「あと少しでベストタイムが出そうなのに、壁が破れない」「後半になるとどうしても失速してしまう」
50mクロールに取り組む中で、このような悩みを抱えているスイマーは多いのではないでしょうか。短距離種目である50mは、単に腕を速く回せば良いというものではありません。水の抵抗を極限まで減らし、効率よく推進力を生み出すテクニックと、最後までスピードを維持する戦略が必要です。
この記事では、50mクロールを速く泳ぐための具体的なコツから、フォームの改善点、そして陸上でできるトレーニング方法までを詳しく解説します。今日からの練習に取り入れて、目標タイムの更新を目指しましょう。
50mクロールを速く泳ぐコツの基本戦略

50mという距離は、競泳種目の中で最も短く、一瞬の判断やミスがタイムに大きく影響します。まずは、がむしゃらに泳ぐのではなく、50mを泳ぎ切るための全体像と戦略を理解することがタイムアップへの近道です。
短距離特有の「全力」の考え方
「50mは短いから、最初から最後まで100%の力で泳げばいい」と考えていませんか?確かに全力で泳ぐことは必要ですが、力みすぎて空回りしてしまっては意味がありません。
水泳において速さとは、「パワー(推進力)」引く「抵抗」で決まります。力任せに手足を動かして水しぶきを上げても、それが水の抵抗になっていればスピードは上がりません。
50mにおける「全力」とは、冷静にコントロールされた最大の出力のことです。脳は冷静にフォームを意識しつつ、体はダイナミックに動かす。このバランス感覚を持つことが、50mを速く泳ぐための第一歩です。
前半と後半のペース配分
50mであっても、前半の25mと後半の25mでは泳ぎの質が変わります。
トップ選手であっても、スタート直後のスピードをゴールまで維持することは物理的に不可能です。そのため、理想的な展開は以下のようになります。
理想のレース展開イメージ
・前半(0〜25m):飛び込みの勢いを利用し、トップスピードに乗る区間。無理にピッチを上げすぎず、大きな泳ぎで「貯金」を作る意識。
・後半(25〜50m):乳酸が溜まり体が動かなくなる区間。ピッチ(回転数)を落とさないように粘り、フォームが崩れないように耐える意識。
多くの人は後半にバテて失速します。後半の失速を最小限に抑えるためには、前半でいかに「楽にスピードを出すか」が鍵となります。
スタートとターンの重要性
泳いでいる時間以外の部分、つまり「スタート」と「ターン」は、実は最もスピードが出る瞬間です。
水中での泳ぐスピードは、世界トップ選手でも秒速2メートル強ですが、スタートの飛び出しや壁を蹴った直後は秒速3メートル以上のスピードが出ます。
つまり、泳いでいない時間をいかに速く、長く保つかが、トータルのタイムを縮めるための大きな要素なのです。
「泳ぎの練習」ばかりに目を向けがちですが、スタートの反応速度や、ターン後の壁の蹴り出し(ストリームライン)を改善するだけで、泳力が変わらなくても0.5秒〜1秒タイムが縮まることは珍しくありません。
スピードを生み出すストローク動作のポイント

クロールの推進力の大部分は、腕の動作(ストローク)によって生み出されます。しかし、単に回転を速くすれば良いわけではありません。ここでは、50mのスピードに対応するための、効率的かつ力強いストロークの4つの局面について解説します。
水を逃さないエントリーとキャッチ
手が水に入水(エントリー)してから、水を捉える(キャッチ)までの動作は、ストロークの中で最も繊細なコントロールが求められる部分です。
短距離では、遠くへ手を伸ばそうとしすぎて、入水直後に肘が落ちてしまう「エルボー・ドロップ」になりがちです。肘が落ちると水を押す力が逃げてしまい、推進力が生まれません。
ポイントは、入水したらすぐに手のひらを後ろに向け、指先よりも肘が高い位置を保つ(ハイエルボー)ことです。
「遠くの水」を掴むのではなく、「入水した位置の水」をすぐに自分の懐に引き込むイメージを持つと、50mに必要な素早いキャッチが可能になります。
強大な推進力を生むプルとプッシュ
キャッチした水を、体の下を通してお尻の方まで押し切る動作が「プル」と「プッシュ」です。ここが実際に体が前に進む動力源となります。
50mを速く泳ぐためには、水を「撫でる」のではなく、重たい水を塊として捉えて後ろへ放り投げる感覚が必要です。
特に重要なのが、太ももの横まで水を押し切る「フィニッシュ」の動作です。疲れてくると、手が最後まで押し切れずに途中で水から出てしまうことがよくあります。
親指が太ももに触れるくらいまでしっかりと水を押し切ることで、ひとかきごとの進む距離(ストローク長)が伸び、後半の失速を防ぐことができます。
回転数を上げるリカバリーの意識
水をかき終えた腕を前方へ戻す動作を「リカバリー」と呼びます。
長距離では肘を高く上げる優雅なリカバリーが推奨されますが、50mの短距離では、より直線的で素早いリカバリーが求められます。
肘を高く上げすぎると、その分時間がかかり、テンポが上がりません。水面ギリギリを低い弾道で、指先が最短距離を通って前方へ戻るように意識しましょう。
また、リカバリー中は腕の力を抜くことが重要です。ここで力が入っていると、肩がすぐに疲労してしまい、レース後半に腕が上がらなくなってしまいます。「かく時は力強く、戻す時は脱力」のメリハリが、高速ピッチを持続させる秘訣です。
抵抗を減らすストリームラインの維持
どんなに力強いストロークができても、体幹がブレていては水の抵抗が増え、ブレーキがかかった状態で泳ぐことになります。
特に50mでピッチを上げると、左右に体が蛇行したり、下半身が沈んだりしやすくなります。これを防ぐのが、一直線の姿勢「ストリームライン」です。
泳いでいる間、常に頭のてっぺんから足先までが一本の串で刺されているような軸をイメージしてください。
腹筋と背筋に軽く力を入れ、お腹を凹ませるようにしてフラットな姿勢を保ちます。この姿勢が維持できれば、ストロークのパワーが逃げることなく推進力に変わり、少ないエネルギーで速く進むことができるようになります。
推進力を止めないキックと息継ぎのテクニック

