「学校のプール授業だけでは、うちの子はなかなか泳げるようにならない」と感じている保護者の方は少なくありません。夏休みの短期教室やスイミングスクールへの入会を検討する際、具体的に何が違うのかを知っておくことは大切です。
学校の体育は教育の一環として行われるものであり、スイミングスクールは技術習得を主目的とした専門的な場です。この両者には、目的や指導体制、施設環境において決定的な違いがあります。この記事では、なぜ学校の授業だけでは上達しにくいのか、スイミングスクールに通うことでどのようなメリットがあるのかを、具体的かつわかりやすく解説します。
スイミングスクールと学校の体育との違い:目的と目標の大きな差

まず最初に理解しておきたいのは、スイミングスクールと学校の体育では、そもそも目指している「ゴール」が異なるという点です。同じプールでの活動であっても、その背景にある考え方や優先順位には大きな隔たりがあります。この違いを知ることで、お子様に何が必要かを冷静に判断できるようになります。
学校体育の目的は「水に親しむこと」と「安全確保」
学校での水泳授業は、文部科学省の学習指導要領に基づいて行われます。小学校低学年では「水遊び」、中学年では「浮く・泳ぐ運動」、高学年でようやく「水泳」という名称になります。つまり、初期段階では泳法を完璧にマスターすることよりも、水に慣れ親しむことや、水の楽しさを知ることが最優先されています。
また、学校体育の非常に重要な役割として「命を守るための教育」があります。万が一の水難事故に備え、水中でパニックにならずに浮くことや、安全にプールから上がる方法を学ぶことが重視されます。そのため、美しく速く泳ぐための技術指導に割ける時間は、どうしても限られてしまうのが現状です。
スイミングスクールの目的は「泳法の習得」と「技術向上」
一方でスイミングスクールは、明確に「泳げるようになること」を商品として提供しているサービスです。クロール、背泳ぎ、平泳ぎ、バタフライの4泳法を、正しいフォームで長く泳げるように指導します。ここでは「なんとなく浮いている」状態ではなく、効率的で美しい身体の使い方を学ぶことが求められます。
さらに、タイムを縮めることや、より長い距離を泳ぐ体力作りも目標に含まれます。技術的な完成度を高めるために、呼吸のタイミングや手足の角度など、細部にわたる指導が行われるのが特徴です。保護者の方が「泳げるようになってほしい」と願うレベルに到達させるには、この専門的なアプローチが必要不可欠です。
評価基準の違い:通知表と進級テスト
お子様のモチベーションに関わる「評価」の方法も異なります。学校の体育では、技能だけでなく「関心・意欲・態度」も成績に大きく影響します。一生懸命に取り組んでいれば、泳ぐ距離が短くてもある程度の評価がつくことがありますが、逆に言えば、泳げないままでも授業は進んでいってしまいます。
対してスイミングスクールには、明確な進級テスト(ワッペンやバッジ制度)が存在します。「クロールの息継ぎができれば合格」「25メートル完泳できれば合格」といった客観的な基準が設けられています。合格しなければ次のステップに進めないため、子供たちは「できるようになるまで練習する」というプロセスを経験することになります。
指導体制と先生の専門性が全く異なります

お子様が泳げるようになるかどうかを左右する最大の要因は「誰が、どのように教えるか」です。学校とスイミングスクールでは、指導者の専門性や、子供一人ひとりに対するサポートの手厚さに決定的な違いがあります。ここでは、その指導体制のギャップについて詳しく見ていきましょう。
先生の役割:担任の先生とプロのコーチ
小学校の水泳授業は、基本的に学級担任の先生が行います。先生方は教育のプロですが、必ずしも水泳指導のプロではありません。中には水泳が得意な先生もいますが、泳ぎが苦手な先生が指導にあたるケースも珍しくありません。そのため、指導内容は一般的な解説にとどまることが多く、個別の癖を直すような専門的なアドバイスは難しくなります。
スイミングスクールのコーチは、水泳指導の研修を受けた専門家です。子供の体の動かし方や、つまづきやすいポイントを熟知しています。「なぜ沈んでしまうのか」「どうすれば楽に息継ぎができるのか」を理論的に説明し、補助することができます。この専門性の差は、上達スピードに直結します。
生徒と先生の人数比率による密度の違い
学校のプール授業では、1クラス30人から40人の生徒を、1人または2人の先生で見ることになります。安全管理に気を配るだけで手一杯になりがちで、一人ひとりの泳ぎを見て手取り足取り教える時間は物理的に確保できません。どうしても「全体への指示」が中心となり、泳げない子は置いてきぼりになりやすい環境です。
一方、スイミングスクールでは、泳力レベルごとにグループ分けされ、1人のコーチが担当する生徒数は5人から10数人程度に抑えられています。少人数制であれば、コーチは子供一人ひとりの名前を呼び、その子の課題に合わせたアドバイスを送ることができます。待ち時間も少なく、練習の密度が圧倒的に高くなります。
恐怖心への対応と補助のテクニック
水が怖いお子様への対応にも大きな違いがあります。学校では集団行動が基本のため、個別に時間をかけて水慣れを行うことは困難です。プールサイドに座っているだけの見学になってしまったり、無理やり顔をつけさせられて余計に水嫌いになってしまったりするケースもあります。
スイミングスクールには、水を怖がる子供を指導するためのノウハウが蓄積されています。水位を調整できる台を使ったり、遊びを取り入れたりして、恐怖心を少しずつ取り除いていきます。コーチが水中で体を支えてくれる安心感があるため、子供はリラックスして新しいことに挑戦できるようになります。
授業が行われる環境や施設・設備の充実度

