平泳ぎを泳いでいるとき、壁際でのターンで「苦しい」「スピードが落ちてしまう」と感じたことはありませんか?クロールのように勢いよく回るクイックターンとは異なり、平泳ぎでは「タッチターン」と呼ばれる独特の動作が必要になります。このターン動作は、少しのコツを掴むだけで驚くほどスムーズになり、タイム短縮だけでなく、体力の消耗を抑えることにもつながります。
しかし、正しいルールを知らないと、大会などで思わぬ失格になってしまうこともあるため注意が必要です。この記事では、初心者の方でも分かりやすく、平泳ぎターンの基本ルールから、素早く回るための実践的なテクニック、そして自宅でもできる練習方法までを詳しく解説していきます。壁を味方につけて、もっと快適に、もっと速く泳げるようになりましょう。
平泳ぎターンの基本「タッチターン」のルールと重要性

平泳ぎのターンは、単に壁を蹴って折り返すだけの動作ではありません。競泳のルールにおいて非常に厳格な決まりがあり、それを守らないと即座に失格となってしまいます。まずは、正しい「タッチターン(オープンターン)」の基本知識と、絶対に守るべきルールについて深く理解しておきましょう。
タッチターン(オープンターン)とはどんな動き?
タッチターン、またはオープンターンとは、壁に手をついてから体の向きを変え、呼吸をして再び壁を蹴る一連の動作を指します。クロールのクイックターン(前転しながら回る方法)とは違い、顔を一度水面上に出して呼吸を行うため、比較的動作が落ち着いており、初心者の方でも取り組みやすいのが特徴です。
しかし、「簡単だから適当でいい」というわけではありません。タッチターンは、壁へのアプローチ、タッチの瞬間、体の回転、そして壁を蹴るまでの動作が流れるようにつながっていなければなりません。ここで動きが止まってしまうと、泳いできた勢いが完全に失われ、再スタートに大きなエネルギーが必要になってしまいます。スムーズなタッチターンは、まるでバネのように、壁についた瞬間のエネルギーを次の推進力へと変換する技術なのです。
絶対に知っておきたい「両手タッチ」のルール
平泳ぎのターンにおいて最も重要であり、かつ初心者が最も犯しやすいミスが「タッチの仕方」に関するルールです。公式ルールでは、「両手同時に壁にタッチしなければならない」と定められています。これはバタフライのターンでも同様です。
具体的には、左右の手が離れた状態で、同時に壁に触れる必要があります。片手だけ先に壁についてしまったり、両手が重なった状態でタッチしたりすると、その時点で「違反」とみなされ失格になります。特に疲れてくると、呼吸を急ぐあまり片手が先に壁に到達してしまったり、体が斜めになって片方の肩が下がった状態でタッチしてしまったりすることがあります。練習のときから「両手でバン!」と壁を叩くくらいの意識を持ち、左右の手が同時に着くリズムを体に覚え込ませることが大切です。
ターン後の「ひとかきひとけり」もセットで覚える
平泳ぎのターンは、壁を蹴って終わりではありません。壁を蹴った後の水中動作である「ひとかきひとけり(プルアウト)」までがターンの一連の流れと考えましょう。平泳ぎは他の泳法と比べて水の抵抗を受けやすいため、壁を蹴った直後の最もスピードが出ている時間を有効活用する必要があります。
壁を蹴った後、体は一直線の「ストリームライン(けのびの姿勢)」を作ります。そこから、両手を大きく太ももまでかく動作(プル)と、一度だけのドルフィンキック、そして平泳ぎのキックを組み合わせることで、水面に浮上してきます。この一連の動作は、通常のスイム動作よりも遥かに進む距離が長く、ここでどれだけ距離を稼げるかがタイム短縮の鍵を握っています。ターン動作そのものと同じくらい、この水中動作の習得は重要です。
ドルフィンキックのタイミング
現在のルールでは、ひとかきひとけりの動作中に「1回だけ」ドルフィンキックを打つことが許されています。多くの選手は、最初のひとかきをする前、またはひとかきと同時にドルフィンキックを行い、推進力を高めています。
スムーズな平泳ぎターンを実現する具体的な手順

ルールの基本を押さえたところで、次は実際の体の動かし方を順を追って見ていきましょう。ターン動作を細かく分解すると、いくつかの重要なステップに分けることができます。一つひとつの動作を丁寧に行うことが、結果として素早いターンへとつながります。
壁へのアプローチとタッチのタイミング
