水泳において「もっと楽に、長く泳ぎたい」「タイムを縮めたい」と思ったとき、避けて通れないのが「ローリング」という技術です。多くの初心者の方は、手足の動きに集中しがちですが、実は体の回転動作であるローリングこそが、効率の良い泳ぎの土台となります。
しかし、見よう見まねで体をひねってみると、バランスを崩したり、かえって抵抗が増えてしまったりすることも少なくありません。正しいローリングとは、単に体を左右に揺らすことではなく、軸を保ったままスムーズに回旋することです。
この記事では、水泳ローリングの正しい意味やメリット、クロールや背泳ぎでの具体的な実践方法、そして自宅でもできる練習ドリルまでを詳しく解説します。基本をしっかりと理解して、水流に乗るような気持ちの良い泳ぎを手に入れましょう。
水泳ローリングの基礎知識と重要な役割

水泳のレッスンや解説動画などで頻繁に耳にする「ローリング」という言葉ですが、その本質的な意味を正しく理解している人は意外と少ないかもしれません。
単に「体を横に向けること」だと思っていると、泳ぎが不安定になる原因になります。まずは、ローリングがなぜ必要なのか、その仕組みと役割について深掘りしていきましょう。
ローリングとは具体的にどんな動き?
水泳におけるローリングとは、背骨(体軸)を中心として、肩や腰を左右にリズミカルに回転させる動作を指します。クロールや背泳ぎなどのロングアクシス(長軸)泳法において、非常に重要な技術です。
イメージとしては、焼き鳥の串のように体一本の軸が通り、その軸がぶれないようにしながら、体が左右に45度から90度近くまで開く動きになります。ただし、顔の向きまで一緒に回してしまうのは間違いです。
あくまで「首から下」が回転することがポイントです。この動きによって、水の中での体の幅が狭くなり、水から受ける抵抗を減らすことができます。
また、腕だけで水をかこうとするとすぐに疲れてしまいますが、この体の回転を利用することで、大きな力を生み出すことが可能になります。
なぜローリングが必要なのか?メリットを解説
ローリングを行う最大のメリットは、水の抵抗を最小限に抑えられることです。人間の体は横に平べったい形状をしているため、ベタッと水面に伏せた状態のまま進むと、肩幅の分だけ水を真正面から受けてしまいます。
しかし、体を傾けて肩を水面から出すことで、水に当たる断面積が小さくなり、まるで船の底のようにスッと水の中を切り裂いて進むことができるようになります。
もう一つの大きなメリットは、大きな筋肉を使えることです。腕の筋肉は体全体から見れば小さなものですが、ローリングを使うことで、背中の広背筋や腹筋などの体幹部分の力を指先に伝えることができます。
これにより、少ないエネルギーで大きな推進力を得ることができ、長距離を泳いでも疲れにくい泳ぎが実現します。
ローリングを使わない泳ぎとの違い
もしローリングを全く使わずに、体が平らな状態(フラットな状態)でクロールを泳ごうとするとどうなるでしょうか。
まず、腕を前に伸ばす距離が短くなります。肩が固定されたままだと、腕の長さ分しか前に届きませんが、肩を前に送り出すようにローリングすれば、さらに10センチ以上遠くの水を捉えることができます。
さらに、呼吸動作が非常に困難になります。体が平らな状態で息を吸おうとすると、首を大きくねじったり、頭を持ち上げたりしなければなりません。これでは下半身が沈み、大きなブレーキとなってしまいます。
ローリングを使えば、体が横を向いた流れの中で自然に口が水面に出るため、頭の位置を変えずにスムーズな呼吸が可能になります。この「呼吸のしやすさ」だけでも、習得する価値は十分にあります。
クロールで正しいローリングを身につけるコツ

