テレビの水泳大会で選手たちがカッコよく飛び込む姿を見て、「自分もあんなふうにスタートしてみたい!」「子どもに飛び込みを教えてほしい」と思ったことはありませんか?
水泳の「飛び込み(スタート)」は、競泳においてタイムを縮めるための重要な技術ですが、同時に恐怖心や安全面での不安もつきものです。
「スイミングスクールではいつ教えてくれるの?」「自分で練習しても大丈夫?」といった疑問を持つ方も多いでしょう。
この記事では、現在のスイミングスクールにおける飛び込み指導の事情から、初心者でも安全に上達できる基本のやり方、そして絶対に守るべき安全ルールまでをわかりやすく解説します。
スイミングスクールでの飛び込み指導の現状と重要性

昔のスイミングスクールでは、ある程度泳げるようになると当たり前のように飛び込みの練習をしていました。しかし、近年はその指導体制が大きく変わってきています。まずは、現在のスクール事情と飛び込みという技術の立ち位置について理解しておきましょう。
学校やスクールで指導が減っている理由
近年、小中学校の体育の授業では、安全上の理由から飛び込みの指導が原則禁止されています。これは、過去に浅いプールでの飛び込みによる首の怪我などの重大な事故が相次いだためです。
この流れを受けて、民間のスイミングスクールでも一般コース(週1回などの通常の習い事コース)では、飛び込みをカリキュラムから外していることが多くなりました。
特に初心者や中級者のクラスでは、安全を最優先し、プールサイドに座ってから入水するか、あるいは水中から壁を蹴ってスタートする「水中スタート」が基本となっています。
飛び込みを習えるのはどのクラス?
では、スイミングスクールでは全く飛び込みを習えないのかというと、そうではありません。
多くの場合、「選手コース」や「育成コース」といった上級クラスに入ると、飛び込みの指導が始まります。
これらのコースでは、競泳大会への出場を目的としているため、飛び込みスタートの技術が必須となるからです。
また、スクールによっては上級者向けの「飛び込み特別レッスン」や「スタート練習会」を不定期で開催していることもあります。もし飛び込みを習いたい場合は、所属しているスクールのコーチに「どのレベルになれば教えてもらえるか」を確認してみると良いでしょう。
なぜ飛び込み(スタート)の技術が必要なのか
競泳において、飛び込みは単なる「カッコいい入水」ではありません。
スタート台から勢いよく飛び出すことで、壁を蹴る水中スタートよりも初速が圧倒的に速くなり、それだけで数メートルの差がつきます。
また、空中から水中に滑らかに入り、抵抗の少ない姿勢(ストリームライン)で進む技術は、その後の泳ぎのリズムを作る上でも非常に重要です。
タイムを縮めたい、大会に出てみたいという目標がある人にとって、飛び込みは避けては通れない大切なスキルなのです。
飛び込みが怖い!恐怖心を克服して上達するステップ

「高いところから水に落ちるのが怖い」「お腹を打ちそうで不安」というのは、誰もが抱く最初の感情です。いきなり立って飛び込むのではなく、低い位置から段階を踏んで練習することで、恐怖心を和らげながら正しいフォームを身につけることができます。
ステップ1:プールサイドに座って入水
まずは、最も低い位置から「頭から水に入る」感覚を掴みます。
プールサイドに体育座りのように座り、両手を耳の後ろで組んで頭を挟みます(ストリームラインを作ります)。
そのままお辞儀をするように、指先から水面に向かって倒れ込んでいきます。
この時、自分のへそを覗き込むように背中を丸めるのがポイントです。
「指先→頭→背中」の順でスムーズに水に入る感覚がわかれば、第一段階はクリアです。
ステップ2:片膝立ちで入水
次に、重心を少し高くします。プールサイドの縁に片足の指をかけ、もう片方の膝を立てた状態(または片膝をついた状態)になります。
座った時と同じように、両手でしっかりと頭を挟んでストリームラインを作ります。
そこから、前のめりになりながら倒れ込みます。
高さが出た分、少し怖さを感じるかもしれませんが、目線を足元(自分の膝やお腹)に向けておけば、顔面を打つことはありません。コロンと水の中に転がり落ちるイメージで行いましょう。
ステップ3:立位からの飛び込み(グラブスタート)
いよいよ立って行いますが、最初は飛び込み台ではなく、フラットなプールサイドから始めます。
足の指をプールの縁にしっかりとかけ(ここが重要です!)、膝を軽く曲げます。
両手で頭を挟んだ姿勢を作り、お辞儀をするように水面へ向かいます。
これまでの「倒れ込む」動きに加えて、最後に足の指で地面を軽く蹴る動作を加えます。
前に飛ぼうとするのではなく、「足元の穴に潜り込む」ように入水するのがコツです。
ゴーグルが外れる恐怖への対策
初心者が恐怖を感じる原因の一つに、「飛び込んだ瞬間にゴーグルが外れて痛い」というものがあります。
これは、入水時におでこや顔で水を受けてしまっていることが原因です。
対策としては、必ず顎(あご)を引いて、頭を腕の間にしっかり挟み込むことです。
また、ゴーグルのゴムをいつもより少しきつく締め、キャップの下にゴムを通すことで、水の抵抗で外れにくくなります。
「顎を引く」という基本さえ守れば、ゴーグルが外れることはほとんどなくなります。
綺麗なフォームで飛び込むための具体的なコツ