スムーズなターンの成否は、壁に手がつく前の「アプローチ」の段階でほぼ決まっています。壁までの距離を目測し、ストロークの長さを調整して、腕が伸びきった状態で壁にタッチできるように合わせるのが理想です。
もし壁までの距離が中途半端になり、腕が縮こまった状態でタッチしてしまうと、壁と体の距離が近くなりすぎてしまい、その後の回転動作が窮屈になります。逆に、壁まで遠すぎて無理やり手を伸ばしてタッチすると、体が伸びきってしまい、次の動作に移るための「タメ」を作ることができません。初心者のうちは難しいかもしれませんが、壁の5メートル手前にあるフラッグなどを目印にして、「あと何回かいたら壁に届くか」を把握しておく練習をすると良いでしょう。タッチの瞬間は、指先が水面付近に来るようにし、手のひら全体でしっかりと壁を捉えます。
体を小さく畳む「引きつけ」の動作
壁に両手がついた瞬間、いかに素早く体を小さくできるかが回転スピードを決めます。これを「引きつけ」と呼びます。両手で壁を受け止めると同時に、両膝をお腹の方へ一気に引き寄せます。このとき、体は水中でボールのように丸くなるイメージを持ちましょう。
物理の法則として、回転する物体は半径が小さいほど速く回ることができます。フィギュアスケートの選手がスピンをするときに手足を縮めるのと同じ原理です。水泳のターンでも、手足が伸びたままダラダラと回るのではなく、タッチした反動を利用してキュッと体を小さく畳むことで、水の抵抗を最小限に抑えながらクルッと向きを変えることができます。この「膝を引きつける」スピードが速ければ速いほど、キレのあるターンになります。
壁を蹴るための姿勢変換とストリームライン
膝を引きつけながら、次は体を進行方向へと向け直す動作に入ります。ここでは、片手を壁から離し、もう片方の手で壁を押す力を利用します。例えば、左回りの場合、左手を壁から離して水中の進行方向へ送り出しながら、右腕で壁を押しつつ体を左側へ倒れ込ませるように回転させます。
体が横向きになり、両足が壁にしっかりついた瞬間、壁に残っていた手(この場合は右手)を素早く頭の後ろを通して水中に戻し、両手を重ね合わせます。これが「ストリームライン(けのび姿勢)」の完成です。この一連の流れの中で、足は壁のやや深い位置に着地させるのがコツです。浅すぎると水面に向かって飛び出してしまい、深すぎるとプールの底に向かって進んでしまいます。ちょうど良い深さを見つけることが、その後の水中動作を成功させるポイントです。
呼吸のタイミングと目線の位置
ターン動作中の呼吸は、初心者が最もパニックになりやすいポイントの一つです。「いつ息を吸えばいいの?」と迷っている間に水を飲んでしまうこともあります。正解は、「体が回転し始めた直後、顔が水面に出た瞬間」に素早く息を吸います。
重要なのは目線です。タッチするまでは壁を見ても構いませんが、タッチして回転が始まったら、目線は壁から離し、進むべき方向(プールの反対側の壁)や横のコースロープを見るように移動させます。いつまでも壁を見続けていると、頭が残ってしまい、体の回転が遅れてしまいます。また、呼吸をしようとして顔を高く上げすぎるのもNGです。顔を上げると腰が沈んでしまい、大きな抵抗となります。「水面スレスレで口を開けて、一瞬で吸う」のが理想的です。
タイムが縮まる!素早いターンをするためのコツ

基本の手順ができたら、次は「速さ」を追求しましょう。競技に出る方はもちろん、楽に長く泳ぎたい方にとっても、ターン時間を短縮することは大きなメリットがあります。ここでは、上級者も実践しているスピードアップのテクニックを紹介します。
壁を長く持ちすぎない
ターンが遅い人の最大の特徴は、「壁に手をついている時間が長い」ことです。壁について一休みしてしまい、よいしょと体を持ち上げて呼吸をしてから回る……これでは完全に停止状態になってしまいます。
素早いターンをするためには、壁を「掴む」のではなく、「弾く」感覚を持つことが大切です。タッチした瞬間の衝撃を吸収するのではなく、その反発力を利用してすぐに回転動作に入ります。イメージとしては、熱い鉄板に触れたときのように「アチッ!」とすぐに手を離すような感覚に近いかもしれません。壁に触れている時間は1秒未満を目指しましょう。壁に留まる時間を短くすればするほど、泳いできたスピードを殺さずに次の動作へつなげることができます。
片手を素早く耳の横へ持ってくる
