平泳ぎの練習をしていて、「足がバラバラになっている」「キックがおかしい」と指摘されたことはありませんか?あるいは、大会で「泳法違反」として失格になってしまい、悔しい思いをした経験があるかもしれません。
その原因、もしかすると「煽り足(あおり足)」と呼ばれる状態かもしれません。この癖は、単にルール違反になるだけでなく、水をうまく捉えられないためスピードが出ない大きな原因にもなります。
この記事では、なぜ煽り足になってしまうのか、その原因と具体的な改善方法を、陸上でできるストレッチからプールでのドリル練習まで、やさしく丁寧に解説していきます。
平泳ぎで「煽り足」と言われる状態とは?

まずは、どのような状態が「煽り足」と呼ばれ、なぜそれが問題なのかを正しく理解しましょう。自分では気づきにくい癖だからこそ、定義を知ることが改善への第一歩です。
左右非対称な動きになっている
平泳ぎのキックは、左右の足が「同時」に、「対称」に動くことが大原則です。しかし、煽り足の状態では、片方の足だけ外側に大きく開いていたり、タイミングがずれていたりします。まるでハサミを動かすように足が交差してしまう動き(シザースキック)もこれに含まれます。人間の体は完全な左右対称ではありませんが、平泳ぎにおいては、極力左右を揃えて動かすことが求められます。この左右差が大きくなると、身体がねじれてしまい、水の抵抗が増えてブレーキがかかってしまいます。
足の裏で水を捉えられていない
正しい平泳ぎのキックは、足首をしっかりと曲げ(背屈)、足の「裏」で水を後ろに押し出します。ところが、煽り足になっている人の多くは、足首が伸びたまま、足の「甲」で水を蹴ってしまっています。これでは水を後ろに押すことができず、水を切るような動きになってしまいます。特に片足だけが足の甲で蹴ってしまっているケースが多く、これが推進力を生まないだけでなく、左右のアンバランスさを生む原因となります。
競技ルールでの失格基準
競泳のルール(世界水泳連盟および日本水泳連盟の規則)において、平泳ぎのキックは非常に厳しく規定されています。
これらに違反すると、レースでは失格となります。「煽り足」はこの中の「左右非対称」や「はさみ蹴り」とみなされる典型的な違反動作です。速く泳ぐ以前に、正式な記録として認めてもらうためにも、このフォームの矯正は必須となります。
なぜ煽り足になってしまうのか?主な原因

「直したいのに直らない」と悩む人は多いですが、原因は意識の問題だけではなく、体の構造や柔軟性にあることも少なくありません。
足首の柔軟性が不足している
平泳ぎのキックで最も重要なのが「足首を曲げる(背屈)」動作です。足の指先をスネの方へぐっと引き寄せる動きですが、足首が硬いとこの形をキープできません。水圧に負けて足首が伸びてしまうと、足の裏ではなく足の甲で水を蹴ることになり、結果として水をとらえられず足が流れてしまいます。特に、普段からつま先立ちの姿勢が多い人や、足首が硬い人は、無意識のうちに足の甲で蹴る「煽り足」になりやすい傾向があります。
股関節の可動域に左右差がある
平泳ぎのキックでは、膝を曲げて引きつけてから、足を外へ回し出す(内旋・外転)動作が必要です。この時、股関節の硬さに左右差があると、柔らかい方の足は正しく開けるのに、硬い方の足は開ききらないという現象が起きます。身体はなんとかバランスを取ろうとして、硬い方の足を不自然な形で蹴り出してしまい、結果として左右非対称な煽り足になってしまいます。
無意識にクロールのキックが混ざる
水泳を始めたばかりの頃、最初に習うのはクロール(バタ足)であることが多いです。バタ足は足の甲で水を蹴り、足を上下に動かします。この動きが身体に染みついていると、平泳ぎの練習を始めた時に、無意識に足が上下に動いたり、足首を伸ばしたりする癖が出てしまうことがあります。頭では「平泳ぎ」と思っていても、苦しくなったりスピードを出そうとしたりした瞬間に、慣れ親しんだバタ足の動きが顔を出してしまうのです。
煽り足を放置するデメリットとリスク

「趣味で泳ぐだけだから失格は関係ない」と思う方もいるかもしれませんが、煽り足には身体的なリスクも潜んでいます。
膝や腰への負担が大きく怪我につながる
水の中では浮力が働くため陸上より負担は少ないと思われがちですが、不自然なフォームでの強いキックは関節に大きなストレスを与えます。特に煽り足は、膝に対してねじれるような力が加わりやすくなります。これを繰り返していると、膝の内側の靭帯(内側側副靭帯)を痛める「平泳ぎ膝(ブレストストローカーズ・ニー)」になるリスクが高まります。また、左右のバランスが崩れたまま泳ぐことで腰痛の原因にもなりかねません。
推進力が得られずタイムが伸びない
水泳はいかに「水を後ろに押して、その反作用で前に進むか」が鍵となります。煽り足の状態では、足の甲で水を切ってしまったり、力が横や斜めに逃げたりしてしまいます。一生懸命足を動かして体力を消耗している割に、全然前に進まないという悲しい状態に陥ります。正しいキックを習得することは、楽に、長く、そして速く泳ぐための最短ルートなのです。
自宅でできる!煽り足改善のためのストレッチ

