「バタフライ」と聞くと、豪快でかっこいいけれど、一番難しくて疲れる泳ぎ方だと思っていませんか?多くの初心者が、必死に腕を回そうとして体力が尽きてしまったり、体が沈んで前に進まなかったりという壁にぶつかります。しかし、実はバタフライこそ「リズム」さえ掴めれば、驚くほど楽に、そして優雅に泳げる種目なのです。
無理な力で水をかき分けるのではなく、水の流れに体を乗せる感覚。それがわかると、まるでイルカのようにスムーズに進むことができます。この記事では、初心者の方でも実践しやすい「バタフライの泳ぎ方のコツ」を、身体の使い方から呼吸のタイミングまで、わかりやすく丁寧に解説していきます。水泳の楽しさが広がる新しい扉を、一緒に開いていきましょう。
バタフライの泳ぎ方のコツは「うねり」にあり

バタフライが他の泳ぎ方と決定的に違うのは、体の中心から生まれる独特な動きにあります。クロールや背泳ぎが手足の左右の動きで進むのに対し、バタフライは体全体を使ったウェーブ動作が基本となります。この動きをマスターすることが、楽に泳ぐための最大の近道です。
「うねり」とは何か?イルカの動きをイメージしよう
「うねり」とは、頭の先から足の指先まで、波が伝わっていくような体の動きのことを指します。水泳用語では「アンジュレーション」とも呼ばれます。プールの水面で、イルカがジャンプして再び潜っていく姿を想像してみてください。イルカは全身をしなやかに波打たせて進んでいきますよね。
初心者の多くは、手と足を別々に動かそうとしてしまいがちですが、バタフライでは「上半身の動きが下半身に伝わる」という連動性が非常に重要です。このうねりがスムーズに行えると、腕の力に頼らなくても、体の重み移動だけでスイスイと前に進む推進力が生まれます。
一番大切なのは「胸」で水を押す感覚
うねりを作ろうとして、腰を無理やり上下に振ってしまう人がいますが、これは腰痛の原因にもなりかねない間違ったフォームです。正しい起点となるのは「胸」です。
水に入っていく瞬間、胸をぐっと水底の方へ押し込むような動作を意識してみてください。これを「重心移動」と言います。胸が下がると、シーソーのように自然とお尻や足が浮き上がってきます。この自然な浮き沈みのリズムを利用することで、力を使わずにきれいなうねりが生まれるのです。
ポイント:
腰を振るのではなく、胸を張って水に乗せるイメージを持ちましょう。「胸郭(きょうかく)」を柔らかく使うことが、しなやかなバタフライへの第一歩です。
目線を変えるだけで姿勢が安定する
泳いでいる最中の「目線」も、うねりをコントロールする重要な要素です。初心者は呼吸をしようと焦るあまり、常に前を向いてしまいがちですが、これでは頭の位置が高くなり、下半身が沈んでしまいます。
水に潜る(エントリーする)時は、プールの底を見るように頭を下げましょう。頭は体重の約10%もの重さがあるため、頭をしっかりと水に入れることで、その重みを利用してスムーズに重心を前へ移動させることができます。顔を上げるのは呼吸の瞬間だけにし、それ以外は首の力を抜いて視線を下に落とすことが、フラットな姿勢を保つ秘訣です。
うねりのリズムが乱れる原因と対策
「うねり」を意識しすぎると、逆に動きが大きくなりすぎて失速することがあります。深く潜りすぎると、水面に上がってくるまでに時間がかかり、次の動作が遅れてしまうのです。
理想的なうねりは、水面近くの浅い位置で行うものです。深く潜るのではなく、水面という薄い膜を滑るように進むイメージを持ってください。「トン、トン」という軽快なリズムを心の中で刻みながら、浅く長く波打つように体をコントロールしてみましょう。
キックのタイミングをマスターする