腕の動きに注目しがちですが、50mのタイムを決定づける裏の主役は「キック」と「息継ぎ」です。特に短距離において、これらは推進力をアシストするだけでなく、リズムを作る重要な役割を果たします。
6ビートキックのリズムと打ち方
50mクロールでは、左右の腕が1回ずつ回る間に6回キックを打つ「6ビートキック」が基本です。
この高速キックを続けるためには、膝を曲げすぎないことが重要です。膝を大きく曲げて水を叩くようなキックは、抵抗になるばかりか、すぐに脚が疲れてしまいます。
キックは太ももの付け根(股関節)から動かし、足先は鞭(ムチ)のようにしならせるのがコツです。
また、水を下に蹴る「ダウンキック」だけでなく、蹴った足を水面に戻す「アップキック」も意識しましょう。アップキックを意識することで、下半身が浮き上がり、フラットな姿勢を保ちやすくなります。
タイムロスを防ぐ息継ぎのタイミング
息継ぎは生命維持に不可欠ですが、競泳、特に50mにおいては「最大の抵抗を生む動作」でもあります。
顔を上げすぎたり、タイミングが遅れたりすると、頭の位置が上がって腰が沈み、ブレーキがかかります。
速く泳ぐための息継ぎのポイントは以下の通りです。
苦しくても我慢?呼吸制限の考え方
「50mの間、何回息継ぎをするか」は、タイムに直結する戦略の一つです。
呼吸動作はリズムを崩す原因になるため、トップ選手の中には50mを「ノーブレス(息継ぎなし)」で泳ぎ切る選手もいます。しかし、これは無酸素運動の能力が非常に高い場合の話です。
一般のスイマーにおすすめなのは、「苦しくなる前に吸うが、回数は最小限にする」という戦略です。
例えば、「スタートから15mは我慢し、中盤で2〜3回呼吸、ラスト10mは呼吸なしでスパート」といったように、あらかじめ呼吸する場所を決めておくのが有効です。
酸欠で体が動かなくなっては元も子もないので、無理な我慢は禁物ですが、無駄な呼吸を減らす意識を持つだけでタイムは確実に縮まります。
0.1秒を削り出すスタートとターンの技術

プールの中を泳いでいる時以外の動作、すなわち「壁周り」の技術は、筋力トレーニングをしなくてもタイムを縮められる可能性が高い部分です。コンマ数秒を争う50mでは、ここでの差が勝敗を分けます。
反応速度と飛び込みの姿勢
スタートの合図(ブザー)が鳴ってから、足が台を離れるまでの時間を「リアクションタイム」と言います。
これを縮めるには、日頃から音に反応して動き出す練習が必要です。
また、飛び込み(ダイブ)では、遠くに飛ぶことよりも「一点に入水すること」を意識してください。
指先、頭、腰、足先が全て同じ穴を通って水に入っていくイメージです。バシャーンと腹打ちをしてしまうと、それだけで大きなブレーキになります。きれいな入水ができれば、その後の水中動作のスピードが格段に上がります。
加速をつなげる水中ドルフィンキック
スタートやターンの直後は、壁を蹴った勢いを利用して「ドルフィンキック」で進みます。これをバサロキック(背泳ぎの場合はバサロ、クロールはドルフィン)と呼びます。
水中は空気中よりも抵抗が大きいですが、波のない水中深くを進むことで、造波抵抗(波を作る抵抗)を受けずに進めるメリットがあります。
コツは、小刻みに速く打つことです。大きく打ちすぎると抵抗になります。
また、浮き上がり(ブレイクアウト)の瞬間が非常に重要です。水面に出る直前にドルフィンキックからバタ足に切り替え、スムーズに最初のストロークに繋げましょう。ここで急に顔を上げて息継ぎをしてしまうと一気に減速するので、「浮き上がり直後の1〜2かきは息継ぎをしない」のが鉄則です。
減速しないクイックターンのコツ
50mプール(長水路)ではターンはありませんが、25mプール(短水路)で泳ぐ場合、ターン動作は必須です。
クイックターンでよくある失敗は、壁に近づきすぎて詰まってしまったり、逆に遠すぎて壁を強く蹴れなかったりすることです。
自分のストローク数を把握し、壁の手前で合わせなくても自然とターン動作に入れるように練習しましょう。
また、回る時には体を小さく丸めることで回転速度が上がります。
最も重要なのは、壁を蹴った後の姿勢です。壁を蹴ったらすぐにストリームラインを取り、けのびの姿勢で数メートル進んでからドルフィンキックを打ち始めます。回った直後にすぐ泳ぎ出そうとせず、壁の反発力を十分に利用してください。
50mのタイムを縮めるための練習メニュー

