水泳の4泳法の中でも、平泳ぎは特にルールが細かく厳格なことで知られています。「ただ泳げればいい」と思っていても、大会や記録会では少しのフォームの乱れで失格になってしまうことが少なくありません。
た、ルールを知ることは、水の抵抗を減らした効率的な泳ぎを身につける近道でもあります。この記事では、初心者の方にもわかりやすいように、平泳ぎルールの基本から、間違いやすいポイント、最新の注意点までを丁寧に解説していきます。
平泳ぎルールの基本!泳法全体の流れとサイクル

平泳ぎは他の泳ぎ方と比べて、動きの制限が多いのが特徴です。まずは、泳ぎの基本となるサイクルや姿勢について、絶対に守らなければならない大原則を確認していきましょう。これを知っておくだけで、きれいな泳ぎへの第一歩となります。
正しい泳ぎのサイクル「一かき一けり」
平泳ぎの最も基本的なルールは、腕の動作と足の動作を交互に行うことです。これを「一かき一けり」と呼びます。具体的には、一度手をかいたら、必ず一度足を蹴るというセットを繰り返さなければなりません。クロールのように足をバタバタさせ続けたり、一回の手の動作に対して二回キックを打ったりすることは禁止されています。
このサイクルは、スタートからゴールまで常に守る必要があります。初心者のうちは、手と足のタイミングがずれてしまいがちですが、必ず「手→足」の順番でリズムよく動くことを意識しましょう。もし競技中にこのサイクルが乱れてしまうと、泳法違反として失格の対象になります。
体は常に「うつ伏せ」が基本姿勢
平泳ぎは、基本的に常に「うつ伏せ」の姿勢で泳ぐことがルールで定められています。特に注意が必要なのは、ターンの直後です。壁を蹴った後、体が横を向いたまま泳ぎ出してしまうと違反になることがあります。壁を離れたら速やかにうつ伏せの姿勢に戻らなければなりません。
ただし、背中が水面に対して完全に水平である必要はありません。呼吸動作のために上半身が起き上がることは自然な動きとして認められています。重要なのは、背泳ぎのように仰向けになったり、極端に横を向いたりしないことです。常に胸が底を向いているイメージを持つと良いでしょう。
頭が水面から出るタイミングの決まり
平泳ぎでは、一つのサイクル(一かき一けり)の間に、必ず頭の一部が水面から出なければなりません。これは、潜水泳法を制限するためのルールです。ずっと水中に潜ったまま泳ぎ続けることはできないのです。
具体的には、腕をかいて体が持ち上がるときに頭が水面を割ります。もし疲れてきて、頭が完全に水没したままストロークとキックを繰り返してしまうと失格となります。ただし、スタートとターンの直後だけは例外で、一定の距離まで潜ったまま進むことが許されていますが、それ以外の通常の泳ぎでは、毎回確実に水面に顔を出す必要があります。
手の動き(ストローク)に関する詳しいルール

平泳ぎの手の動きには、「左右対称」や「動かす範囲」について厳しい決まりがあります。推進力を生むための大切な動作ですが、ルールを知らずに大きく動かしすぎると違反を取られやすい部分でもあります。
左右対称で同時に動かすことの重要性
平泳ぎのストロークは、両手を同時に、そして左右対称に動かさなければなりません。例えば、クロールのように左右の手を交互に動かしたり、片方の手だけ大きくかいたりするのはNGです。両手は鏡に映したように同じ動きをする必要があります。
また、高さも揃える必要があります。水面に対して水平な位置関係で動かすことが求められるため、片手が深く、もう片手が浅いといった泳ぎ方は認められません。疲れてくると左右のバランスが崩れやすくなるので、常に両肩のラインを平行に保つ意識を持つことが大切です。
手を引く位置は「お尻のライン」まで
手をかく際、どこまで後ろに水を推して良いかという点にも明確なルールがあります。原則として、手は「お尻のライン(股関節のライン)」よりも後ろまでかいてはいけません。バタフライやクロールのように、太ももまで水を押し切る動作は平泳ぎでは禁止されています。
手は胸の前あたりでかき終え、そこからスムーズに前へ戻す(リカバリー)必要があります。ただし、ここにも例外があります。スタートおよびターンの直後の「ひとがき」だけは、太ももまで大きく水をかくことが許されています。それ以外の通常のストロークでは、手の引きすぎに十分注意しましょう。
リカバリー(手を前に戻す)時の注意点
水をかいた後、手を前に戻す動作を「リカバリー」と呼びますが、このとき手は水面か、水面下を通って前に伸ばさなければなりません。水面より高い位置を通してバタフライのように腕を戻すことは違反です。
また、手を前に伸ばす際に、肘が水面から出てしまっても現在はルール上問題ありませんが、一般的には水面すれすれ、あるいは水中を抵抗少なく突き刺すように伸ばすのが理想的です。ルール上は「両手は胸から同時に、水面下、あるいは水面の上を前方へ伸ばされなければならない」とされています。
足の動き(キック)で失格にならないために

