クロールを泳いでいて、「息継ぎがいつも同じ方向になってしまう」と感じることはありませんか?右側なら楽に吸えるけれど、左側を向いた瞬間に水を飲んでしまったり、バランスを崩して沈んでしまったり…。
実は、多くのスイマーがこの「息継ぎの左右差」に悩んでいます。「得意な方だけで泳いでもいいの?」「両方できた方がやっぱり有利?」そんな疑問を持つ方のために、今回はクロールの息継ぎにおける左右の選択と、苦手側を克服して両側呼吸(バイラテラル)をマスターするための方法を、初心者の方にも分かりやすく徹底解説します。息継ぎの悩みを解消して、もっと楽に、もっと長く泳げるようになりましょう。
クロールの息継ぎ、基本は左右どっちでするべき?

水泳を始めたばかりの方や、クロールに挑戦中の方が最初にぶつかる壁の一つが「息継ぎの向き」です。教本や動画を見ても、右で息継ぎをしている人もいれば、左の人もいます。さらには「3回に1回」のリズムで交互に行う人もいます。まずは、現状のレベルや目的に応じて、どちらを選択すべきかの基準を整理しましょう。
初心者は「得意な方」だけでOK!まずは呼吸の確保を最優先に
結論から言うと、クロールを習い始めたばかりの初心者の方や、まだ25メートルを泳ぎ切るのが精一杯という段階であれば、「やりやすい方(得意な方)」だけで息継ぎをして全く問題ありません。
水泳において最も重要なのは、酸素を体に取り込み、苦しくならずに運動を続けることです。初心者のうちは、キックや手の動き、身体の水平姿勢など、意識すべきポイントが山ほどあります。その中で「苦手な方の息継ぎ」まで意識しようとすると、パニックになり水を飲んでしまう原因になります。
まずは「右なら右」「左なら左」と決めてしまい、確実に空気を吸える側でリラックスして泳ぐことを目指してください。「片側しかできないなんてダメだ」と自分を責める必要はありません。トップスイマーでも、レースの後半で苦しい時は得意な側だけで呼吸をすることもあります。まずは「泳ぐことへの恐怖心」をなくし、心地よく泳げる側を確立しましょう。
レベルアップを目指すなら「左右両側」の習得が必須になる理由
ある程度泳げるようになり、「もっと長い距離を楽に泳ぎたい」「タイムを縮めたい」「きれいに泳ぎたい」という目標が出てきたら、左右両側での息継ぎ(バイラテラルブリージング)の習得をおすすめします。
常に片側だけで息継ぎをしていると、どうしてもフォームに左右非対称な癖がつきます。これは「泳ぎの歪み」となり、水の抵抗を増やしたり、疲れやすくなったりする原因になります。たとえば、右側だけで呼吸をしていると、身体が右に開きやすくなり、左手が沈みやすくなる傾向があります。
中級者以上を目指すのであれば、3ストローク(腕を3回かく)ごとに1回呼吸をする「3回に1回」のリズムを取り入れるのが理想的です。これにより、自然と左右交互に呼吸することになり、フォームのバランスが整います。左右どちらでも息継ぎができるようになると、状況に応じて使い分けることができるため、泳ぎの幅がグッと広がります。
自分の「利き側(得意な側)」を簡単に見分けるチェック方法
「自分はどっちが得意なのかよく分からない」という方もいるかもしれません。一般的には利き手(お箸を持つ手)の側がやりやすいことが多いですが、必ずしもそうとは限りません。自分の「吸いやすい側(ブリージングサイド)」を見つけるための簡単なチェック方法をご紹介します。
【陸上でのチェック方法】
1. まっすぐ立ち、前を見ます。
2. 後ろから誰かに名前を呼ばれたと想定して、パッと振り向いてください。
3. この時、自然に振り向いた方向が、首を回しやすい「得意な側」である可能性が高いです。
また、実際にプールに入って壁を蹴り、ストリームライン(けのび)の姿勢から、手を使わずに身体を左右に傾けてみてください。どちらの体側を上にした時にバランスが取りやすいか、あるいは水面から顔を出しやすいかを感じてみましょう。
多くの場合、利き目(よく使う方の目)や、首の柔軟性の左右差が関係しています。無理に決める必要はありませんが、「あ、こっちの方が空が見えやすいな」と感じる方を、まずは自分の「メイン呼吸側」として設定して練習を始めるとスムーズです。
【注意】無理に両側を行ってフォームが崩れるくらいなら片側に戻す
「両側できた方がいい」というのは真実ですが、それが絶対のルールではありません。最も避けるべきなのは、「両側呼吸をしようとしてフォームが崩壊し、溺れそうになること」です。