バタフライの手足の動きがバラバラになってしまう最大の理由は、キックのタイミングにあります。バタフライでは、腕を1回回す間に、キックを2回打つのが基本のリズムです。それぞれのキックには明確な役割とタイミングがあります。
第1キック:体を進ませるためのエンジン
1回目のキック、通称「第1キック」は、腕が前の水に入水(エントリー)する瞬間に打ちます。このキックの最大の目的は、体を前へ滑らせる推進力を生むことです。
腕を前に伸ばして水に入ると同時に、「ドン!」と強くキックを打ち込みます。このタイミングが合うと、腰が高い位置にキープされ、体がグンと前に伸びる感覚(グライド)を得ることができます。初心者はまず、この第1キックを力強く打つことに集中しましょう。ここでしっかりとスピードに乗ることが、泳ぎ全体の安定感につながります。
第2キック:浮上するためのバランス調整
2回目のキック、「第2キック」は、腕で水をかき終わり、手が水から出る(プッシュ・リカバリー)瞬間に打ちます。このキックの役割は、推進力というよりも、上半身を水面に持ち上げるためのサポートです。
水をかき切ったタイミングで軽くキックを打つことで、その反動を利用してスムーズに腕を前に戻すことができます。第1キックほど強く打つ必要はありません。「トン」と軽く水を叩く程度の意識で十分です。この第2キックがおろそかになると、腕を戻す時に体が沈んでしまい、リカバリーが重たく感じてしまいます。
タイミングの覚え方
「トン(入水)、トン(フィニッシュ)」というリズムを口ずさみながら練習すると、2回のキックのタイミングを体が覚えやすくなります。
膝(ひざ)を曲げすぎないことが鉄則
キックを打つ際によくある間違いが、膝を大きく曲げてしまうことです。膝を90度近くまで曲げてしまうと、太ももの前面が大きな抵抗となり、ブレーキをかけてしまいます。
キックは膝から下だけで打つのではなく、お腹や太ももの付け根から脚全体をしならせるように動かします。膝の曲がりは自然に任せ、足の甲で水を捉えて後ろへ押し出すイメージを持ちましょう。ムチのようにしなやかに動かすことで、少ない力で大きな推進力を得ることができます。
足首の柔らかさが推進力を変える
バタフライのキック(ドルフィンキック)において、足首の柔軟性は非常に重要です。足首が硬いと、足の甲で水を後ろに押すことができず、水を押さえつけるだけになってしまいます。
バレエダンサーのように足先をピンと伸ばし、足の裏が天井を向くような形を作るのが理想です。日頃から足首のストレッチを行い、可動域を広げておくことが、キック力向上のカギとなります。水の中では足首の力を抜き、水圧で自然に足先がしなる感覚を大切にしてください。
両足を揃える意識を忘れない
クロールや背泳ぎとは異なり、バタフライのキックは両足を常に揃えて動かします。疲れてくると無意識のうちに足が開いてしまったり、左右でタイミングがずれてしまったりすることがあります。
足が開いてしまうと、そこから水が逃げてしまい、せっかくの推進力が半減してしまいます。両足の親指が軽く触れ合う程度の間隔を保ち、一本の太い尾ひれになったような気持ちでキックを打ちましょう。内もも(内転筋)を軽く締める意識を持つと、足がバラけるのを防ぐことができます。
楽に腕を回すストロークの技術

バタフライの腕の動き(ストローク)は、一見すると豪快に水を回しているように見えますが、実は繊細なコントロールが必要です。肩や腕の力だけで回そうとするとすぐに疲れてしまいます。ここでは、省エネで泳ぐための腕の使い方を解説します。
キーホール(鍵穴)を描くプル動作
水をかく時、腕をまっすぐ後ろに引くだけだと思っていませんか?効率よく水を捉えるために、初心者は「キーホール(鍵穴)」の形をイメージすることをおすすめします。
入水時は肩幅より少し広めに手を入れ、そこから一度外側に水を押さえ、次に体の内側へかき込み、最後は太ももの横へ押し出します。この軌道が鍵穴のような形になることからこう呼ばれます。ただし、最近の競泳選手はより直線的なストロークが主流ですが、初心者のうちはこの曲線的な動きを意識したほうが、水を感じやすく、リズムを作りやすいでしょう。
キャッチ:水を逃がさない「ハイエルボー」
入水した後、すぐに水をかき始めるのではなく、まずは手のひらと前腕で水を「掴む」動作が必要です。これを「キャッチ」と呼びます。
この時、肘(ひじ)を高く保ったまま手首を少し下げる「ハイエルボー」という形を作ることが重要です。肘が下がってしまうと、水を撫でるだけになってしまい、前に進む力が生まれません。ボールを上から抱え込むようなイメージで、肘を固定して水を捉えましょう。
リカバリー:水面ギリギリをリラックスして戻す
水をかき終わった後、腕を前方に戻す動作を「リカバリー」と言います。ここがバタフライで最も苦しい局面ですが、同時に休息の瞬間でもあります。
腕を高く上げすぎると、無駄なエネルギーを使うだけでなく、体が沈む原因になります。小指を上、あるいは親指を下に向けるような意識で、手のひらを外側に返しつつ、水面ギリギリを低い軌道で戻しましょう。腕の力を抜き、遠心力を使って「放り投げる」ように前に戻すのがコツです。
チェックポイント:
リカバリー中に水しぶきが上がりすぎていませんか?静かに、かつ素早く戻すことが、次のストロークへのスムーズな移行につながります。
疲れない息継ぎのポイント

