水泳の指導において、多くの人が「最も教えるのが難しい」と感じるのが平泳ぎです。クロールまでは順調に進んでいた子供でも、平泳ぎ特有の手足の動きやタイミングに戸惑い、壁にぶつかってしまうことは珍しくありません。
しかし、平泳ぎは一度コツを掴んでしまえば、長く楽に泳ぎ続けることができる非常に便利な泳法です。「平泳ぎ 教え方」というキーワードで検索されたあなたは、きっとお子様や生徒さんに「泳げる喜び」を伝えたいという熱意をお持ちのことでしょう。
この記事では、初心者指導のプロが実践する、わかりやすくて挫折しない平泳ぎの教え方を、陸上での準備から水中の実践まで、順を追って丁寧に解説していきます。焦らず一つひとつクリアしていくことで、必ずきれいなフォームが身につきますので、ぜひ参考にしてください。
平泳ぎの教え方で最初に知っておくべき基本と準備

平泳ぎの指導を始める前に、まずは教える側と教わる側の両方が、この泳ぎ方の特性を理解しておくことが大切です。いきなりプールに入って泳ごうとするのではなく、陸上でしっかりとイメージ作りを行うことが、スムーズな上達への近道となります。ここでは、指導を始める前の心構えや、平泳ぎならではの体の使い方の基本について解説します。
平泳ぎが他の泳ぎ方と決定的に違う点
平泳ぎが他の泳法、特にクロールや背泳ぎと大きく異なるのは、「足の裏で水を蹴る」という動作と、「伸びる時間(グライド)がある」という点の二つです。クロールや背泳ぎは足を伸ばして甲で水を蹴りますが、平泳ぎでは足首を曲げて足の裏を使います。この動作は日常生活であまり行わない動きであるため、子供や初心者にとっては非常に違和感があり、習得が難しいと感じる最大の要因となります。
また、常に手足を動かし続けるクロールとは違い、平泳ぎには「何も動かさずに進む時間」が存在します。これを理解せずに手足をバタバタと動かし続けてしまうと、水の抵抗が増えてしまい、かえって進まなくなってしまいます。指導する際は、「平泳ぎは特別な動きをする泳ぎ方なんだ」ということを最初に伝え、これまでの泳ぎ方とは頭を切り替えるように促すことが重要です。この認識のズレを最初に解消しておくことで、その後の練習がスムーズに進みます。
指導を始める前の心構えと準備体操
平泳ぎの指導では、根気強さが何よりも求められます。特に足の動き(キック)は、習得までに個人差が大きく出る部分です。昨日できたことが今日できなくなることも珍しくありません。「なんでできないの?」と焦らせるのではなく、「足の形が難しいから、ゆっくり覚えよう」と寄り添う姿勢を持ってください。指導者がリラックスしていると、子供も安心して練習に取り組むことができます。
準備体操においては、特に「股関節」と「足首」の柔軟性を高めるストレッチを入念に行いましょう。平泳ぎのキックは、膝を曲げ、足首を直角に曲げた状態で水を蹴り出すため、これらの関節が硬いと正しいフォームを作ることができません。床に座って足の裏を合わせるストレッチや、正座の状態から少し膝を開いてお尻を落とすストレッチなどを取り入れ、可動域を広げておくことが、怪我の予防だけでなく上達の助けとなります。
陸上でのシミュレーションの重要性
水の中に入る前に、陸上で動きを確認する「陸上シミュレーション」は、平泳ぎの指導において非常に効果的です。水中では体が浮いてしまい、自分の手足がどうなっているかを目で見て確認することが難しくなります。また、水の中ではバランスを取ることに必死になってしまい、フォームを修正する余裕がなくなってしまうことが多いのです。
まずは、ベッドやベンチ、あるいは床の上にうつ伏せになり、手足の動きを別々に練習させましょう。教える側が実際に子供の足を持って動かし、「この形だよ」と感覚を覚え込ませることができます。陸上でできない動きは、水中では絶対にできません。「陸上で100点満点の形が作れるようになってからプールに入る」くらいの慎重さがあってちょうど良いのです。鏡を見ながら自分の姿を確認させるのも、客観的な視点を養うのに役立ちます。
最も重要な「キック(足の動き)」をわかりやすく教える手順

平泳ぎが進まない原因の多くは、キックの形が正しくできていないことにあります。逆に言えば、キックさえマスターしてしまえば、平泳ぎの8割は完成したと言っても過言ではありません。ここでは、平泳ぎの心臓部とも言える足の動作について、具体的な指導手順とポイントを解説します。
足首の「返し」が推進力を生む最大のポイント
