「平泳ぎで長い距離は泳げるようになったけれど、スピードがなかなか上がらない」
「一生懸命かいて蹴っているのに、進んでいる感覚が少ない」
そんなふうに感じていませんか?平泳ぎは、顔を上げて呼吸がしやすいため初心者の方でも取り組みやすい泳ぎ方ですが、実は「速く泳ぐ」となると非常に奥が深く、技術が必要な種目でもあります。他の泳ぎ方に比べて水の抵抗を受けやすいため、ただ力任せに手足を動かすだけでは、逆にブレーキをかけてしまうことさえあるのです。
この記事では、平泳ぎのタイムを縮めたい、もっとスイスイと楽に進みたいという方に向けて、具体的な体の使い方や意識すべきポイントを丁寧に解説します。水の抵抗を減らす姿勢づくりから、推進力を生むキック、そしてタイミングの取り方まで、明日からのプールでの練習にすぐ役立つ内容をお届けします。
平泳ぎ速く泳ぐコツの基本は「抵抗の削減」から

平泳ぎでスピードアップを目指すとき、多くの人は「もっと強く水をかこう」「もっと強く蹴ろう」と考えがちです。しかし、実はそれ以上に大切なのが「水の抵抗を減らすこと」です。水は空気の約800倍もの密度があると言われており、私たちが思っている以上に体へのブレーキとなっています。
速く泳ぐ選手ほど、推進力を生み出す瞬間以外は、徹底して抵抗の少ない姿勢を作っています。まずは、この基本となる「抵抗の削減」について見ていきましょう。
ストリームライン(けのび)の質を高める
水泳の基本姿勢である「ストリームライン(けのび)」の完成度が、平泳ぎの速さを大きく左右します。平泳ぎは、キックを打った後に「伸びる時間(グライド)」があるのが特徴です。この伸びている間に、どれだけ姿勢を一直線に保てるかが重要になります。
良いストリームラインを作るには、両腕を耳の後ろで組み、頭を腕の中にしっかりと入れ込みます。そして、指先から足先までが一本の棒になるようなイメージを持ちましょう。壁を蹴ってスタートした直後だけでなく、泳いでいる最中のひとかき・ひとけりの後にも、この姿勢を毎回再現することが大切です。
姿勢をフラットに保つ意識
平泳ぎでよくある失敗が、腰が沈んで体が斜めになってしまうことです。下半身が沈んでいると、太ももやお腹が常に水流を受けてブレーキがかかった状態になります。これを防ぐためには、水面に対して体が平行(フラット)になるよう意識する必要があります。
おへその下あたり(丹田)に少し力を入れ、お尻を水面近くまで持ち上げるような感覚を持ってください。また、背中が反りすぎていると腰が落ちやすくなるため、お腹を少しへこませるようにして腰回りを平らに保つのがコツです。
フラットな姿勢を作るドリル
プールサイドに手をかけず、水面にうつ伏せで浮く「だるま浮き」から、手足を伸ばして「伏し浮き」になり、その状態を10秒間キープしてみましょう。誰かに横から見てもらい、かかとから頭までが水面近くにあるかチェックしてもらうのがおすすめです。
頭の位置と視線のコントロール
頭の位置も抵抗に大きく関係します。呼吸の後に頭を戻すとき、前を見続けていると頭が上がり、その反動で下半身が沈んでしまいます。伸びている局面では、視線は「真下」か「斜め前方のプールの底」を見るようにしましょう。
頭を腕の中にしっかり収納し、後頭部が水面すれすれに来るくらいが理想的です。アゴを引きすぎても首に力が入ってしまうため、首の後ろを長く伸ばすようなリラックスした状態で頭をセットすることを心がけてください。
推進力を最大化するキックのテクニック