「息継ぎをすると沈んでしまう」「苦しくて続かない」というのは、バタフライ初心者の最大の悩みと言っても過言ではありません。息継ぎを楽にするためには、タイミングと高さのコントロールが不可欠です。
あごを水面に乗せるだけの「低い呼吸」
息を吸おうとして、頭を高く持ち上げすぎてはいけません。頭が高く上がれば上がるほど、シーソーの原理で下半身は深く沈んでしまいます。これでは次の動作に移るのに大きな力が必要になります。
理想的な息継ぎは、「あごが水面を擦るくらい低い位置」で行うことです。口が水面からギリギリ出る高さで十分です。目線は正面ではなく、斜め前方の水面を見るようにしましょう。首を長く保ち、水面ギリギリで素早く空気を吸い込む技術を身につけることが、沈まない泳ぎへの近道です。
呼吸のタイミングは「プルの後半」
息継ぎをするタイミングが遅れると、腕がリカバリーに入ってしまい、顔を上げる時間がなくなってしまいます。逆に早すぎると、推進力が生まれる前にブレーキをかけてしまいます。
ベストなタイミングは、腕でお腹の下あたりまで水をかき込んだ時(プルの後半)です。腕が水を押し切るのと同時に顔が上がり、腕が水から抜ける時にはすでに息を吸い終わっているのが理想です。「パッ」と短く吸って、すぐに頭を水に戻す。この一連の動作をコンパクトに行うことが重要です。
水中での「吐く」動作を忘れずに
息継ぎが苦しい原因の一つに、水中で息を吐ききれていないことがあります。肺に空気が残った状態で新しい空気を吸おうとしても、十分な酸素を取り込むことはできません。
顔が水中にある間に、鼻からしっかりと息を吐き出しておきましょう。特に、顔を上げる直前に強めに「んっ!」と吐き出すことで、顔が出た瞬間に反射的に「パッ」と息を吸うことができます。呼吸のリズムを作るためにも、水中での呼気を意識してみてください。
初心者におすすめの練習メニュー

いきなり完成形のバタフライ(コンビネーション)を泳ごうとすると、動きが複雑すぎて混乱してしまいます。まずは要素を分解して、一つひとつの動きを体に染み込ませる練習(ドリル)から始めましょう。
板キックでうねりの感覚を掴む
まずはビート板を使って、ドルフィンキックだけの練習を行います。ビート板の端を持ち、顔を上げたままでも良いですし、顔を水につけても構いません。
ポイントは、胸の動きを意識することです。ビート板を少し沈めるように胸を押し込み、その反動でお尻が上がり、最後に足先で水を蹴る。この波の伝わり方を確認してください。足先だけでパタパタと蹴るのではなく、全身を使って進む感覚を養います。
片手バタフライ(ワンアーム・バタフライ)
両手を同時に回すのは体力を消耗しますし、タイミングを取るのも難しいです。そこで、片手ずつ回す練習を行います。使わない方の手は前方に伸ばしたままにしておきます。
呼吸は、腕を回す側の横向きで行います(クロールの息継ぎのような形)。これにより、正面で息継ぎをするよりも楽に呼吸ができ、ストロークとキックのタイミング(第1キックで入水、第2キックでフィニッシュ)を集中して練習することができます。右腕で25m、左腕で25mといったように、左右均等に行いましょう。
3回キック・1回ストローク
通常のリズム(2回キック・1回ストローク)だと忙しすぎると感じる場合は、キックの回数を増やしてみましょう。「キック・キック・キック・ストローク」のリズムで泳ぎます。
1回目と2回目のキックは、腕を前に伸ばしたまま行い、しっかりとうねりと伸びを感じます。そして3回目のキックに合わせて腕を回します。これにより、焦らずに正しい姿勢を作る時間(グライドの時間)を確保でき、落ち着いて動作を確認することができます。慣れてきたら徐々に通常の2回キックのリズムに戻していきましょう。
まとめ:バタフライの泳ぎ方のコツを振り返って
バタフライの泳ぎ方のコツについて、うねり、キック、ストローク、息継ぎと順を追って解説してきました。最後に改めて重要なポイントを振り返ってみましょう。
・「うねり」は胸からスタートさせる
腰を振るのではなく、胸を水に乗せる重心移動を意識しましょう。
・キックはタイミングが命
第1キックは入水時、第2キックはフィニッシュ時。「トン、トン」のリズムを刻みましょう。
・息継ぎは低く、コンパクトに
あごが水面を擦る程度の高さで、目線は斜め前。高く上がりすぎないことが沈まない秘訣です。
・リラックスして水を味方につける
力任せに泳ぐのではなく、水の浮力と流れを利用して、楽に進む感覚を見つけましょう。
バタフライは、一度コツを掴んでしまえば、全身を使って泳ぐとても気持ちの良い泳法です。最初から完璧を目指す必要はありません。まずは「うねり」の感覚を楽しむことから始めて、一つひとつの動きを丁寧に練習してみてください。ある日突然、体がフワッと水に浮く瞬間が訪れるはずです。
焦らず、自分のペースで練習を続けて、優雅に舞うようなバタフライを身につけてくださいね。プールで泳ぐ時間が、これまで以上に楽しくなることを応援しています。