平泳ぎのキックは非常に特殊な動きをするため、初心者だけでなく経験者でも違反を取られやすいポイントです。特に「あおり足」と呼ばれる動作は、多くの人が無意識にやってしまう違反の一つです。
足裏の向きと「あおり足」の禁止
平泳ぎのキックでは、蹴り出す瞬間に「足の裏」が後ろを向いている必要があります。つまり、つま先を外側に向けて、足首をしっかりと曲げた状態(フレックス)で水を蹴らなければなりません。これに対して、足の甲で水を蹴るような動作は禁止されています。
「あおり足」とは、左右の足の高さがずれたり、足の甲で水を叩くように蹴ったりする動作のことです。これは推進力を得るために有利な動きではなく、むしろルール違反として厳しくチェックされます。足首を柔らかく使い、しっかりつま先を外に向けて蹴ることを練習しましょう。
左右同時動作の厳守
手の動きと同様に、足の動きも左右対称かつ同時でなければなりません。片足だけ早く蹴り出したり、蹴り終わった後に足が交差(クロス)してしまったりするのは違反です。特にキックの引きつけ動作で左右のタイミングがずれやすいので注意が必要です。
蹴り終わった後は、両足がまっすぐ揃った状態になるのが理想です。足が上下に重なってしまうと、審判員からは左右非対称な動きに見えてしまうことがあります。蹴った後は「気をつけ」の姿勢のように、両足をピタリと揃える意識を持ちましょう。
ドルフィンキックの特別なルール
基本的に平泳ぎでは、バタフライのようなドルフィンキック(両足を揃えて上下に打つキック)は禁止されています。しかし、スタートとターンの直後に限り、例外的に「1回だけ」ドルフィンキックを打つことが認められています。
この「一回だけのドルフィンキック」にはタイミングのルールがあります。以前はいつ打っても良かったのですが、現在は「平泳ぎのキックを打つ前」に行わなければなりません。通常は、壁を蹴った後のストリームライン(けのび)の最中か、ひとかき目の動作中に打つのが一般的です。このタイミングを間違えると失格になるので注意が必要です。
水面を叩くような動作はNG
キックの際、足が水面から出てバシャバシャと音を立てるような動作は好ましくありません。ルール上、かかとが水面を割ることは許容されていますが、足全体が水面に出てしまい、下に向かって振り下ろすような動作は、禁止されている「下向きのバタフライキック」とみなされる可能性があります。
特に初心者の場合、腰が沈んで足が浮きすぎると、このような動作になりがちです。しっかりと水中で水を捉え、後ろに向かって蹴り出すイメージを持つことが、違反を防ぐとともに推進力を高めるポイントになります。
スタートとターン、ゴールの重要ルール

