。
ストロークとキックの基本的なタイミング
バタフライの基本的なリズムは、「1回のストローク(腕のかき)」に対して「2回のキック」を行うのが基本です。これを「2ビート」と呼びます。この2回のキックにはそれぞれ役割と打つべきタイミングが決まっており、これがずれるとスムーズな泳ぎにはなりません。
1回目のキックは手が水に入るとき、2回目のキックは手が水を押し切って体を引き上げるときに打ちます。初心者のうちは、このタイミングを合わせるのが難しく感じるかもしれませんが、まずは「トン(入水)、トン(フィニッシュ)」というリズムを陸上でイメージトレーニングすることから始めてみてください。手と足の協調動作こそが、バタフライの核となる部分です。
バタフライの基本姿勢「ストリームライン」と「うねり」の習得

泳ぎの土台となるのは、水の抵抗を最小限に抑える姿勢「ストリームライン」と、そこから生まれる「うねり」です。手足を動かす前に、まずはこの基本姿勢と体の使い方をしっかりと体に覚え込ませる必要があります。
水の抵抗を減らすストリームラインの作り方
水泳の全種目に共通する基本ですが、バタフライにおいても「ストリームライン(けのびの姿勢)」は非常に重要です。両手を頭の上で重ね、腕で耳を挟むようにして真っ直ぐに伸びた姿勢を作ります。この時、背中が反りすぎたり、逆にお腹が落ちてしまったりしないよう、腹筋に軽く力を入れて体をフラットに保つことが大切です。
バタフライでは、うねりの動作中にも一瞬このストリームラインに戻る瞬間があります。この瞬間にどれだけ抵抗なく水に乗れるかが、楽に泳ぐための分かれ道となります。壁を蹴ってスタートする際や、ターンの後など、まずはきれいなストリームラインを作ることを常に意識してください。
うねりは「腰」ではなく「胸」から始める
「うねり」というと、腰を振るような動きをイメージする方が多いですが、正しくは「胸」から動きを始めるイメージです。胸を水中に押し込むように沈めることで、その反動で腰が浮き上がり、最後に足がしなるように動きます。この連動性が推進力を生み出します。
初心者にありがちなのが、腰だけを上下させたり、膝を極端に曲げてキックを打とうとしたりする動きです。これでは波が途切れてしまい、前に進む力が生まれません。みぞおちあたりを起点にして、滑らかな波を作るように意識してみましょう。陸上で鏡を見ながら、胸を前後に出し入れするウェーブの練習をするのも効果的です。
視線と頭の位置が姿勢を安定させる
うねりを作る際、頭の位置と視線も重要な役割を果たします。頭が上がると腰は下がり、頭が下がると腰は上がりやすくなるという人体の構造(シーソーの原理)を利用します。入水時には顎を引いて視線をプールの底に向け、重心を前へ移動させます。
呼吸をしようとして常に前を向いていると、頭が上がったままになり、腰が沈んで「立ち泳ぎ」のような姿勢になってしまいます。これでは大きな抵抗を受けてしまいます。息継ぎの瞬間以外は、基本的に頭を腕の間に収め、視線は真下か少し斜め前を見るようにして、フラットな姿勢を維持することを心がけましょう。
うねりを体感するためのドリル練習
実際に水中でうねりの感覚をつかむためには、「イルカ飛び」や「壁キック」の練習がおすすめです。イルカ飛びは、プールの底を蹴ってジャンプし、空中で体を反らせてから、指先、頭、体の順に一点に入水していく練習です。これにより、入水後の重心移動と浮き上がりの感覚を養えます。
また、壁を持って顔をつけ、胸を押し込んで腰を浮かせ、その後に腰を沈めて足を打つ、という動作を繰り返す練習も有効です。手足の動きをつけず、体幹部分の動きだけで水を感じることで、バタフライに必要な「体の芯からの動き」を理解できるようになります。
初心者がつまずきやすい「キック」のタイミングと打ち方

バタフライのキック(ドルフィンキック)は、推進力を生むだけでなく、リズムを作り、呼吸をしやすくするための重要な動作です。ここでは、2種類のキックの役割と、初心者が陥りやすいミスについて詳しく解説します。
