「バタフライは体力の消耗が激しくて、後半に失速してしまう」
「一生懸命かいているのに、なかなか前に進まない」
このような悩みをお持ちではありませんか?バタフライは競泳4泳法の中で最もダイナミックで華やかな泳ぎですが、同時に最も体力と技術を要する種目でもあります。しかし、力任せに泳ぐのではなく、「抵抗を減らす」ことと「タイミングを合わせる」ことの2点を意識するだけで、驚くほど楽に、そして速く泳げるようになります。
この記事では、バタフライのタイムを短縮するための具体的なコツを、姿勢、キック、ストローク、呼吸、そして練習方法まで網羅して徹底的に解説します。初心者から中級者の方まで、明日の練習ですぐに試せるポイントばかりですので、ぜひ参考にしてください。
バタフライを速く泳ぐコツは「抵抗を減らす姿勢」にあり

バタフライを速く泳ぐために最も重要なのは、実はパワーではなく「姿勢」です。水の抵抗は速度の二乗に比例して大きくなるため、どんなに強い力で水をかいても、姿勢が悪ければブレーキをかけながらアクセルを踏んでいるような状態になってしまいます。
ここでは、水の抵抗を最小限に抑え、スムーズに前へ進むための姿勢づくりのポイントを3つに分けて解説します。
ボディポジションを高くフラットに保つ
速く泳ぐための基本は、水面に対して体を水平(フラット)に保つことです。バタフライは「うねり」を使う泳法ですが、うねりを大きくしすぎると体が上下に動きすぎてしまい、前面投影面積(前から見たときの体の面積)が大きくなって抵抗が増えてしまいます。
特に意識したいのは、「腰の位置」です。呼吸時やリカバリー(腕を前に戻す動作)の際に腰が沈んでしまうと、下半身全体がブレーキとなってしまいます。常に水面近くに腰とお尻がある状態をキープすることが理想です。
イメージとしては、水面という薄い膜の上を滑っていくような感覚を持ってください。深く潜りすぎず、浅く浮き上がりすぎない、この絶妙なコントロールがタイム短縮の第一歩です。
目線は「前」ではなく「斜め下」に向ける
姿勢をフラットに保つために重要なのが「目線」です。多くのスイマーは、進行方向を確認したい気持ちや呼吸のしやすさから、つい前を向いて泳いでしまいがちです。しかし、頭を上げて前を見ると、人間の体の構造上、どうしても腰が沈んでしまいます。
基本の目線は、プールの底のライン、あるいは自分の真下よりも少し前方の「斜め下」を見るようにしましょう。頭のてっぺんから背中、腰にかけて一本の棒が通っているようなイメージを持ち、首の後ろを平らに保つことが大切です。
重心移動を使って体重を前に乗せる
バタフライ特有の推進力を生むのが「重心移動」です。クロールや背泳ぎとは異なり、バタフライは上半身と下半身が連動して波のような動きを作ります。このとき、単に体をくねらせるのではなく、「胸に体重を乗せて前へ滑り込む」感覚を持つことが重要です。
入水直後、胸を軽く水中に沈めるようにプレス(体重移動)することで、その反動として腰が浮き上がり、次のキックが打ちやすくなります。ただし、深く潜りすぎるのはNGです。あくまで「前へ」体重を移動させるためのプレスであり、下へ潜るための動作ではありません。
この重心移動がスムーズに行えると、腕の力だけでなく体重移動のエネルギーを使って進むことができるため、後半の体力温存にもつながります。
スピードを生み出す「第2キック」のタイミングを極める

バタフライのキックには、入水時に打つ「第1キック」と、水をかき終わる時に打つ「第2キック」の2種類があります。速く泳ぐために特に重要なのが、推進力の要となるこの「第2キック」の質とタイミングです。
多くのスイマーが苦手とする第2キックのコツを、メカニズムとともに詳しく見ていきましょう。
第1キックと第2キックの役割の違い
まず、2つのキックの役割を明確に区別しましょう。第1キックは、腕が入水するタイミングで打ちます。このキックの主な目的は、腰を浮かせて高いボディポジションを作ることと、入水の勢いを利用して前に滑ることです。