特に、苦手な側で息継ぎをしようとすると、無意識に頭を上げすぎて足が沈んだり、ストロークのリズムが止まってしまったりすることがよくあります。これでは逆効果です。練習中、「今日はどうしても左側が上手くいかない」と感じたら、その日は無理せず得意な右側に戻して、良い泳ぎの感覚を取り戻すことも大切です。
練習メニューの中で「25メートル泳ぐうち、半分の12.5メートルまでは苦手な方で頑張ってみる」といったように、少しずつ取り入れるのがコツです。全てを一度に変えようとせず、焦らずに取り組んでください。
片側だけの息継ぎ(一方向呼吸)が引き起こす4つのデメリット

「得意な方だけで泳げれば十分じゃない?」と思うかもしれませんが、長い目で見ると「片側呼吸」には無視できないデメリットがいくつか存在します。これらを知っておくことで、なぜ両側呼吸の練習が必要なのかがより深く理解できるでしょう。
身体のバランスが崩れて真っ直ぐ泳げなくなる「蛇行」現象
片側だけで呼吸を続けていると、どうしても身体の使い方が偏ります。例えば、右側で息継ぎをする人の場合、息を吸うために右に大きく身体を開きますが、左側にはあまり身体を開きません(ローリングしません)。
この不均衡が続くと、ストロークの強さや長さにも左右差が生まれます。結果として、自分では真っ直ぐ泳いでいるつもりでも、気がつくとコースロープに寄ってしまったり、プールを斜めに横切ってしまったりする「蛇行」が起こりやすくなります。真っ直ぐ進まないということは、それだけ無駄な距離を泳いでいることになり、タイムロスや体力の消耗に直結します。
メモ:
プールで泳いでいて、いつも同じ側のコースロープに手や足がぶつかってしまう人は、片側呼吸による左右バランスの崩れが原因かもしれません。
片方の肩や腕に負担が集中し、怪我や故障のリスクが高まる
水泳は「左右対称の動き」を繰り返すスポーツですが、片側呼吸はこの対称性を崩します。呼吸をする側としない側では、腕の入水角度や水をかく深さ、力のかかり方が微妙に変わってくるのです。
特に負担がかかりやすいのが、息継ぎをする「反対側」の肩です。右呼吸の場合、左手は呼吸動作を支えるために、無意識に過度な力が入りやすかったり、身体が開ききらないまま無理な角度で水をかいたりしてしまいます。これが積み重なると、肩の関節や筋肉に炎症が起きる「スイマーズショルダー(水泳肩)」の原因になることがあります。長く健康的に水泳を楽しむためにも、左右均等に負荷を分散させることは非常に重要です。
筋肉の付き方が左右非対称になり、陸上での姿勢にも悪影響
水泳は全身運動であり、素晴らしいシェイプアップ効果があります。しかし、常に同じ側だけで息継ぎをしていると、首回り、背中、ウエスト周りの筋肉の使われ方が左右で異なってきます。
長期間その状態で泳ぎ続けると、筋肉の付き方に左右差が生じることがあります。これは水中だけでなく、陸上で生活している時の姿勢にも影響を与える可能性があります。例えば、片方の肩だけが下がって見えたり、骨盤の歪みにつながったりすることもあります。美しいボディラインを作る目的で水泳をしている方にとっては、この「左右のアンバランス」は避けたいデメリットの一つと言えるでしょう。
プールや海で「死角」ができ、周囲の状況や波に対応できない
これは特に、混雑したプールや海(オープンウォータースイミング)で泳ぐ際の実践的なデメリットです。片側しか見えないということは、反対側が常に「死角」になっているということです。
例えば、右側呼吸しかできない場合、左側から追い越してくる他のスイマーや、左側から迫ってくる波に気づくのが遅れます。プールであれば、隣のコースの人が立てた波を不意に口に含んでしまうかもしれませんし、海であれば大きなうねりに対応できずバランスを崩すかもしれません。左右どちらも見える状態であれば、周囲の状況を常に把握でき、安全確保やコース取りの面で非常に有利になります。
両側呼吸(バイラテラル)をマスターする絶大なメリット

デメリットを確認したところで、次は両側呼吸(バイラテラルブリージング)を習得することで得られるメリットを見ていきましょう。単に「逆も向けるようになる」だけでなく、泳ぎの質そのものが劇的に向上します。
左右対称のフォームが手に入り、見た目も美しく効率的に進む
両側呼吸を取り入れる最大のメリットは、「強制的に左右均等なローリングが行われる」という点です。3回に1回呼吸をする場合、右、左、右、左…と交互に身体を傾けることになります。