恐怖心がなくなってきたら、次は抵抗の少ない綺麗なフォームを目指しましょう。良い飛び込みは水しぶきが少なく、入水後の伸びが違います。ここでは意識すべき3つのポイントを紹介します。
「ストリームライン」を崩さない
飛び込みにおいて最も重要なのが「ストリームライン(流線型)」の姿勢です。
両手を重ね、二の腕で耳を挟むようにして頭をロックします。
この時、肩に力が入りすぎて首がすくんでしまわないように注意しましょう。
入水した瞬間、手先から足先までが一本の針のようになるイメージです。
この姿勢が崩れて膝が曲がったり、足が開いたりすると、大きな水しぶきが上がり、ブレーキがかかってしまいます。
一点入水(ワンホールエントリー)を目指す
理想的な飛び込みは、指先が入ったその同じ場所に、頭、腰、足が吸い込まれていく「一点入水」です。
フラフープの輪をくぐるようなイメージを持つと分かりやすいでしょう。
これができると、入水時の音が「ドボン!」ではなく「シュッ」という音に変わります。
体が一直線になっていないと、足が水面を叩いてしまったり、腰が落ちてしまったりします。
空中で体が弓なりにしなり、指先から順番に水に入っていく軌道を意識してください。
視線とお尻の位置が鍵
構えの段階では、視線は足元ではなく、少し前方の水面を見ますが、飛び出す瞬間には顎を引いて自分の膝やおへそを見るようにします。
頭を腕の中に入れ込む動作が入水をスムーズにします。
また、構えた時にお尻を高く上げることで、位置エネルギーを利用して勢いよく飛び出すことができます。
「高い位置にあるお尻が、指先が開けた穴を通って水に入る」という体の動きを連動させることが、綺麗なフォームへの近道です。
飛び込みでよくある失敗と改善ポイント

練習を始めたばかりの頃は、誰でも失敗するものです。しかし、なぜ失敗したのかを知らなければ上達しません。ここではよくある失敗例とその解決策を解説します。
一番痛い「腹打ち」の原因と対策
飛び込みで最も辛いのが、お腹から水面に落ちる「腹打ち(はらうち)」です。皮膚が真っ赤になり、痛くて練習が嫌になってしまうこともあります。
原因は主に2つ。「顔が前を向いたまま入水している」か「上に飛び上がりすぎている」ことです。
対策として、飛び出す瞬間には必ず頭を腕の間に入れ、目線を後ろ(足元)に向けることを徹底してください。
また、遠くへ飛ぼうとしてジャンプするのではなく、滑り台を滑り落ちるように斜め下へ体を送り出す意識を持ちましょう。
深すぎてプールの底にぶつかりそうになる
逆に、入水角度が鋭角すぎて、プールの底に一直線に向かってしまう失敗もあります。これは非常に危険です。
原因は、足が上がるタイミングが早すぎるか、手先が真下を向きすぎていることです。
改善するには、入水直後に手首や指先を少し上(水面方向)に向ける「すくい上げる」動作(アップキックのようなイメージ)を意識します。
水に入ったらすぐに浮上する姿勢をとることで、深く潜りすぎるのを防ぐことができます。
足が跳ね上がって水面を叩いてしまう
入水時に「バシャーン!」と足で水面を叩いてしまうケースです。これは「エビ飛び」とも呼ばれ、空中で腰が曲がらず、体が反りすぎている場合によく起こります。
または、飛び出す瞬間に膝が曲がったままになっていることも原因です。
これを直すには、壁を蹴る瞬間に膝をしっかり伸ばし切ることと、空中で腹筋に力を入れて体を一直線に保つことが大切です。
足先まで神経を行き渡らせ、つま先をピンと伸ばす意識を持ちましょう。
スイミングスクール以外で練習する場合の絶対的な注意点