一方、第2キックは、腕が水をかき終わり、水上に抜き上げるタイミングで打ちます。このキックの役割は、「強い推進力を生むこと」と「リカバリー動作を助けること」です。手を後ろまで押し切った瞬間に鋭いキックが入ることで、体がグンと前へ加速します。
速く泳げない人の多くは、この第2キックが弱かったり、タイミングが遅れていたりします。第1キックでリズムを取り、第2キックで加速する。この役割分担を意識するだけで、泳ぎにメリハリが生まれます。
プッシュ動作とキックのタイミングを合わせる
第2キック最大の問題はタイミングです。「いつ打てばいいのかわからない」という声をよく聞きますが、正解は「手が太ももを通過してフィニッシュする瞬間」です。
手が水を押し切る動作(プッシュ)と、足の甲で水を蹴り込む動作が完全にシンクロしたとき、爆発的な推進力が生まれます。タイミングが早すぎるとスカスカのキックになり、遅すぎると手が水から上がらずに抵抗になってしまいます。
タイミングの確認方法
陸上で気をつけの姿勢になり、その場でジャンプしてみてください。地面を蹴って飛び上がる瞬間、手は自然と下向きに力が入りませんか?この「地面を蹴る」と「手を下ろす」が連動する感覚が、水中の第2キックとプッシュの関係と同じです。
水中でこのタイミングを合わせるには、手だけで泳ごうとせず、全身の連動性を意識する必要があります。プッシュの瞬間に「ドン!」とアクセルを踏むイメージを持ちましょう。
膝を曲げすぎず「しなり」で蹴る
キックを強く打とうとするあまり、膝を大きく曲げてしまうのは逆効果です。膝を深く曲げると、太ももが水の抵抗を大きく受けてしまい、ブレーキがかかります。また、膝下の動きだけでは大きな水流を生み出すことができません。
理想的なキックは、お腹から太もも、膝、足首、つま先へと力が伝わる「ムチのようなしなり」のある動作です。膝はあくまで結果として曲がるものであり、意図的に曲げるものではありません。
特に第2キックでは、膝を曲げる予備動作を小さくし、素早いスナップで蹴り切ることを意識しましょう。足首を柔らかく使い、足の甲で水を後方へ弾くようなイメージです。
深く蹴り込まずに表面で水を捉える
「速く泳ぎたい」という焦りから、キックをプールの底に向かって深く蹴り込んでしまうケースもよく見られます。しかし、深く蹴ると体が浮き上がりすぎてしまい、上下動の激しい抵抗の大きな泳ぎになってしまいます。
速く進むためのキックは、深さよりも「鋭さ」と「方向」が重要です。蹴り幅は狭くても構いません。その代わり、水面近くの水を鋭く後方へ蹴り出すことを意識してください。
浅く鋭いキックを打つことで、腰の位置が高いままキープされ、次の動作への移行もスムーズになります。水しぶきが上がりすぎないよう、水中で「ボォッ」と重い音がするようなキックを目指しましょう。
推進力を最大化する「ストローク(水のかき)」の技術

バタフライのスピードを決定づけるもう一つの要素が、腕によるストロークです。両腕を同時に回すため、片手ずつ回すクロールや背泳ぎ以上に、一度のかきで得られる推進力が大きくなります。
ここでは、水を捉える「キャッチ」から、加速させる「プッシュ」、そして「リカバリー」までの一連の動作を細かく分解して解説します。
キャッチ:水を逃さず捉える「ハイエルボー」
入水後、最初に水を捉える動作を「キャッチ」と呼びます。ここで重要なのが「ハイエルボー(肘を高く保つこと)」です。肘が下がってしまうと、手のひらではなく腕全体で水をなでるだけになり、力が水に伝わりません。
入水したら、肘の位置を固定したまま、前腕(肘から手首までの部分)を立てて水を抱え込むようにします。大きな樽を抱きかかえるようなイメージです。このとき、指先だけでなく、手のひらと前腕全体が面となって水を感じることが大切です。
キャッチでしっかりと水の重みを感じることができれば、その後の動作でその重みをすべて推進力に変えることができます。まずは焦らず、丁寧に水を引っ掛ける感覚を養いましょう。
プル:体の近くを通すパワーストローク
キャッチした水を体の方へ引き寄せる動作が「プル」です。昔の指導では「キーホール(鍵穴)を描くように」と言われることもありましたが、現在の競泳界では、より直線的でシンプルな軌道が主流になりつつあります。