子供たちが練習に取り組む場所、つまり「プールそのもの」の環境も、学習効果や快適性に大きく影響します。昔ながらの学校のプールと、現代的なスイミングスクールの施設では、天候への対応や水温管理、衛生面で大きな差があります。
天候と水温:屋外プールと屋内温水プール
多くの公立学校のプールは屋外にあり、屋根がありません。そのため、授業の実施は天候に完全に左右されます。雨が降れば中止、気温や水温が低すぎれば中止、逆に暑すぎて熱中症アラートが出れば中止となります。限られた夏の期間の中で、予定通りに授業が行われることは稀であり、練習時間が削られてしまうのが現状です。
スイミングスクールは基本的に屋内温水プールです。一年中、室温と水温が一定に保たれており、雨や風、猛暑の影響を受けません。冬でも快適に泳ぐことができるため、季節を問わず継続して練習することができます。この「環境の安定性」が、着実な上達を支える基盤となります。
「地獄のシャワー」と快適な設備
学校のプールといえば、冷たい水が勢いよく出る「地獄のシャワー」を思い浮かべる方も多いでしょう。冷たい水での洗身は、子供にとって精神的な負担になるだけでなく、体が冷えてしまう原因にもなります。また、更衣室が狭かったり、ドライヤーがなかったりと、快適とは言い難い環境が多いです。
スイミングスクールでは、練習後には温かいシャワーを浴びることができます。更衣室も清潔に保たれており、ドライヤーで髪を乾かしてから帰宅できるため、風邪をひくリスクも軽減されます。ジャグジーや採暖室(サウナのような部屋)を備えているスクールもあり、冷えた体を温めるケアも万全です。
水質管理と衛生面への配慮
プールの水質管理についても違いがあります。学校のプールは夏の間だけ稼働させるため、藻が発生しやすかったり、落ち葉や虫が浮いていたりと、管理が大変です。消毒のために塩素濃度を高めに設定することがあり、肌が弱いお子様や、目の痛みを訴えるお子様にとっては辛い環境になることもあります。
スイミングスクールでは、最新のろ過装置を使い、24時間体制で水質を管理しています。透明度が高く、塩素の臭いも抑えられた「肌に優しい水」を実現している施設が増えています。清潔で透き通った水の中であれば、子供たちは目を開けることへの恐怖心が薄れ、水中の楽しさをより感じることができます。
練習の頻度とカリキュラムの進み方