プールに行く前に、まずは陸上で「正しい形を作れる体」を準備しましょう。お風呂上がりなど、体が温まっている時に行うのがおすすめです。
足首を柔らかくする「正座リフト」
足首が硬くて「足首を曲げる」姿勢が作れない人のためのストレッチです。まず、床の上で正座をします。そのまま両手を後ろにつき、ゆっくりと片方ずつ膝を床から持ち上げます。これにより、足の甲からスネの前側の筋肉が伸ばされます。次に、正座の状態からつま先を立てて、かかとの上にお尻を乗せ、体重をかけて足の裏とアキレス腱を伸ばします。この2つをセットで行うことで、足首の可動域を広げましょう。
股関節の動きを良くする「開脚・内旋」
いわゆる「女の子座り(割り座)」に近い形ですが、無理は禁物です。床に座り、膝を曲げて足を体の外側に置きます。この状態で、お尻が床から浮かないように意識します。これにより、平泳ぎに必要な股関節の「内旋(内側にねじる)」動作がスムーズになります。ただし、膝に痛みを感じる場合はすぐに中止してください。片足ずつ行うことで、負担を減らしながら左右差を確認することもできます。
足の裏の感覚を養うイメージトレーニング
椅子に座った状態、あるいは仰向けに寝転がった状態で、平泳ぎの足の動きを真似してみましょう。特に重要なのは「引きつけた時に足の裏がどこを向いているか」です。引きつけた際、足首をしっかり曲げ、足の裏が進行方向の逆(壁や床)を向いているかを目で見て確認してください。足の指先が外を向き、足首が90度に曲がっている形を「目で見て覚える」ことが、水中での修正に役立ちます。
メモ:
ストレッチは痛気持ちいい範囲で行いましょう。特に膝周りはデリケートなので、無理やり可動域を広げようと反動をつけるのはNGです。
プールで実践!効果的な矯正ドリル練習

陸上で感覚を掴んだら、実際に水の中で試してみましょう。いきなりコンビネーション(手と足)で泳ぐのではなく、足のみの練習(ドリル)を行うのが効果的です。
自分の足を目視できる「背面平泳ぎ」
仰向け(背浮きの状態)になり、手を体側に添えるかビート板をお腹の上で抱えて、平泳ぎのキックを行います。この練習の最大のメリットは、自分の膝と足の動きを直接目で見られることです。膝が水面から飛び出していないか、左右の足が同じタイミングで動いているか、蹴り出しで足の裏がしっかり水を捉えているかを確認しながら泳ぎましょう。もし膝が水面からボコッと出るようなら、股関節の引きつけが不十分か、膝を前に出しすぎている証拠です。
膝の開きを抑える「プルブイ挟みキック」
太ももの間にプルブイ(足に挟む浮き具)を挟んだまま、平泳ぎのキックを打ちます。煽り足の人の多くは、キックの瞬間に膝が開きすぎてしまっています。プルブイを落とさないようにキックすることで、膝の開きを強制的に制限し、膝から下(下腿)だけを回して蹴る感覚を養います。最初は非常に窮屈に感じるかもしれませんが、これが「膝を広げすぎない正しいウィップキック」に近い動きになります。
左右差をなくす「片足キック」
ビート板を持ってうつ伏せになり、片足だけで平泳ぎのキックを行います。もう片方の足は真っ直ぐ伸ばしておきます。右足だけ10回、左足だけ10回といったように分けて行うことで、どちらの足が苦手なのか、どちらの足が煽り足になっているのかが明確になります。苦手な方を重点的に練習し、足首の返しや水の捉え方を意識しましょう。片足ずつ丁寧に行うことで、ごまかしの効かない正確な動作が身につきます。
壁を使ってフォームを確認する「壁キック」
プールサイドの壁に手をついてうつ伏せになり、その場でキックの動作を行います。進む必要がないので、フォームだけに集中できます。ペアがいれば、プールサイドから足の動きを見てもらい、足の裏が水平になっているか、左右対称に動いているかをチェックしてもらいましょう。また、蹴り終わった後に両足がピタリと揃い、つま先まで伸びているかどうかも重要なチェックポイントです。
まとめ:平泳ぎの煽り足を克服して美しい泳ぎを目指そう
平泳ぎの煽り足(あおり足)は、足首の硬さや股関節の柔軟性、そして無意識の癖など、さまざまな要因が絡み合って起こります。放置すると失格の原因になるだけでなく、膝の怪我やタイムの停滞にもつながるため、早めの改善がおすすめです。
記事のポイント
・煽り足とは、左右非対称で足の甲を使ってしまうキックのこと。
・原因は、足首・股関節の柔軟性不足やバタ足の癖。
・陸上での「正座リフト」や「割り座」ストレッチで可動域を確保する。
・水中では「背面キック」や「プルブイ挟みキック」で正しい動きを体に覚えさせる。
煽り足の矯正は、長年の癖であればあるほど時間がかかるものです。しかし、地道なストレッチとドリル練習を繰り返すことで、必ず足の裏で水を捉える感覚「水感」が掴める日が来ます。焦らず一つひとつの動作を確認しながら、美しく進む平泳ぎのキックを手に入れてください。