平泳ぎのキックで最も重要なのが、足首を90度に曲げる「足首の返し(背屈)」です。初心者の多くは、水を蹴る瞬間に足首が伸びてしまい、足の甲で水を撫でるような動きになってしまいます。これでは水を押すことができず、前に進む力が生まれません。指導する際は、「足の裏で後ろの壁をドーンと蹴るイメージ」を伝えましょう。
この感覚を掴ませるために、指導者が子供の足の裏に手のひらを当て、「この手を足の裏全体で押してみて」と指示する練習が有効です。実際に何かに抵抗を感じながら蹴ることで、足首を曲げたまま力を入れる感覚が養われます。また、「ペンギンさんのように足首を曲げて歩いてみよう」といった、親しみやすい例えを使って足首の形を意識させるのも良い方法です。この「足首のロック」が維持できるかどうかが、平泳ぎ上達の分かれ道となります。
膝を広げすぎない「ウィップキック」の意識
かつての平泳ぎ指導では、膝を大きく広げる「カエル足(ウェッジキック)」が一般的でしたが、現在は膝の幅を狭く保つ「ウィップキック」が主流です。膝を広げすぎると水の抵抗が大きくなり、進みが悪くなるだけでなく、膝への負担も大きくなります。指導する際は、「膝の間は拳(こぶし)一つか二つ分くらい開ける」程度に留め、膝から下をハの字に開くように教えましょう。
イメージとしては、膝を支点にして足先を外側に回すような動きです。初心者はどうしても足を引く動作で膝がガバッと開いてしまいがちです。これを防ぐために、太ももの間にビート板を挟んでキックの練習をする方法があります。ビート板が外れないように意識することで、自然と膝が締まり、効率の良いキックの軌道を体得することができます。膝を閉じ気味にすることで、蹴り終わった後に両足がスムーズに揃い、きれいな流線型を作ることができます。
プールサイドやビート板を使った段階的練習法
いきなり泳ぎながらキックを練習するのは難易度が高いため、段階を追って練習を進めます。最初はプールサイドに座り、足を水の中に入れた状態で動きを確認しましょう。腰掛けキックとも呼ばれますが、指導者がプールに入り、子供の足を持って正しい軌道を描くように補助します。
【段階的な練習ステップ】
1. プールサイドに座り、足首を曲げて蹴る動きを目視しながら確認する。
2. プールサイドにうつ伏せになり、下半身だけ水に入れてキックを打つ。
3. ビート板を持って顔を上げ、足の動きだけに集中して泳ぐ。
4. 呼吸をつけてビート板キックを行う。
特に「プールサイドうつ伏せキック」は、体が安定した状態で実際の水圧を感じられるため非常に有効です。指導者は横から見て、足首がしっかり曲がっているか、膝が開きすぎていないかをチェックし、その都度声をかけてあげてください。焦って次のステップに進まず、各段階で確実にできるまで反復することが大切です。
よくある「あおり足」の原因と具体的な矯正方法
平泳ぎの指導で最も苦労するのが「あおり足」の矯正です。あおり足とは、足首が伸びたまま、左右非対称に足を動かして水を挟むような動きのことです。これは推進力が得られないだけでなく、公式の大会では失格の対象にもなります。原因の多くは、足を引きつける時につま先が伸びていることや、蹴り出す瞬間に足首を回す意識が足りないことにあります。
あおり足を直すには、一度陸上に上がって自分の足の動きを鏡などで見ることが効果的です。また、水中では「壁キック」の練習を取り入れましょう。壁に向かって手を突き、体を固定した状態で、指導者が足を持って正しい軌道を繰り返し教え込みます。矯正には時間がかかりますが、「足を引きつける時はカカトをお尻に近づける」「蹴る時はつま先を外に向ける」という二点を根気強く伝え続けることが解決への道です。片足ずつ練習するのも、意識を集中させるために有効な手段です。
スムーズな呼吸につながる「手のかき(ストローク)」の指導法

キックがある程度形になってきたら、次は手のかき(ストローク)の練習に移ります。平泳ぎの手の動きは、呼吸をするための重要な動作でもあります。初心者はどうしても大きくかきすぎてしまい、その結果体が沈んでしまうことが多いので、コンパクトで効率的な動きを教えることがポイントです。
目の前でハートを描くような動きをイメージ
平泳ぎの手の動きを教える際、最もわかりやすいのが「逆ハート」や「おにぎり」を描くというイメージです。両手を前に伸ばした状態から、手のひらを外側に向けて水をかき、胸の前で手を合わせて、また前に伸ばします。この一連の動作が、自分の方から見るとハートの上半分を描くように見えるため、「ハートを描いて」と伝えると子供には伝わりやすくなります。