水泳は「習うより慣れろ」と言われるように、反復練習が非常に重要なスポーツです。しかし、学校とスイミングスクールでは、練習の頻度や進み方が全く異なります。ここでは、なぜスイミングスクールの方が圧倒的に早く泳げるようになるのか、その仕組みであるカリキュラムの違いについて解説します。
年間授業数と継続性の違い
学校の水泳授業は、主に6月中旬から7月中旬、そして9月上旬の短い期間に集中して行われます。回数にすると年間で10回程度、雨天中止を含めると数回しか入れない年もあります。これでは、せっかく覚えた感覚も、次の夏が来る頃にはすっかり忘れてしまい、毎年「水慣れ」からやり直しというサイクルになりがちです。
スイミングスクールは週1回以上のレッスンを一年中継続して行います。毎週欠かさず水に入ることで、水への恐怖心が消え、体の使い方が筋肉の記憶(マッスルメモリー)として定着します。間隔を空けずに練習を積み重ねることが、水泳上達の最短ルートなのです。
スモールステップ方式のカリキュラム
学校の授業では、学年ごとに大まかな目標が設定されているものの、細かな段階分けはあまりありません。「けのび」ができたらすぐに「バタ足」、そして「クロール」へと急ピッチで進むことが多く、基礎がおろそかなまま形だけ真似ることになりがちです。これが「息継ぎができない」「すぐ疲れる」という壁の原因になります。
スイミングスクールでは、20段階から30段階ほどの細かな進級基準(カリキュラム)が用意されています。「顔を水につける」「鼻から息を吐く」「水に浮く」「壁を蹴って進む」といった基礎的な動作を、一つずつ丁寧にクリアしていきます。小さな成功体験を積み重ねることで、無理なく確実に難しい泳法へとステップアップできる仕組みになっています。
能力別クラス分けによる効率的な練習
学校の体育は基本的に「学年」や「クラス」単位で行われます。泳げる子も泳げない子も同じプールに入るため、授業のレベルをどこに合わせるかが難しくなります。泳げる子にとっては物足りず、泳げない子にとってはついていけないという状況が生まれやすく、どちらにとっても非効率な時間になってしまうことがあります。
スイミングスクールでは、年齢や学年に関係なく「泳力」によってクラスが分けられます。全く泳げない子だけのクラス、クロールを練習するクラス、4泳法をマスターするクラスなど、同じレベルの子供たちが集まるため、練習内容に無駄がありません。周りの友達も同じ課題に取り組んでいるため、良い意味でのライバル意識も芽生えやすくなります。
欠席時の振替制度の有無
子供は体調を崩しやすいものです。学校のプール授業を風邪や用事で休んでしまった場合、その分の補習が行われることは稀です。休んだ回数だけ練習の機会が失われ、そのまま夏が終わってしまうことも少なくありません。これは学習の遅れに直結します。
ほとんどのスイミングスクールには「振替制度」があります。体調不良や急な用事でレッスンを休んでも、別の日に変更して練習に参加することができます。月謝が無駄にならず、練習量も確保できるため、親御さんにとっても安心できるシステムです。継続的な学習機会が保証されている点は、習い事ならではの大きなメリットです。
スイミングスクールに通うことで得られるプラスの効果

ここまで、学校体育との違いを中心に解説してきましたが、スイミングスクールに通うメリットは単に「泳げるようになること」だけにとどまりません。心身の成長において、水泳という習い事がもたらすプラスの効果は非常に大きいものがあります。ここでは代表的な3つのメリットをご紹介します。
基礎体力の向上と丈夫な体づくり
水泳は全身運動であり、陸上の運動に比べて数倍のエネルギーを消費します。水の抵抗に逆らって体を動かすことで、バランスよく筋力がつき、基礎体力が飛躍的に向上します。また、水圧がかかる中で呼吸を行うため、心肺機能が強化されます。喘息持ちのお子様が、水泳を始めることで発作が出にくくなり、体が丈夫になったという話は医学的にもよく知られています。
「できた!」という自信と自己肯定感
スイミングスクールの進級テストは、子供にとって大きな挑戦です。練習を重ねてテストに合格し、新しい色の帽子やワッペンをもらった時の喜びは格別です。「頑張ればできる」という成功体験は、子供の自信に直結します。この「自己効力感」は、水泳以外の勉強や他のスポーツに取り組む際にも、粘り強く努力する心の土台となります。
一生役立つ安全能力と水難事故防止
スイミングスクールで正しい泳ぎを身につけることは、将来にわたって自分の命を守るスキルになります。単に速く泳ぐだけでなく、長く楽に泳ぎ続ける技術や、水中でパニックにならない冷静さは、海や川でのレジャーを楽しむ際の安全確保に大きく寄与します。水泳は一度覚えてしまえば、大人になっても忘れない「一生モノ」の技術です。
まとめ:スイミングスクールと学校の体育との違いを理解して最適な選択を
スイミングスクールと学校の体育との違いについて、詳しく解説してきました。要点を振り返ってみましょう。
・目的の違い:学校は「体験・安全・教育」が主眼、スクールは「技術習得・体力向上」が主眼。
・指導体制:学校は担任(1対多数)、スクールは水泳のプロ(少人数制・能力別)。
・環境の違い:学校は天候に左右される屋外プール、スクールは快適な屋内温水プール。
・カリキュラム:学校は夏限定・学年別、スクールは通年・スモールステップ方式。
学校の授業は、友達と一緒に水に触れる楽しさを知る貴重な場ですが、限られた時間の中で「泳げるようになる」ことまでを求めるのは、制度上どうしても難しい側面があります。もし、お子様が「もっと泳げるようになりたい」「学校の授業についていけなくて辛い」と感じているのであれば、スイミングスクールの専門的な指導を取り入れることを強くおすすめします。
それぞれの役割の違いを理解した上で、お子様の成長や性格に合わせた最適な環境を選んであげてください。水泳を通して得られる自信や体力は、きっとお子様の大きな財産になるはずです。