これにより、得意な側だけでなく苦手な側にもしっかり体重を乗せることができるようになり、ストロークの長さ(ストローク長)が左右で揃ってきます。左右対称のフォームは見た目にも非常に美しく、水の抵抗を最小限に抑えることができるため、同じ力で泳いでいても進む距離が伸びます。まるで魚のようにスイスイと真っ直ぐ進む感覚は、両側呼吸をマスターした人だけが味わえる快感です。
リズムが「1・2・3」と一定になり、精神的にも余裕が生まれる
水泳はリズム運動です。「イチ、ニ、サーン(呼吸)」という3拍子のワルツのようなリズムで泳ぐことは、精神的なリラックス効果をもたらします。2回に1回(イチ、ニー(呼吸))の頻繁な呼吸は、どうしても動作が忙しくなりがちですが、3回に1回のリズムはストロークに「伸び」の時間を与えてくれます。
また、呼吸の回数が減ることで、1回1回のストロークに集中しやすくなります。「水をしっかり捉える」「身体を伸ばす」といった動作を確認しながら泳ぐ余裕が生まれるため、結果的に疲れにくい泳ぎにつながります。
苦しい時に「どちらでも吸える」という安心感がスタミナを温存
「右でも左でも、いつでも吸える」という自信は、泳いでいる最中のメンタルに大きなプラス効果を与えます。例えば、右側の呼吸で水を少し飲んでしまい、むせてしまったとしましょう。片側呼吸しかできない場合、パニックになりがちですが、両側呼吸ができれば「次は左で吸えばいいや」と冷静に対処できます。
また、長距離を泳ぐ際、片側の首筋が疲れてきたら反対側で呼吸をする、といったように、身体の疲れ具合に合わせて呼吸側を変えることも可能です。この「選択肢がある」という状態こそが、無駄な力みを消し、スタミナを温存させる鍵となります。
コースの右側・左側どちらを泳いでも壁や景色を確認しやすい
プールでは、右側通行や左側通行といったルールがあり、コースの端を泳ぐことになります。この時、呼吸をする側に壁があると圧迫感を感じたり、跳ね返った波(リターンウェーブ)を吸い込んでしまったりすることがあります。
両側呼吸ができれば、常に「壁とは反対側(コースの中央側)」を向いて息継ぎをすることができます。これにより、広々とした視界を確保でき、圧迫感から解放されます。また、隣のコースを泳ぐ人のペースを確認したり、自分の現在位置を把握したりするのも容易になります。環境に合わせて呼吸側をスイッチできる能力は、快適なスイミングライフを支える大きな武器になります。
苦手な「逆側」を克服!今日からできる段階的練習ステップ

頭では理解していても、いざ苦手な側で息継ぎをしようとすると身体が固まってしまうものです。ここからは、無理なくスムーズに逆側の息継ぎを習得するための、具体的な練習ステップをご紹介します。いきなり泳ぎながらやるのではなく、一つずつ分解して練習するのが近道です。
【ステップ1】陸上で鏡を見ながら首の回転と視線を確認する
プールに入る前に、まずは陸上で動きを確認しましょう。鏡の前に立ち、クロールの腕の動きをしながら呼吸動作を行ってみます。
陸上でできない動きは、水中では絶対にできません。まずは脳に「左側を向く感覚」を視覚情報としてインプットさせることが大切です。
【ステップ2】プールサイドを持って「呼吸の型」だけを反復練習
次にプールに入りますが、まだ泳ぎません。プールの壁(プールサイド)に両手を乗せて立ち、顔を水につけた状態から呼吸の練習だけを行います。
足を前後に開いて安定させ、顔を水につけて鼻からブクブクと息を吐きます。そこから、身体全体(肩と腰)を回しながら、顔を横に向けて「パッ」と息を吸います。この時、耳が水についたままであること、片方のゴーグルが水中(または水面ギリギリ)に残っていることを意識してください。
「頭を持ち上げる」のではなく、「軸を回転させる」感覚を掴みます。壁を持っていることで沈む恐怖がないため、苦手な側でも落ち着いてフォームを確認できるはずです。
【ステップ3】ビート板を使った「サイドキック」で姿勢を安定させる
いよいよ動き出します。ビート板を片手(伸ばす手)で持ち、もう片方の手は体側に添えて(「気を付け」の状態)、横向きでキックをして進みます(サイドキック)。
苦手な側を上にして、顔は真横に向けたままキックを打ち続けます。呼吸をする時はそのまま口を開け、吸い終わったら顔を戻します。この練習の目的は、「苦手な側を向いた状態での安定した姿勢」を作ることです。
苦手な側だと体が沈んでしまう場合は、キックを強く打つか、ビート板の浮力に頼っても構いません。まずは「左側(苦手側)の景色を見ながら進む」という感覚に慣れることが重要です。
【ステップ4】プルブイを足に挟んでストロークと呼吸の連動を覚える