平泳ぎで最も失格が起きやすいのが、壁に触れる「タッチ」の瞬間と、その後の水中動作です。ここでは、壁際での攻防における重要なルールを深掘りします。
スタート直後の水中動作(ひとかきひとけり)
スタートやターンをしてから、水面に顔を出すまでの間に行う動作を「ひとかきひとけり(プルアウト)」と呼びます。この一連の動作には厳格な順序があります。
【正しいプルアウトの手順】
1. 壁を蹴ってストリームライン(けのび)
2. ドルフィンキック1回(任意のタイミングだが平泳ぎキックの前)
3. 手を太ももまでかく(この時だけ大きくかいてOK)
4. 手を前に戻しながら、平泳ぎのキックを1回打つ
5. 頭が水面に出る
この手順の中で、平泳ぎのキックを2回打ってしまったり、手を完全に戻す前にもう一度かいてしまったりすると失格です。また、2回目のかき動作(ストローク)が内側に向かう前に、必ず頭が水面から出ていなければなりません。深く潜りすぎて浮き上がれずに2かき目に入ってしまうのはよくあるミスです。
ターンタッチは必ず両手で同時に
平泳ぎのターンにおいて、壁へのタッチは「両手同時」に行わなければなりません。クロールや背泳ぎのように片手だけでタッチするのはルール違反です。また、左右の手が離れた状態でタッチする必要があります。
以前は「水面より上か下か」や「高さが揃っているか」も厳しく見られましたが、現在は「両手が同時に壁に触れること」が最重要視されています。とはいえ、安全策として両手を同じ高さで、水面付近の壁にしっかりとタッチすることを習慣づけるのがベストです。指先だけで触れるような曖昧なタッチは、審判に「同時ではない」と判定されるリスクがあります。
ゴールタッチ時の注意点と違反事例
レースの最後、ゴールする際もターンと同様に「両手同時タッチ」が必須です。どんなに接戦であっても、片手を伸ばして先にタッチしてはいけません。体全体を使って壁に飛び込むような勢いで、両手をしっかり壁につけましょう。
よくある違反として、タッチの瞬間に体が横を向いてしまうケースがあります。タッチするまでは「うつ伏せ」の姿勢を維持していなければなりません。タッチした後に安堵して体をひねるのは問題ありませんが、触れる瞬間までは最後まで気を抜かないようにしましょう。また、疲れてストロークが短くなり、壁まで届かずに水中でバタ足をして誤魔化そうとするのも、もちろん失格です。
頭が水面から出るタイミングの決まり(15mルールとの違い)
自由形や背泳ぎ、バタフライには「壁から15m以内に頭を水面に出さなければならない」という明確な距離のルールがありますが、平泳ぎには「15m」という距離制限の記述はありません。その代わり、「ひとかきひとけり」の動作が終わるまで、という動作による制限があります。
ただし、いくら距離制限がないからといって、プールの中央まで潜っていいわけではありません。動作のサイクルとして、2かき目が始まる(手が内側に動き出す)前には必ず顔を出さなければならないため、物理的にはそこまで長く潜ることは不可能です。結果的に15m前後で浮き上がることになりますが、ルール上の定義が他の泳法とは少し異なる点を理解しておきましょう。
意外と知らない?失格になりやすいポイント集

基本的なルールを押さえていても、思わぬところで失格を言い渡されることがあります。ここでは、うっかりやってしまいがちなNG行為をまとめました。
水没したまま泳ぎ続けるのはNG
初心者に多いのが、呼吸が苦しくなったり、タイミングが合わなくなったりして、頭が水中に沈んだまま2回以上のストロークを行ってしまうケースです。前述の通り、平泳ぎは1サイクルごとに頭が水面を割る必要があります。
特にターン前で壁との距離が合わず、小さくかいてそのままターン動作に入ろうとするときに、頭が沈んでしまうことがあります。どんなに短いストロークであっても、リズムを守り、確実に水面に頭頂部や帽子の一部が出るようにしましょう。
ターン後の浮き上がりでのミス
ターンをして壁を強く蹴った後、勢い余って体が裏返ってしまうことがあります。壁を離れた瞬間から、体はうつ伏せ(腹ばい)の方向へ向かっていなければなりません。背泳ぎのように仰向けのまましばらく進んでから回転するのは違反です。
また、浮き上がりの際に「ひとかきひとけり」の動作を焦ってしまい、キックを打つ前に手をかき始めてしまう(あるいはその逆)といった手順の間違いも頻発します。水中の動作は落ち着いて、一つ一つ確認しながら行うことが大切です。
疲れた時のフォーム崩れによる違反
レース後半、疲労がたまると足首の力が抜け、「あおり足」になりやすくなります。また、腕が上がらなくなり、手が水面下深くに沈んだままリカバリーしてしまうこともあります。疲れた時こそ、基本の「丁寧な動作」を意識する必要があります。
手のかきとキックの順序逆転
非常に稀なケースですが、パニックになると手と足の順番がわからなくなることがあります。平泳ぎは「手でかいてから、足で蹴る」が絶対の順序です。同時に動かしたり、足から先に動かしたりすると、リズムが崩れるだけでなく泳法違反となります。常に「プル(手)→ブレス(息継ぎ)→キック(足)→グライド(伸び)」のリズムを頭の中で唱えながら泳ぐと良いでしょう。
まとめ
平泳ぎルールは、一見すると複雑で厳しく感じるかもしれません。しかし、その一つ一つは「公平に競うこと」そして「平泳ぎという泳法の特性を保つこと」を目的に作られています。最後に、特に重要なポイントを振り返りましょう。
【平泳ぎルールの最重要ポイント】
● 常に「一かき一けり」のサイクルを守る。
● 手も足も、左右対称・同時に動かす。
● 足の裏で蹴り、あおり足にならないようにする。
● ターンとゴールは必ず両手同時にタッチする。
● スタート・ターン後の水中動作(ドルフィンキックのタイミング)に注意する。
これらのルールを正しく理解して練習に取り組めば、失格の不安がなくなるだけでなく、水の抵抗が少ない美しいフォームが身につきます。ルールを味方につけて、より速く、より楽しく平泳ぎをマスターしてくださいね。