水を外にかきすぎたり、内側に絞りすぎたりせず、「肩幅か、それより少し内側のライン」を通して、最短距離で水を運びます。このとき、広背筋(背中の大きな筋肉)を使って引くことを意識してください。腕の力だけで引くとすぐに疲れてしまいますが、背中の筋肉を使えば後半までパワーを持続できます。
脇を締め、体の近くに水を通すことで、てこの原理が働き、より強い力で水を運ぶことが可能になります。
プッシュ:最後まで加速し続けるフィニッシュ
ストロークの中で最もスピードが出るのが、水を後ろへ押し出す「プッシュ」の局面です。ここでは、先ほど解説した第2キックとの連動が鍵となります。
プルで引き寄せた水を、お腹の下から太ももの横まで一気に押し切ります。ここで重要なのは、「速度を上げながら押し切る」ことです。動作の途中で力を抜かず、手が水から離れる瞬間が最高速度になるように加速させます。
ポイント:水を「後ろ」へ押す
疲れてくると、手を水から抜くために「上」へ向かって押してしまいがちです。しかし、上に押すと体が沈んでしまいます。最後まで意識して「後ろ」へ水を押し出すことで、その反作用で体は前へと進みます。
リカバリー:低く、広く、リラックスして
水をかき終わった腕を前方へ戻す動作が「リカバリー」です。この局面では推進力は生まれないため、いかにエネルギーを使わず、抵抗を少なく戻すかが重要になります。
腕を高く上げすぎると、肩周りの筋肉が緊張し、体も沈みやすくなります。水面ギリギリを、小指側からではなく親指側(あるいは手の甲)からリードするように戻すとスムーズです。
メモ:遠心力を使う
プッシュの勢いと第2キックの反動を利用して、腕を「振る」のではなく、遠心力で「振られる」感覚を持つと、驚くほど楽に腕が前に戻ります。肩の力を抜き、脱力して戻すことが速く泳ぎ続けるコツです。
疲れずに速く泳ぐための「呼吸動作」とリズム

バタフライが「きつい」と感じる最大の原因は、呼吸動作による姿勢の崩れとリズムの乱れにあります。呼吸を制する者はバタフライを制すと言っても過言ではありません。
スムーズな呼吸と、バタフライ特有のリズムを作るための極意をお伝えします。
顎を水面につけるような低い呼吸
息を吸おうとして頭を高く上げすぎると、シーソーの原理で下半身が大きく沈みます。これは巨大なブレーキとなります。速く泳ぐ選手の呼吸は、非常に低い位置で行われています。
コツは、「顎を水面で滑らせる」ことです。首を後ろに反らすのではなく、顎を水面に残したまま口だけを水面に出して空気を吸い込みます。目線も正面ではなく、水面ギリギリを這うように前方を見ます。
口が水面から完全に出なくても、口の端で空気を吸うような技術(サイド呼吸に近い感覚)を取り入れる選手もいます。とにかく「高さを抑える」ことを最優先に意識しましょう。
頭を入れるタイミングは「手が戻る前」
呼吸をした後、頭をいつ水に戻すかも重要です。多くの人は、腕が前に入水すると同時に頭を入れていますが、これでは遅すぎます。
正解は、「腕がリカバリーしてくる間に、先に頭を入れておく」ことです。手が着水する前に頭が水中に入っていることで、重心が前に移動し、スムーズな入水と次のキャッチ動作に繋げることができます。
「パッ」と短く吸って、すぐに頭をしまう。この素早い動作が、腰の沈み込みを防ぎ、フラットな姿勢を維持する秘訣です。リズムとしては「吸って、頭、手」の順番を意識してください。
自分に合ったストロークリズムを見つける
バタフライには独特のリズムがあります。「イチ、ニ、イチ、ニ」という単純なリズムではなく、第1キックと第2キックの強弱、ストロークの加速感が生み出す「うねり」のリズムです。
速く泳ぐためには、呼吸の回数も戦略的に考える必要があります。毎回呼吸をすると、どうしても抵抗が増えやすくなります。そのため、短距離を速く泳ぐ場合は「2回かいて1回呼吸(2ストローク1ブレス)」や「ノーブレス(呼吸なし)」を取り入れるのが一般的です。
ただし、無理に呼吸を我慢して苦しくなるとフォームが崩れます。練習の中で、自分自身が最もリズム良く、スピードを維持できる呼吸パターン(2回に1回なのか、3回に1回なのか、あるいは毎回でも低く吸えるのか)を見つけ出すことが大切です。