最後は、足にプルブイ(浮き具)を挟んで、腕だけでクロールを泳ぐ練習です。プルブイを使うことで下半身が強制的に浮くため、「足が沈む」という最大のストレスから解放されます。
この状態で、ゆっくりと丁寧なストロークを行いながら、3回に1回の呼吸(バイラテラル)に挑戦してみましょう。足を使わない分、腕のローリング(身体の回転)に集中できます。「1(右手)、2(左手)、3(右手でかきながら右呼吸)」「1(左手)、2(右手)、3(左手でかきながら左呼吸)」と、頭の中でカウントしながら泳ぎます。
プルブイを使っても苦手な側で沈みそうになる場合は、息継ぎの瞬間に、前に伸ばしている手(グライドハンド)で水を下へ押さえつけすぎないよう注意しましょう。前に伸ばした手は、水面近くでじっと我慢して身体を支えるのがコツです。
どうしても左右の息継ぎが上手くいかない時のチェックポイント

練習をしていて、「やっぱり左側だけ水を飲んでしまう」「どうしても沈む」という壁にぶつかった時、チェックすべきポイントがいくつかあります。多くの悩みは、以下の3点のいずれかに原因があります。
頭のてっぺんが上がりすぎて、足が沈んでブレーキになっていないか
息継ぎの際、無意識に「頭のてっぺん」が水面から高く出ていませんか?人間の身体はシーソーのようになっています。頭が高く上がれば上がるほど、反対側の足は深く沈みます。
足が沈むと水の抵抗が激増し、ブレーキがかかります。すると進まなくなり、さらに苦しくなって頭を上げる…という悪循環に陥ります。修正ポイントは、「頭のてっぺんは常に水の中」という意識を持つことです。息継ぎは「顔を上げる」のではなく、「後頭部を枕(水)に乗せたまま、顎を引いて横を向く」動作です。水面ギリギリに口があれば十分空気は吸えます。
水中で鼻からしっかり息を吐き切れているか?「吸う」より「吐く」
息継ぎが苦しい原因の多くは、「酸素不足」ではなく「二酸化炭素の排出不足」です。肺の中に古い空気が残っていると、新しい空気を吸い込むスペースがありません。その状態で顔を上げても、「吸えない!」と焦ってしまいます。
水中に顔をつけている間に、鼻から「ンーッ」とハミングするように息を吐き続けてください。そして顔を上げる直前に「パッ!」と残りの息を強く吐き出します。しっかり吐けば、口が水面に出た瞬間に、身体の反射で自然と空気が入ってきます。「吸おう」と意識するあまり、吐くことを忘れないようにしましょう。苦手な側ほど、緊張して息を止めがちなので注意が必要です。
体のローリング(回転)不足で、首だけで後ろを向こうとしていないか
人間の首の可動域はそれほど広くありません。身体が平らなままで、首だけをねじって横を向こうとすると、90度回すのは非常に窮屈です。これが「苦手な側が向きにくい」正体であることが多いです。
息継ぎは首の筋肉だけで行うものではありません。「身体ごと横に向ける(ローリング)」ことが不可欠です。おへそが横を向くくらいまで身体を傾ければ、首を少し回すだけで楽に水面上に口が出ます。「首を回す」のではなく「肩を引いて胸を開く」イメージを持つと、スムーズに呼吸ができるようになります。
伸ばしている手が呼吸と同時に下がって(落ちて)しまっていないか
苦手な側で息継ぎをする瞬間、バランスを取ろうとして、前に伸ばしている手が無意識に水をかき始めてしまっていませんか?これを「手が落ちる」と表現します。
息継ぎをする時、前に伸ばしている手は「浮き」の役割を果たしています。この手がすぐに下がってしまうと、支えを失った身体は当然沈みます。息を吸い終わって顔が水に戻る瞬間まで、前の手は「じっと待つ」ことが大切です。これを「キャッチアップ(追いつき)クロール」のドリルで練習すると改善されます。片手が前の手に追いつくまで、前の手は動かさない練習を繰り返してみてください。
まとめ
クロールの息継ぎにおいて、左右どちらで行うかは、初心者のうちは「得意な方」で全く問題ありません。まずはリラックスして泳げることを最優先にしましょう。
しかし、レベルアップしてより楽に、より美しく泳ぎたいと願うなら、左右両側(バイラテラル)での息継ぎは非常に強力な武器になります。フォームのバランスが整い、怪我のリスクが減り、どんな状況でも落ち着いて泳げるようになるからです。
苦手な側を克服するには、焦らず陸上練習やビート板を使った部分練習から始めることが大切です。「頭を上げない」「しっかり吐く」「身体ごと回す」というポイントを一つずつクリアしていけば、必ず左右どちらでもスムーズに息継ぎができるようになります。左右の景色を楽しみながら、水泳の世界をさらに広げていきましょう。