平泳ぎにおいて、推進力の約7割から8割はキック(足の動作)によって生み出されると言われています。つまり、キックの技術を磨くことがスピードアップへの近道です。しかし、足の形や動かし方が間違っていると、水を後ろに押せず、ただ水を切るだけの動作になってしまいます。
ここでは、効率的に水を捉えて後ろへ押し出すためのキックのポイントを詳しく解説します。いわゆる「ウィップキック」と呼ばれる、ムチのようにしなるキックを目指しましょう。
膝の開きすぎに注意する
昔の平泳ぎでは、カエルのように膝を大きく開いて蹴る方法が一般的でしたが、現在は膝の幅を狭くする「ウィップキック」が主流です。膝を大きく広げすぎると、太ももの前面が水を受けて大きな抵抗になってしまうからです。
膝の幅は「肩幅」もしくは「こぶし1つ〜2つ分」くらいを目安にします。膝を広げるのではなく、膝から下(すね)を外側に広げるようなイメージを持ちましょう。足を引きつけるときも、膝が外に逃げないように注意が必要です。
足首を「背屈」させて水を捉える
平泳ぎのキックで最も重要なのが足首の形です。水を蹴る瞬間、足首をしっかりと曲げる(背屈させる)必要があります。足首が伸びたまま(底屈したまま)だと、足の甲で水を撫でてしまい、推進力が生まれません。
足を引きつけて蹴り出す瞬間に、つま先を外側に向け、足の裏全体で水を後ろに押し出す準備をします。足の裏で重たい水を感じることができれば、しっかりと水をとらえられている証拠です。
足首の柔軟性チェック
床に座って足を伸ばし、つま先を外側に倒してみてください。また、正座の状態からお尻を床に落とす「ぺたんこ座り(女の子座り)」ができるかどうかも、足首や膝の柔軟性の目安になります(※無理のない範囲で行ってください)。足首が硬いと、水を捉える面を作るのが難しくなります。
弧を描くように鋭く蹴り込む
足を引きつけた後、真っ直ぐ後ろに蹴るだけではなく、やや外側から内側へ向かって弧を描くように蹴り込みます。これが「ウィップ(ムチ)」のような動作です。水を後ろに押し出しながら、最後に水を挟み込むような動きを加えることで、爆発的な推進力が生まれます。
ただし、意識しすぎて足を回しすぎると回転動作になってしまいます。「後ろへ押す」成分と「内側へ挟む」成分をバランスよく組み合わせることが大切です。蹴り出しはゆっくりではなく、一瞬で鋭く行うことでスピードに乗ることができます。
蹴り終わりで足裏を合わせるイメージ
キックのフィニッシュ(蹴り終わり)は、両足がピタリと揃い、足の裏同士が向かい合うような形になるのが理想です。蹴りっぱなしで足が開いたままだと、その後の「伸び」の局面で足が抵抗になってしまいます。
「蹴って、閉じる」までを一つの動作として行いましょう。太ももの内側の筋肉(内転筋)を使って、最後にキュッと足を閉じることで、水流を後ろに噴射させるような効果も期待できます。この「閉じる」動作まで完了して初めて、キックの動作が終わったと考えましょう。
効率的なプル動作でスムーズに進む

キックが推進力の主役であるとはいえ、手の動作(プル)も重要です。平泳ぎの手の役割は、推進力を生むことだけでなく、呼吸のための顔上げをサポートし、次のストリームラインへと繋げることにあります。
初心者の方は、手を大きくかきすぎて失速してしまうケースが多く見られます。コンパクトで素早い手の動作を身につけましょう。
かきすぎない「コンパクトなプル」
手を後ろまでかきすぎてしまうと、戻す(リカバリー)動作で水の抵抗を大きく受けてしまいます。手はお腹やお尻までかき込まず、胸の前あたりで止めて、素早く前に戻すのが鉄則です。
自分の視界の中で手の動作が完結するくらいコンパクトで構いません。「進もう」と思って大きくかいても、戻す時のブレーキが大きければプラスマイナスゼロ、あるいはマイナスになってしまいます。「かいたらすぐに戻す」意識を強く持ちましょう。
ハイエルボーで水を捉える
水をかくときは、肘を高い位置に保つ「ハイエルボー」を意識します。肘が下がって手先だけで水をなでてしまうと、力が水に伝わりません。肘を固定点のようにして、前腕(肘から先)を垂直に立てて水を抱え込むようにします。
自分の胸の前に水を集めてくるようなイメージです。このとき、脇を締めながら水を抱え込むことで、大胸筋などの大きな筋肉を使って力強く水をかくことができます。
素早いリカバリーで減速を防ぐ
水をかき終わってから、手を前に伸ばす動作を「リカバリー」と言います。平泳ぎでは、このリカバリーをいかに速く行うかがスピードアップの分かれ道です。水中で手を前に戻す際、手のひらを合わせたり重ねたりして抵抗を減らし、槍を突くような鋭さで前に伸ばします。
水面上の抵抗の少ない空間を利用して、肩をすぼめながらサッと前に出す感覚です。ここで動作がゆっくりだと、体が沈み始め、次のキックのタイミングも遅れてしまいます。
タイミングとリズムが速さを決める