タイム短縮に効果的な「練習メニュー」とドリル

理論がわかっても、実際に体が動かなければ意味がありません。ここでは、ここまで解説したコツを習得するための、効果的なドリル練習(部分練習)を紹介します。
ウォーミングアップの後や、練習の合間にこれらのドリルを取り入れることで、効率の良いフォームを体に染み込ませましょう。
片手バタフライ(サイド・前呼吸)
バタフライの練習として最もポピュラーで、かつ効果が高いのが「片手バタフライ」です。片腕だけを使って泳ぐことで、ストロークの軌道やキックとのタイミングに集中できます。
練習の手順
- 片手を前に伸ばしたまま、もう片方の手だけでバタフライを泳ぎます。
- 呼吸は横向き(クロールのように)で行うのが基本です。これにより、楽に息を継ぎながらストロークの確認ができます。
- 慣れてきたら、実践に近い「前呼吸」での片手バタフライにも挑戦しましょう。
- 反対側の手も同様に行い、左右差をなくしていきます。
注意点は、動かしていない方の肩が下がらないようにすることです。体幹を意識し、フラットな姿勢を保ったまま行いましょう。
立位での第2キック確認ドリル
第2キックのタイミングを覚えるために、プールの中で立ったまま行うドリルです。
水深が胸〜肩くらいの場所で立ち、バタフライのプッシュ動作(水を後ろに押す動作)を行います。手が太ももに触れる瞬間に合わせて、軽くジャンプをします。手で水を押し切るのと同時に足で地面を蹴る感覚を養うことで、実際の泳ぎでもプッシュとキックの連動スムーズになります。
単純な動作ですが、手と足の神経系を繋ぐために非常に有効なトレーニングです。
スカーリング(フロント・ミドル・リア)
水を捉える感覚(水感)を養うためには、「スカーリング」が欠かせません。手のひらで無限大(∞)の字を描くように水を操作し、体を支えたり進めたりします。
- フロントスカーリング:手を前に伸ばした位置で行います。キャッチの感覚を磨きます。
- ミドルスカーリング:胸の下あたりで行います。最も力が入りやすい位置を確認します。
- リアスカーリング:太ももの横、フィニッシュの位置で行います。最後まで水を押し切る感覚と、水を逃さない手の角度を習得します。
この3つを重点的に行うことで、ストローク全体で「水が重い」と感じられるようになり、一かきごとの推進力が大幅にアップします。
水中ドルフィンキック(第5の泳法)
スタートやターン後の水中動作(バサロキック・ドルフィンキック)は、抵抗が少ない水中で加速できる最大のチャンスです。これを強化することは、全体のタイム短縮に直結します。
水中でストリームライン(けのび姿勢)を組み、大きくゆったりとしたキックから徐々に速く細かいキックへと変化させる練習を行いましょう。このとき、足先だけでなく、みぞおち辺りから体全体を使って波を作る意識を持つことが、バタフライのうねりの強化にも繋がります。
バタフライを速く泳ぐコツをマスターしてベストタイムを目指そう
ここまで、バタフライを速く泳ぐためのコツを「姿勢」「キック」「ストローク」「呼吸」「練習法」の観点から詳しく解説してきました。
改めて要点を整理すると、以下の3つが特に重要なポイントとなります。
- 抵抗を減らすフラットな姿勢:目線は斜め下、腰を高く保つこと。
- 第2キックとプッシュの連動:フィニッシュの瞬間に鋭く蹴り込み、加速すること。
- 低い呼吸と素早い頭の戻し:顎を水面で滑らせ、手が戻る前に頭を入れること。
バタフライは豪快に見えて、実は非常に繊細なタイミングとバランスの上に成り立っている泳法です。一度にすべてのコツを意識するのは難しいかもしれません。まずは「今日は目線を意識しよう」「明日は第2キックのタイミングだけ集中しよう」というように、一つひとつの課題をクリアしていくことをおすすめします。
正しい技術を身につければ、バタフライは決して「苦しいだけの泳ぎ」ではありません。風を切るように水面を滑走する疾走感は、バタフライでしか味わえない格別の体験です。ぜひ、今回ご紹介したコツを練習に取り入れ、自己ベスト更新を目指して泳ぎ込んでみてください。