回転を速くするためには、腕の使い方が重要です。壁に残っている方の手(最後に離す手)の動きに注目してください。多くの人は、この手を大きく振り回して頭の上に持ってこようとしますが、それでは遠回りになり時間がかかります。
最短距離を通ることが鉄則です。壁を離した手は、空気を切り裂くように耳の横へ「鋭く」持ってきます。電話の受話器を耳に当てるような軌道をイメージすると分かりやすいでしょう。この動作を素早く行うことで、上半身がスムーズに水没し、完璧なストリームラインを瞬時に作ることができます。腕が頭の後ろで組まれるスピードが速ければ、それだけ早く壁を蹴る準備が整うということです。
膝を緩めずに強く壁を蹴る
回転が終わり、足が壁についた瞬間、膝が深く曲がりすぎていると、壁を蹴るまでに時間がかかってしまいます。逆に膝が伸びきっていると、十分に力を伝えることができません。最も強く壁を蹴ることができる膝の角度は、スクワットでパワーを発揮しやすい角度と同じくらいだと言われています。
また、足が壁についたら「間」を置かずに、爆発的に蹴り出すことが重要です。足裏全体で壁を捉え、親指の付け根あたりに力を込めて一気に押し切ります。このとき、体がまだ完全にうつ伏せになっていなくても構いません。横向きまたは斜め向きの状態で壁を蹴り、その勢いの中で徐々にうつ伏せに戻っていくのが、抵抗を受けずに加速する高等テクニックです。完全にうつ伏せになってから蹴ろうとすると、動作が一度止まってしまう原因になります。
上達のヒント:スピンの力を使う
壁を蹴る直前、体は「ねじれた」状態になっています。このねじれが元に戻ろうとする力(弾性エネルギー)を利用して、スクリューのように回転しながら壁を蹴ることで、より強力な推進力を得ることができます。
よくある失敗例と解決策をチェック

練習していてもなかなか上手くいかない場合、無意識のうちに「やってはいけない動き」をしてしまっている可能性があります。ここでは、初心者が陥りやすい失敗パターンと、その解決策を具体的に見ていきましょう。
タッチが合わずに減速してしまう
壁の手前で「あとひとかきするか、伸びてタッチするか」迷ってしまい、結局中途半端なスピードで壁に激突したり、逆に届かなくてバタ足で進んでしまったりするケースです。これはリズム感の欠如と、自分のストローク長を把握していないことが原因です。
解決策:
無理にストロークを変えるよりも、壁の5メートル手前から「タッチまでの歩数」を数える癖をつけましょう。「1、2、3、タッチ」というように、自分のリズムを作ります。もし合わないと感じたら、最後は大きく伸びてタッチするよりも、少しピッチを上げて短くかいてタッチする方が、勢いを殺さずにターンに入りやすいです。日頃の練習から、壁際での微調整を意識して泳ぐことが大切です。
回転中に体が浮いてしまう
ターンをしている最中に上半身が水面から大きく出てしまい、ドボンと落ちるように水に戻る人がいます。これは、呼吸をするために顔を上に向けすぎているか、壁を下に押し下げてしまっていることが原因です。体が浮き上がると、その分だけ沈むのに時間がかかり、スムーズな蹴り出しができなくなります。
解決策:
壁を「下」に押すのではなく、「前(進行方向と逆)」に押す意識を持ちましょう。そして、頭の位置を低く保つことが重要です。顎を引いて、水面ギリギリで呼吸をすることを意識してください。頭が低い位置にあれば、体は自然と水中へ潜り込みやすくなり、スムーズなストリームラインへと移行できます。
壁を蹴った後に抵抗を受けてしまう
せっかく強く壁を蹴ったのに、すぐに止まってしまう。これは「姿勢」に問題があります。壁を蹴った直後に指先が開いていたり、顔が前を向いていたり、腰が反っていたりすると、水から強烈なブレーキ(抵抗)を受けてしまいます。
解決策:
壁を蹴る瞬間は、徹底して「ストリームライン」を作ります。両腕で頭を挟み込み、手は重ね合わせ、足先までピンと伸ばします。特に重要なのは「頭を入れる」ことです。視線は真下か、やや後ろを見るくらいの気持ちで頭を腕の中にしまい込みましょう。この姿勢が完璧であれば、壁を蹴った勢いだけで5メートル以上進むことも難しくありません。鏡の前で、陸上で綺麗なけのび姿勢が作れているかチェックするのも有効です。
| 失敗例 | 主な原因 | 解決策のポイント |
|---|---|---|