第1キック:入水の勢いを利用して前に進む
第1キックは、手が前の水に入水するタイミングに合わせて打ちます。このキックの主な目的は、腰を高い位置に保ち、体重を前方へ移動させて推進力を得ることです。入水と同時にドンと蹴り込むことで、体がグンと前に伸びる感覚を得ることができます。
この時、強く蹴りすぎると体が深く潜りすぎてしまい、次の浮上が大変になってしまいます。あくまで「重心移動のスイッチ」を入れるようなイメージで、タイミングを合わせることを重視してください。手が着水する瞬間に合わせて、足の甲で水を捉えるように意識しましょう。
第2キック:体を持ち上げて呼吸を助ける
第2キックは、手が水をかき終わり、太ももの横まで来たタイミング(フィニッシュ)に合わせて打ちます。このキックの役割は、推進力の維持とともに、沈もうとする体を水面上に持ち上げ、リカバリー(腕を前に戻す動作)と呼吸を助けることです。
多くの初心者が、この第2キックを忘れてしまったり、タイミングが遅れたりします。第2キックがないと、腕の力だけで重い体を持ち上げなければならず、非常に疲れる泳ぎになってしまいます。水を後ろに押し切るのと同時に「ポンッ」と蹴ることで、体がふわっと浮き上がる感覚をつかんでください。
膝を曲げすぎる「膝蹴り」に注意
ドルフィンキックで最も多い間違いが、膝を大きく曲げてしまうことです。膝を90度近く曲げてから蹴ろうとすると、曲げた瞬間に太ももやふくらはぎが大きな抵抗となり、ブレーキがかかってしまいます。また、膝下の力だけで蹴っても、水を押す面が小さく、十分な推進力は得られません。
理想的なキックは、太ももの付け根(股関節)から動かし、その力が膝、足首へと伝わって、最後にムチのようにしなる動きです。膝は「曲げる」のではなく、水の抵抗で「自然に曲がる」程度が正解です。お尻の筋肉を使って太もも全体を上下させる意識を持つと、膝の曲がりすぎを防ぐことができます。
足首の柔らかさが推進力を変える
キックの効果を最大化するためには、足首の柔軟性が欠かせません。足首が硬いと、足の甲で水を後ろに押し出すことができず、水を下に蹴ってしまったり、単に水を切るだけの動作になったりしてしまいます。足首を伸ばし、つま先が内側を向くような形(内股気味)で蹴ると、水を捉えやすくなります。
足首が硬い自覚がある方は、日頃からストレッチを行い、足の甲を伸ばす柔軟性を高めておきましょう。また、水泳用のフィン(足ひれ)を使って練習するのもおすすめです。フィンを使うと水の抵抗を足全体で感じやすく、正しい足首の使い方やしなる動きを体感しやすくなります。
メモ:フィンの活用について
初心者の方こそ、練習でフィンを活用することをお勧めします。フィンをつけると楽に進むため、呼吸や腕の動作に余裕が生まれ、正しいフォームを意識しやすくなります。まずはフィンありでリズムを覚え、徐々にフィンなしでの練習に移行するとスムーズです。
ビート板を使ったキック練習のコツ
キックの基礎を固めるには、ビート板を使った練習が有効です。ただし、顔を上げてビート板を持つと、腰が反りやすく、バタフライ特有のうねりが作りにくくなることがあります。そのため、時々顔を水につけてストリームラインに近い姿勢で練習するか、シュノーケルを使用して練習するのが理想的です。
練習では、一定のリズムでキックを打ち続けるだけでなく、「強く、弱く、強く、弱く」といった強弱をつける練習もしてみましょう。実際のバタフライでは、第1キックと第2キックで強弱をつけることが多いため、自在にコントロールできる技術が役立ちます。
腕の動作「ストローク」をマスターして推進力を生む

バタフライの腕の動きはダイナミックに見えますが、水中での動きは非常に繊細です。無駄な力を使わずに効率よく水をかくための「ストローク」の基本を解説します。
エントリーとキャッチ:肩幅で水に入る