また、手のひらだけで水をかこうとするのではなく、前腕(肘から先)全体で水を捉える感覚が大切です。しかし、最初は難しいので、「手のひらで水を自分の方に集めてくる」というシンプルな説明で十分です。重要なのは、かき込んだ手が胸の前で止まらないことです。胸の前で合掌するように手を合わせたら、すぐに前にシュッと突き出すように教えましょう。このメリハリがリズムを生みます。
肘を引きすぎないことが抵抗を減らす鍵
初心者が陥りやすい最大のミスは、手を後ろまでかきすぎてしまうことです。クロールのイメージで太もものあたりまで水をかいてしまうと、次に手を前に戻すときに大きな水の抵抗を受けてしまいます。さらに、手が体の横まで来てしまうと、物理的に体を持ち上げることが難しくなり、呼吸が苦しくなる原因にもなります。
指導の際は、「手は肩のラインより後ろにはいかない」あるいは「肘は常に自分の目で見える位置に置いておく」と指導してください。水中で「小さく前へ倣え」をするような位置でかき終えるのが理想です。かきを小さくすることで、素早く次の動作に移ることができ、結果的に疲れにくく、スムーズな呼吸動作へとつながっていきます。
手を前に戻す瞬間のスピードアップ
手のかき動作の中で最も素早く行わなければならないのが、かき込んだ手を前に戻す「リカバリー」の動作です。胸の前までかき込んだ手を、ゆっくり前に戻していると、その間に体はどんどん沈んでしまいます。水をかいて顔が上がったら、息を吸うと同時に素早く手を前に突き出す必要があります。
手を前に出すときは、水面の上を滑らせるようなイメージか、水面ギリギリを突き刺すようなイメージを持たせます。これにより、体が水平な姿勢(ストリームライン)に戻りやすくなり、次のキックの効果を最大限に活かすことができます。
タイミングが命!手と足の連動と「伸び」の習得

手と足それぞれの動きができても、それを組み合わせるタイミングがズレていると平泳ぎは泳げません。平泳ぎは「タイミングのスポーツ」と言われるほど、手足の協調性が重要です。ここでは、初心者が混乱しやすい手足の動かす順番と、平泳ぎの醍醐味である「伸び」について解説します。
「かいて、蹴って、伸びる」のリズム
平泳ぎのタイミングを教える際、最も基本となるリズムは「プル(手)→ブレス(呼吸)→キック(足)→グライド(伸び)」の順番です。初心者の多くは手と足を同時に動かしてしまいがちですが、これでは推進力が相殺されてしまいます。指導する際は、「手が先、足が後」という大原則を徹底させましょう。
具体的な掛け声としては、「1(手と呼吸)、2(足)、3(伸びる)」という3拍子のリズムがおすすめです。「1」で顔を上げて息を吸い、「2」で頭を入れながら強くキックし、「3」で体を一直線にして進みます。このリズムを陸上で何度も声に出しながら練習し、体で覚え込ませてから水中に入るとスムーズです。慣れてくれば「パッ(手)、ドーン(足)、スーッ(伸び)」といった表現に変えても良いでしょう。
1ストロークで長く進むためのグライド姿勢
平泳ぎにおいて最もスピードが出るのは、キックを打ち終わった直後の「伸び(グライド)」の時間です。この時にいかに水の抵抗を減らし、長く進めるかが上達のポイントです。しかし、初心者は沈むのが怖くてすぐに次の動作を始めてしまい、せっかくの推進力を殺してしまいます。
指導のポイントは、「キックの後は必ず2〜3秒我慢する」ことです。頭をしっかりと両腕の間に入れ、指先から足先までが一本の棒になるように意識させます。「水の中でスーパーマンになって飛んでごらん」と伝えると、子供はきれいな姿勢を作ろうと努力します。この「何もしない時間」を作ることが、楽に長く泳ぐための秘訣であり、平泳ぎを美しく見せる要素でもあります。
呼吸のタイミングを合わせるコツ
手足の動きに呼吸が加わると、難易度はさらに上がります。呼吸のタイミングが遅れると、顔が上がらず水を飲んでしまったり、リズムが崩れたりします。正しいタイミングは、手で水をかき始めた瞬間に顔を上げ始め、手が胸の前に来る頃には息を吸い終えている状態です。
そして、手が前に伸びていくのと同時に顔を水中に戻します。この「顔を戻す」動作がおろそかになると、キックの時に体が斜めになり、ブレーキがかかってしまいます。指導の際は、「手を見ると顔が上がるよ」「手が前に行ったらおへそを見るよ」と視線の位置を具体的に指示してあげましょう。視線を誘導することで、自然と頭の位置が決まり、呼吸のタイミングも合いやすくなります。