「キックもプルも形は悪くないのに、なぜか速くない」という場合、手と足のタイミングがずれていることが考えられます。平泳ぎは、手と足が同時に動くのではなく、交互に動くことでスムーズに進みます。
タイミングが悪いと、手で進もうとしている時に足を引きつけてブレーキをかけてしまったり、キックの推進力を手の動作で殺してしまったりします。正しいリズムを体に覚え込ませましょう。
「プル・ブレス・キック・グライド」の順序
平泳ぎの一連の動作は、以下の順番で行われます。
1. プル(手をかく)
2. ブレス(呼吸する・手が胸の前に来る)
3. キック(足を蹴る・手が前に伸びる)
4. グライド(伸びる)
特に重要なのは、「手が前に伸びてからキックを打つ」というタイミングです。手がまだ胸の前にある状態でキックを打ってしまうと、手が抵抗になり、せっかくのキックの力が半減してしまいます。手が矢のように前に突き刺さり、ストリームラインができた瞬間にキックが炸裂するのが理想です。
グライド(伸び)の時間を大切にする
速く泳ぐためには、あえて「何もしない時間」を作ることが大切です。それがグライドです。キックで得たスピードで水の中を滑るように進んでいる時間は、最も抵抗が少なく、最も速い瞬間です。
焦って手足をバタバタ動かすと、この最速の時間を自ら消してしまうことになります。「イチ、ニ、サーン」のリズムで泳ぐなら、「サーン」の部分でしっかりと伸びを感じてください。スピードが落ちてきたと感じる直前に次の動作に入ります。
練習メモ:
25メートルを泳ぐときの「ストローク数(何回かいて壁に着いたか)」を数えてみましょう。タイムを落とさずにストローク数を減らすことができれば、それだけ「ひとつの動作で長く進めている=効率が良い」証拠です。
手と足の動作を重ねない工夫
ブレーキを最小限にするためには、加速している時と減速してしまう時のメリハリが必要です。
・手が抵抗になっている時(リカバリー)は、足はまだ引きつけず我慢する。
・足が抵抗になっている時(引きつけ)は、手はすでに前に伸びている。
このように、抵抗が大きくなる動作が重ならないようにします。特に、足を引きつける動作は大きな抵抗を生むため、上半身が最も抵抗の少ない状態(ストリームライン)になってから行うのがベストです。
重心移動を利用して加速する

上級者が実践しているテクニックの一つに「重心移動」があります。水泳は体重移動を利用することで、筋力以上のパワーを生み出すことができます。平泳ぎでは、体が上下に動く「うねり」を利用して、重心を前へ前へと投げ出すようにして泳ぎます。
ここまで紹介した「抵抗削減」「キック」「プル」「タイミング」が整ったら、最後にこの重心移動を意識してみましょう。
リカバリー時に体重を前へ乗せる
呼吸のために頭と体を持ち上げた後、その位置エネルギーを利用して前に倒れ込むようにします。リカバリーの手を前に突き出す勢いを使って、体重を胸や脇の下あたりに乗せていく感覚です。
スキーのジャンプ選手が空中で体を前傾させるように、水中で「前のめり」になることで、重心が前方に移動し、体がスーッと前に滑っていきます。「水に乗る」感覚がつかめると、少ない力で大きく進むようになります。
うねり(ウェーブ)を適度に取り入れる
バタフライのような大きなうねりは必要ありませんが、平泳ぎでも小さなうねりは有効です。呼吸で上がった上半身が水に入っていくとき、頭→胸→腰の順で波をくぐるように重心を移動させます。
このうねりによって腰の位置が高く保たれ、足が水面近くに浮きやすくなります。ただし、潜りすぎると浮き上がるのに時間がかかってしまうため、あくまで「水面近くで浅くうねる」のがポイントです。
腰の位置を高く保つための腹圧
重心移動をスムーズに行うためには、体の軸がしっかりしている必要があります。お腹の力が抜けて腰が反ってしまうと、力が逃げてしまいます。
常に軽く腹筋に力を入れ(腹圧を高め)、腰が高い位置にある状態をキープしましょう。これにより、上半身で生まれた前のめりの勢いが、途切れることなく足先まで伝わり、力強いキックへと繋がります。
平泳ぎ速く泳ぐコツをマスターして自己ベスト更新へ
平泳ぎを速く泳ぐためのコツを解説してきました。平泳ぎは力任せに泳ぐのではなく、いかに水の抵抗を減らし、タイミングよく推進力を生み出すかが勝負の鍵を握ります。
最後に、今回お伝えしたポイントを振り返ってみましょう。
- 抵抗を減らす:ストリームラインを徹底し、フラットな姿勢を保つ。
- キックの技術:膝を広げすぎず、足首を背屈させ、ウィップキックで鋭く蹴る。
- プルの効率化:コンパクトに胸の前でかき、素早くリカバリーする。
- タイミング:手が伸びてからキック。グライド(伸び)の時間を大切にする。
- 重心移動:リカバリーの勢いを使って体重を前に乗せ、水に乗る感覚を掴む。
これら全てを一度に意識するのは大変です。まずは「今日はキックの足首だけ意識しよう」「明日はストリームラインを丁寧にやろう」というように、練習ごとにテーマを決めて取り組むのがおすすめです。
一つひとつの動作が改善されるたびに、体が水の中をスムーズに進む感覚が変わってくるはずです。焦らずじっくりとフォームを見直し、平泳ぎのスピードアップを目指して練習を楽しんでください。