腕を前方へ戻し、水に入れる動作を「エントリー」と呼びます。バタフライのエントリーは、左右の肩幅、もしくはそれより少し広いくらいの位置で行います。広すぎても狭すぎても、次の水をかく動作(キャッチ)に移りにくくなります。
入水時は、親指側から着水し、すぐに手のひらを外側に向けながら水を捉える「キャッチ」の動作に入ります。この時、水面を叩くのではなく、静かにスッと差し込むように意識しましょう。入水直後に肘が下がってしまうと水を押せなくなるので、「ハイエルボー(肘を高く保つ)」を意識して水を抱え込む準備をします。
プルとプッシュ:鍵穴を描くイメージで
水をかいて体を前に進める動作は「プル(引く)」と「プッシュ(押す)」に分けられます。初心者の方に分かりやすいイメージとしてよく使われるのが、「水中で鍵穴(キーホール)を描く」というものです。
1. 外側から内側へ(プル): 入水後、水を抱え込むようにしながら、手のひらを胸の下あたりに引き寄せます。
2. 内側から外側へ(プッシュ): 胸の下から太ももの横に向かって、水を一気に押し出します。
この一連の動作で、手のひらが体の中心に寄り、最後は腰の横でフィニッシュを迎える軌道になります。ただし、最近の競泳のトレンドでは、あまり極端に内側に寄せすぎず、真っ直ぐに近い軌道でかく方法も主流ですが、初心者はまず「お腹の下で水を捉えて後ろへ押す」感覚をつかむために、この鍵穴のイメージを持つと良いでしょう。
リカバリー:水面ギリギリをリラックスして戻す
水をかき終わった後、腕を空中で前方に戻す動作を「リカバリー」と呼びます。ここで多くの初心者がやってしまうミスが、腕を高く上げすぎてしまうことです。腕を高く上げようとすると、体が立ち上がり、足が沈む原因になります。
リカバリーは「低い位置」で「脱力」して行うのがコツです。小指側から水を出たら、親指を下にするような形で、水面すれすれを這うように腕を横から回します。遠心力を使い、腕の重さを利用して前に放り投げるようなイメージです。肩の力を抜き、リラックスして行うことで、次のストロークへのエネルギーを温存できます。
T字で止まらない!動きを止めない工夫
バタフライが「きつい」と感じる原因の一つに、泳ぎの中で動きが止まってしまうことが挙げられます。特に、両手が真横に広がった状態(T字の状態)で動きが止まると、推進力が消え、体が沈んでしまいます。
ストロークは円運動のように絶え間なく続けることが大切です。入水したらすぐにキャッチへ、プッシュしたらすぐにリカバリーへと、動作の継ぎ目をなくすように意識してください。自転車のペダルを漕ぎ続けるように、腕を回し続けることで、沈む前に次の推進力が生まれ、楽に泳ぎ続けることができます。
最も難しい「息継ぎ」のタイミングを克服する

バタフライ習得の最大の壁と言われるのが「息継ぎ」です。タイミングが合わないと水を飲んでしまったり、失速してしまったりします。ここでは、楽に呼吸をするためのポイントを解説します。
呼吸のタイミングは「プッシュの終わり」
息継ぎのタイミングは非常にシビアです。顔を上げ始めるのは、水中で手が胸の下を通り、太ももに向かって水を押し出す「プッシュ」の動作と同時です。このプッシュの加速を利用して、自然と頭が水面上に出るようにします。
初心者は、手を回し始めると同時に顔を上げようとしてしまいがちですが、それではまだ推進力が生まれていないため、頭が上がりません。焦らず、「水を押す力で頭が持ち上がる」という感覚を大切にしましょう。第2キックのタイミングとも連動させることで、よりスムーズに顔を出すことができます。
顎を引いて「前」ではなく「斜め下」を見る
息継ぎの際、顔を高く上げすぎて正面を向いてしまうと、下半身が大きく沈んでしまいます。これを防ぐためには、「顎を引いたまま」呼吸をすることが重要です。水面ギリギリに口が出れば呼吸は可能です。