子供や初心者が陥りやすい失敗と改善のポイント

一生懸命練習していても、なかなかうまくいかないことはあります。ここでは、多くの初心者がぶつかる壁と、それを乗り越えるための具体的なアドバイスを紹介します。原因を正しく見極め、適切な言葉かけをすることで、停滞していた成長が再び動き出します。
体が沈んでしまう原因と対策
「息継ぎをすると体が沈んでしまう」というのは、非常によくある悩みです。この主な原因は、呼吸の際に頭を高く上げすぎていることにあります。水面から高く出ようとすればするほど、シーソーの原理で下半身は深く沈んでしまいます。体が立ってしまい、次のキックが下向きになってしまう悪循環に陥ります。
対策としては、「アゴを水面ギリギリに乗せるだけでいい」と教えることです。顔全体を出す必要はなく、口さえ水面に出れば呼吸はできます。また、視線を遠くではなく、すぐ近くの水面に落とすように指導しましょう。さらに、肺の中に空気を溜めすぎていると浮力で上半身が浮きすぎてバランスを崩すことがあるため、水中で鼻からしっかりと息を吐き切る(ボビングの基礎)を再確認することも大切です。
進まない時にチェックすべき足の裏の感覚
手足のタイミングは合っているのに前に進まない場合、やはり「水を押せていない」ことが疑われます。特に、キックの瞬間に力が逃げてしまっているケースが多いです。これを改善するには、足の裏の水圧を感じ取る感覚練習が必要です。
壁キックの状態で、指導者が後ろに立ち、子供の足の裏にビート板を当ててあげます。「このビート板を蹴飛ばしてみて」と指示し、実際に物に力を伝える感覚を体験させます。スカッと空振りする感覚ではなく、重いものを押す感覚がわかれば、水中でも水を「重いもの」として捉えられるようになります。また、蹴り終わりで足をしっかり閉じる(太もも同士をくっつける)意識を持つことで、最後まで水を押し切ることができ、推進力がアップします。
頭を上げすぎてしまう癖の直し方
恐怖心から、どうしても頭を上げすぎてしまう生徒もいます。頭が上がると腰が下がり、抵抗の塊のような姿勢になってしまいます。この癖を直すには、「頭を入れる」ことのメリットを体感させることが一番です。
指導のメモ:
「頭を水に入れると、体がロケットみたいにスーッと進むよ」と、伸びる感覚の気持ちよさを強調して伝えます。
練習方法としては、ビート板を持たずに「けのび」の練習を繰り返し行います。正しいストリームライン(流線型)で進む距離が伸びることを実感させ、その姿勢を平泳ぎのストロークの中に取り入れるように促します。「おでこ」や「頭のてっぺん」ではなく、「後頭部」で水を感じるように伝えると、自然とアゴが引けて良い姿勢になります。
恐怖心を取り除くための段階的なアプローチ
平泳ぎは顔を上げる動作と沈める動作の繰り返しであるため、水への恐怖心がある子供にとってはハードルが高い種目です。無理に泳がせようとすると、水泳自体が嫌いになってしまう可能性があります。恐怖心が強い場合は、一度平泳ぎの形から離れ、水慣れに戻る勇気も必要です。
まずは足の着く浅い場所で、立ったまま呼吸動作だけを行ったり、ヘルパー(腰につける浮き具)を使用して体が沈まない安心感を与えたりすることが有効です。「絶対に沈まないから大丈夫」という安心感が土台にあって初めて、技術的な指導が入っていきます。指導者は笑顔で、「怖かったらすぐに立っていいよ」と逃げ道を用意してあげることで、子供の緊張を解きほぐすことができます。スモールステップで、「できた!」という成功体験を積み重ねさせてあげてください。
平泳ぎの教え方を整理して楽しく上達をサポートしましょう
平泳ぎは、手と足の複雑な連動や独特なキックの形など、覚える要素が多い泳ぎ方です。しかし、今回解説したように、「足首を返して水を蹴る」「手はコンパクトにかいて素早く戻す」「伸びる時間を作る」といった基本を一つひとつ丁寧に積み上げていけば、必ず泳げるようになります。
指導する際のポイントは、一度にすべてを教えようとしないことです。「今日は足の形だけ」「今日はタイミングだけ」とテーマを絞り、できたことを大いに褒めてあげてください。教える側が焦らず、楽しんで指導することで、そのポジティブな雰囲気は必ず相手に伝わります。水の中を滑るように進む平泳ぎの気持ちよさを、ぜひあなたの指導で伝えてあげてください。この記事が、素晴らしい水泳の時間の一助となれば幸いです。