「もっと練習したいから市民プールに行こう」と考える方もいるかもしれませんが、これには大きなリスクと制限があります。事故を防ぐために、スクール以外での練習には細心の注意が必要です。
水深の確認は命に関わる最優先事項
飛び込み事故で最も多いのが、プールの底に頭を強打することによる頸髄損傷です。
日本水泳連盟のガイドラインでも、スタート台を設置して飛び込むには水深1.35m以上が必要とされています。
一般的な市民プールや学校のプールは水深1.1m〜1.2m程度のことが多く、大人が勢いよく飛び込むと底に激突する危険性が非常に高いです。
浅いプールでは絶対に飛び込みを行わないでください。
「飛び込み禁止」の看板と監視員の指示
ほとんどの公共プールやレジャープールには「飛び込み禁止」の看板があります。
これはスタート台からの飛び込みだけでなく、プールサイドからの飛び込みも含まれます。
たとえ人が少なくて空いている時間帯であっても、ルールは絶対です。
もし飛び込みが許可されている専用レーンや時間帯がある場合は、必ず監視員の指示に従い、一方通行で泳ぐなどのルールを守って練習してください。
必ず指導者や経験者の立ち会いのもとで
もし飛び込みが可能な深いプール(水深1.35m以上)が見つかったとしても、初心者が一人で練習するのは避けるべきです。
フォームが安定しないうちは、入水角度を誤って怪我をするリスクがあります。
できるだけ水泳指導の資格を持つコーチや、熟練した経験者にフォームを見てもらいながら練習しましょう。
「自分は大丈夫」という過信が一番の事故のもとです。
上級者向け:より速く飛び込むためのテクニック

最後に、選手コースを目指す人や、さらにタイムを縮めたい上級者向けに、競技レベルのテクニックを紹介します。ここからは「綺麗に飛び込む」だけでなく「速く反応し、遠くへ飛ぶ」ことが求められます。
クラウチングスタート(トラックスタート)の習得
現在の競泳界で主流となっているのが、足を前後に開いて構える「クラウチングスタート(トラックスタート)」です。
陸上競技のスタートのように、後ろ足でキックプレートを蹴ることで、前方への推進力を強く得ることができます。
前足の指をしっかり縁にかけ、後ろ足はお尻の高さに合わせてセットします。
体重を後ろ足にかけすぎず、前足にも適度に荷重し、ピストルの音と同時に後ろ足で強く蹴り出す感覚を養いましょう。
リアクションタイムを縮めるコツ
スタートの合図が鳴ってから体が動くまでの時間(リアクションタイム)を短くするには、集中力と「音を聞く」のではなく「音に反応する」訓練が必要です。
「よーい(Take your marks)」の声で静止した時、すでに体に適度な緊張感を持たせておきます(プレテンション)。
筋肉が完全に緩んだ状態からでは、瞬時に力を発揮できません。
台を掴む手に少し力を入れ、いつでも弾け飛べるバネのような状態を作って合図を待ちましょう。
入水角度とドルフィンキックへの移行
速いスタートは、入水後のスピード維持もセットで考えます。
入水角度が深すぎれば浮き上がりに時間がかかり、浅すぎれば水の抵抗を正面から受けてしまいます。
理想的な角度で入水した直後、勢いを殺さずに「バサロキック(背泳ぎ)」や「ドルフィンキック」へスムーズに移行することが重要です。
入水した瞬間のスピードが一番速いので、そのスピードをキックで維持しながら、競技規則で定められた15mラインのギリギリまで潜水(アンダーウォーター)を活用する戦略も有効です。
バックプレート(羽根)の活用
最近の公式プールには、スタート台の後ろに「バックプレート(足掛け)」が設置されています。
これを最大限に活用するには、後ろ足の位置調整が不可欠です。
自分の足の長さや蹴りやすい位置に合わせて、プレートを前後に調整します。
蹴り出す際は、後ろ足でプレートを水平に押すイメージを持つと、体が浮き上がらずに鋭く前方へ飛び出すことができます。
日頃から自分に合ったプレートの位置(「前から3番目」など)を把握しておくことも、選手としての嗜みです。
まとめ
スイミングスクールでの飛び込みは、かつてほど一般的ではなくなりましたが、選手を目指す上では欠かせない技術です。
現在のスクール事情としては、一般クラスでは安全面から指導を行わないことが多いものの、選手コースや上級クラスではしっかりと教わることができます。
初心者が飛び込みを習得するためのポイントは以下の通りです。
・段階を踏む:いきなり立たず、座った状態や膝立ちから練習して恐怖心をなくす。
・基本姿勢:ストリームライン(流線型)を作り、顎を引いて入水する。
・安全確保:水深が浅い場所では絶対に行わず、必ず指導者のもとで練習する。
・フォーム意識:遠くへ飛ぶより、一点入水で抵抗を減らすことを優先する。
飛び込みは、一瞬で決まる動作の中に多くの技術が詰まっています。
焦らず安全第一で練習を重ねれば、必ず綺麗に、そしてカッコよく飛び込めるようになります。
まずはスクールのコーチに相談し、安全な環境でチャレンジしてみてください。