視線は正面の壁を見るのではなく、水面のすぐ先、あるいは斜め下を見るように意識してください。「水面を顎で切る」ようなイメージで、低い姿勢のまま呼吸をすることで、ストリームラインが崩れにくくなり、スムーズな泳ぎを維持できます。
頭を戻す動作は腕よりも早く
呼吸をした後、頭をいつまでも上げているとブレーキになります。バタフライの呼吸では、「手よりも先に頭を水に戻す」ことが鉄則です。リカバリーした腕が着水する前には、すでに顔が水中に入っている状態を目指しましょう。
「パッ」と素早く息を吸い、すぐに顎を引いて頭をしまい込みます。頭が先に入ることで重心が前方に移動し、自然とお尻が持ち上がって、次のうねりの動作へとスムーズにつながっていきます。この「頭の素早い戻し」ができるようになると、バタフライの安定感が劇的に向上します。
段階的に上達するための練習ドリル紹介

いきなり完成形のバタフライ(コンビネーション)を泳ごうとすると、動作が複雑すぎて混乱してしまいます。要素を分解したドリル練習を行い、一つひとつの技術を確実に身につけていきましょう。
基本を固める「サイドドルフィンキック」
うねりの感覚を養うために、体を横向きにして行うドルフィンキックです。片手を前に伸ばし、もう片手は体側に添え、顔は横を向けて呼吸しやすい状態にします。この状態で、体の前面と背面を使って大きく波打つようにキックを打ちます。
通常のうつ伏せの状態よりも、体の動きを確認しやすく、呼吸のストレスも少ないため、リラックスしてうねりの練習ができます。左右どちらの向きでもスムーズにうねりが作れるように練習しましょう。
タイミングをつかむ「片手バタフライ」
片手だけでストロークを行い、もう片方の手は前に伸ばしたままにしておく練習です。このドリルは、バタフライの練習において最もポピュラーで効果的な方法です。片手だけを動かすことで、呼吸のタイミング(横向き呼吸でOK)や、キックとの連動に集中しやすくなります。
1. 右手でストロークしながら、横向きで呼吸。
2. リカバリーして手が前で揃ったら、第1キック。
3. これを繰り返します。
慣れてきたら、呼吸を正面向きに変えてみたり、「右・右・左・左・両手」というように、徐々に両手の動きを混ぜていくと、完成形に近づけることができます。
リズムを整える「3キック1ストローク」
通常の2ビートではなく、1回のストロークに対して3回や4回のキックを入れる練習です。バタフライで疲れてしまう原因の一つは、焦って手ばかり回してしまうことです。このドリルでは、あえてストロークの間隔を空けることで、落ち着いてリズムを整えることができます。
「トン、トン、トン、パッ(ストローク)」というように、キックで十分に伸びる時間を作り、姿勢を安定させてからストローク動作に入ります。伸びのある大きな泳ぎを身につけるのに最適な練習法です。
バタフライ初心者まとめ
バタフライは、一見するとパワフルで難易度が高い泳ぎに見えますが、その本質は「うねり」と「リズム」にあります。今回解説した以下のポイントを意識して、少しずつ練習に取り組んでみてください。
バタフライ習得の重要ポイント振り返り
● うねり: 胸から動きを始め、全身をムチのように使う。
● 姿勢: 常にストリームラインを意識し、頭を上げすぎない。
● キック: 第1キックで重心移動、第2キックで浮上。膝は曲げすぎない。
● ストローク: リカバリーは低く楽に。動きを止めずに回し続ける。
● 呼吸: プッシュの最後でコンパクトに行い、手より先に頭を戻す。
最初から完璧に泳ごうとする必要はありません。まずはドリル練習を通じて、「片手なら楽に泳げる」「キックだけなら進む」という小さな成功体験を積み重ねていくことが大切です。
焦らず、力まず、水のリズムに身を任せる感覚がつかめれば、誰でも優雅にバタフライを泳げるようになります。ぜひ、次回のプールでの練習で実践してみてください。あなたのバタフライが、より楽に、より美しくなることを応援しています。