技術的なポイントを理解したら、それを実践するための練習が必要です。50mに特化した、スピードとパワーを養うためのトレーニングメニューと、プールに行けない日でもできる陸上トレーニングを紹介します。
スピード持久力を鍛えるインターバル
50mを最後までバテずに泳ぎ切るためには、高い強度で泳ぎ続ける「耐乳酸能力」が必要です。
これを鍛えるのがインターバルトレーニングです。
【練習例】25m × 8本(45秒サークル)
25mを全力に近いスピード(例えば15秒〜20秒)で泳ぎ、残りの時間を休憩に充てて、45秒ごとに再スタートします。
本数を重ねて疲れてきても、フォームを崩さずにタイムを維持することが目的です。
サークルタイム(持ち時間)は自分のレベルに合わせて調整してください。重要なのは「ハァハァ」と息が上がる状態で泳ぎ続けることです。
瞬発力を高めるダッシュ練習
トップスピードを上げるための練習です。ここでは距離を短くし、フォームが崩れない範囲でMAXのスピードを出します。
【練習例1】壁キックダッシュ(10秒間)
プールサイドを掴んで、10秒間全力でバタ足をします。水しぶきを細かく、高く上げるイメージで、脚の回転数を極限まで上げます。
【練習例2】12.5m ノーブレスダッシュ
25mプールの真ん中まで、息継ぎなしで全力で泳ぎます。距離が短い分、最初から最後まで120%の力で筋肉を動かす指令を脳から送ります。
このような短い距離のダッシュは、神経系を刺激し、手足を速く動かす回路を作ります。
水泳に必要な筋力を養う陸上トレーニング
プールに入れない時間も、速くなるためのチャンスです。水泳、特に短距離には全身の筋力が必要です。
特別な器具がなくても自宅でできるトレーニングを紹介します。
1. 体幹(プランク)
ストリームラインを維持するために不可欠です。うつ伏せになり、肘とつま先で体を支え、頭から足までを一直線にします。30秒〜1分間キープしましょう。お尻が上がったり下がったりしないように注意します。
2. スクワットジャンプ
スタートやターンの壁を蹴る力を強化します。肩幅に足を開き、深くしゃがんでから全力で真上にジャンプします。着地の衝撃を吸収しつつ、バネのように連続で行うと効果的です。
3. 肩甲骨周りのストレッチ
筋トレと同じくらい重要なのが柔軟性です。特に肩甲骨が柔らかいと、より遠くの水をキャッチでき、大きなストロークが可能になります。タオルを両手で持ち、肘を伸ばしたまま頭の後ろを通すストレッチなどが有効です。
まとめ
50mクロールで自己ベストを更新するためのポイント解説、いかがでしたでしょうか。
短距離種目である50mは、パワーだけでなく、いかに水の抵抗を減らし、効率よく体を前に運ぶかという技術の勝負でもあります。
最後に、今回お伝えした重要なポイントを振り返ります。
- 全力の中にも冷静さを:力みすぎず、コントロールされた最大出力で泳ぐ。
- ストリームラインの維持:常に姿勢をフラットに保ち、抵抗を最小限にする。
- キャッチとプッシュの質:ハイエルボーで水を捉え、太ももまでしっかり押し切る。
- キックと呼吸のリズム:6ビートキックを止めず、呼吸回数は戦略的に減らす。
- 壁周りの改善:スタートとターン後の水中動作で差をつける。
これらの要素を一度にすべて意識するのは難しいかもしれません。まずは「今日は入水の形を意識しよう」「明日はターン後のけのびを丁寧にやろう」というように、練習ごとにテーマを一つ決めて取り組んでみてください。
日々の小さな積み重ねが、コンマ数秒のタイム短縮につながります。あなたの50mクロールが、より速く、より力強いものになることを応援しています!