| 壁の手前で失速する | 距離感が掴めていない | 5m手前からストローク数を数える |
| 体が浮き上がる | 壁を下に押している・顔を上げすぎ | 壁を横に押し、顎を引いて低い姿勢を保つ |
| 蹴った後進まない | ストリームラインが崩れている | 頭を腕に挟み、指先から足先まで一直線にする |
平泳ぎターンが上達するおすすめの練習方法

ターンの技術は、泳ぎ込みの中で自然に身につくものではありません。ターンに特化した練習を行うことで、効率よく上達することができます。プールでの練習はもちろん、家でできるイメージトレーニングも非常に効果的です。
陸上で動きを確認するイメージトレーニング
水中で上手くいかない動きは、陸上でもできないことが多いです。まずは部屋の中で、壁に向かって立ち、ターンの動きをシミュレーションしてみましょう。ゆっくりとした動作で、正しいフォームを確認します。
壁の前に立ち、両手で壁にタッチします。そこから、「膝を曲げてしゃがみ込む(引きつけ)」、「片手を引いて体を横に向ける(回転)」、「壁に背を向けるようにして反対の手を耳に寄せる(ストリームラインの準備)」という一連の流れを反復します。鏡を見ながら、手の位置や顔の向きが正しいかチェックしてください。陸上でスムーズに動けるようになれば、水中でも同じ動きができるようになります。
壁を使わずに水中で回る練習
プールの壁を使わず、コースの真ん中でターンの回転動作だけを練習する方法です。これは、壁に頼らずに自分の腹筋や体幹を使って小さく回る感覚を養うのに最適です。
水中で立ち泳ぎや伏し浮きの状態から、架空の壁があるつもりで、空中で手をタッチする動作をします。そこから素早く膝を抱え込み、くるっと回って反対方向を向きます。壁がないため、体を小さく畳まないと上手く回れません。この練習を繰り返すことで、「引きつけ」の速さと、コンパクトな回転動作が身につきます。慣れてきたら、回転した後に壁を蹴る動作(空蹴り)まで入れてみましょう。
ゆっくり泳いでタッチ動作を繰り返す
実際に壁を使って練習しますが、最初は全力で泳がずに、ゆっくりとした平泳ぎで壁に近づきます。スピードを落とすことで、一つひとつの動作を冷静に確認することができます。
壁の5メートル手前からスタートし、タッチ、引きつけ、足のセット、蹴り出しまでを行います。蹴り出した後は泳がずに、そのまま惰性で進み、止まったらまた元の位置に戻ってやり直します。この「ターンだけの反復練習」を1日に10回~20回行うだけでも、劇的に上達します。特に「両手タッチ」と「足の位置」に集中して練習してください。
ターン後の水中動作(プルアウト)のドリル
ターンそのものが上手くなってきたら、その後の「ひとかきひとけり(プルアウト)」の質を高める練習も取り入れましょう。壁を蹴ってスタートし、どこまで浮き上がらずに進めるか挑戦します。
壁を強く蹴り、3秒ほどけのびで進みます。スピードが落ち始めたら、ドルフィンキックを一回打ち、両手を太ももまで一気にかき下ろします。そこでもう一度伸びてから、手を体の近くを通して前に戻し、平泳ぎのキックを打って浮上します。この一連の動作で、12.5メートル(プールの半分)付近まで顔を出さずに進めるようになるのが理想です。最初は苦しいかもしれませんが、この水中動作が身につけば、レース後半でもスピードを維持できるようになります。
まとめ:平泳ぎターンをマスターして快適に泳ぎ続けよう
今回は、平泳ぎのターン(タッチターン)の基本ルールから、実践的なコツ、練習方法までを解説しました。ターンは水泳の中でも特に技術的な要素が強い部分ですが、一度マスターしてしまえば、泳ぎ全体のリズムが良くなり、体力的にも楽になります。
最後に、重要なポイントをもう一度振り返りましょう。
- ルール厳守:必ず「両手同時」にタッチすること。
- 小さく回る:タッチした反動を利用し、膝を素早く引きつけてコンパクトに回転する。
- 素早い呼吸:壁を長く持たず、水面スレスレで短く呼吸をする。
- 姿勢を作る:壁を蹴る前に、しっかりとしたストリームライン(けのび姿勢)を完成させる。
- 水中動作:ターン後の「ひとかきひとけり」で距離を稼ぐ。
最初は焦らず、一つひとつの動作を丁寧に確認することから始めてください。スムーズなターンができるようになれば、平泳ぎがもっと楽しく、そしてもっと速くなるはずです。次の練習からぜひ意識して取り組んでみてください。