クロールは水泳の中で最も速い泳法ですが、そのスピードの源泉は正しいローリングにあります。しかし、タイミングや角度を間違えると、逆効果になってしまうこともあります。
ここでは、クロールを泳ぐ際に意識すべきローリングのポイントを詳しく解説していきます。
肩と腰を連動させるタイミング
クロールのローリングで最も重要なのは、肩と腰がバラバラに動くのではなく、一本の丸太のように連動して動くことです。
初心者にありがちなミスとして、上半身(肩)だけ一生懸命回して、下半身(腰)が平らなままというケースがあります。これでは体がねじれてしまい、力がうまく水に伝わりません。
正しいタイミングは、手が入水して前に伸びる瞬間に、その側の肩と腰が一緒に沈み込むイメージです。右手が前に入水するときは、右肩と右腰がグッと水中に沈み、逆に左肩と左腰が水面上に上がってきます。
この「同側の肩と腰」をセットにして動かす意識を持つことで、体幹のねじれによるパワーロスを防ぎ、全身を使った力強いストロークが可能になります。
呼吸をスムーズにするための角度
クロールで息継ぎが苦手な人の多くは、ローリング不足か、あるいはローリングしすぎが原因です。適切なローリング角度があれば、呼吸は驚くほど楽になります。
呼吸をする際、無理に顔を水面から出そうとする必要はありません。ローリングによって体が横を向けば、水面が下がったような状態になり、顔の近くに空気のポケット(ボウ・ウェーブ)ができます。
角度の目安としては、真横(90度)まで向く必要はありません。そこまで向くとバランスを崩しやすくなります。45度から60度程度の傾きがあれば十分です。
大切なのは、頭のてっぺんが進行方向を向いたまま、軸をブラさずに体を傾けることです。これにより、あごを少し引くだけで口が水面に出て、スムーズに空気を吸い込むことができます。
手の入水位置と伸びの関係
ローリングは、手をどこに入水させるか、そしてどう伸ばすかという動作と密接に関係しています。正しいローリングができると、より遠くの水をキャッチできるようになります。
入水時は、頭の中心線の延長上ではなく、肩幅の延長線上に手を入れるのが基本です。そこから体を傾けていく(ローリングする)ことで、腕が自然と前に伸びていきます。
このとき、「手だけで伸ばそう」とするのではなく、「肩をあごの下に入れる」ような感覚でローリングを行ってください。すると、肩甲骨周りがグッと前にスライドし、リーチが長くなります。
この「伸び」の時間を作ることで、反対側の腕で水をかくためのタメができ、リズムの良い泳ぎにつながります。焦って次の動作に移らず、ローリングに乗ってグーンと進む感覚を大切にしましょう。
キックへの影響とバランスの取り方
ローリングを行うと、足の位置もそれに合わせて変化します。体が傾いているのに、キックだけ真下に打とうとすると、足が交差したりバランスを崩したりしてしまいます。
基本的には、ローリングに合わせてキックも斜め方向に打つことになります。これを意識しすぎると難しいかもしれませんが、腰の回転に合わせて自然に足がついてくる感覚が理想です。
特に重要なのは、ローリングしたときにバランスを保つための「サイドキック」の役割です。体が傾いたときに、下側の足でしっかりと水を捉えることで、体が沈むのを防ぎます。
また、ローリングの切り返し(右傾きから左傾きへ変わる瞬間)に合わせて強いキックを打つことで、その反動を利用して体を素早く回転させることができます。これができるようになると、泳ぎにキレが生まれます。
背泳ぎにおけるローリングの重要ポイント

背泳ぎもクロールと同様に、ローリングを使わなければスムーズに泳げない種目です。仰向けの状態だからこそ、ローリングの良し悪しが肩への負担や進み具合に直結します。
背泳ぎ特有のローリングのコツについて、具体的なポイントを見ていきましょう。
水面に対する肩の出し方
背泳ぎでは、常に片方の肩が水面から出ている状態を作るのが理想です。両肩が水についたまま泳ぐと、抵抗が大きくなるだけでなく、腕を回す際に肩関節に無理な力がかかってしまいます。
リカバリー(腕を空中で戻す動作)をする側の肩は、しっかりと水面上に出しましょう。目安としては、あごに肩を近づけるようなイメージでローリングを行います。
逆に、水中で水をかいている側の肩は、深く沈み込みます。この「片方が上がり、片方が沈む」というシーソーのような動きを繰り返すことが、背泳ぎのローリングの基本です。
肩をしっかりと出すことで、腕を真上に上げやすくなり、水面を叩くことなくスムーズな入水が可能になります。
リカバリー動作を楽にする仕組み
背泳ぎで「腕が重い」「後半になると腕が上がらない」と感じる場合、ローリング不足が疑われます。ローリングを使わずに腕だけで回そうとすると、重力に逆らって腕を持ち上げなければなりません。
しかし、体をローリングさせて肩を高く持ち上げれば、腕の付け根が高い位置にくるため、腕を振る動作が非常に楽になります。体の回転力を利用して腕を放り投げるような感覚です。
この動作ができれば、腕の筋力に頼らずにリカバリーができるため、長距離を泳いでも肩が疲れにくくなります。背泳ぎを楽に泳ぐための最大の秘訣は、この「肩のローリングによる腕の運び」にあると言っても過言ではありません。
蛇行を防ぐための軸の意識
背泳ぎでローリングを意識しすぎると、コースロープにぶつかったり、蛇行してしまったりすることがあります。これは、回転するときに体の軸が左右にブレている証拠です。
クロールと違い、背泳ぎは目線が天井に向いているため、自分の進む方向が確認しづらい種目です。だからこそ、体の中の「軸」を強く意識する必要があります。
頭の位置を動かさないことがポイントです。「おでこの上に水の入ったコップを乗せている」と想像してみてください。そのコップをこぼさないように、頭を固定したまま、肩だけを左右に入れ替えます。
頭が左右に振れると、それに連動して腰や足も振れてしまい、結果として蛇行につながります。視線を一点に定め、首から下だけをローリングさせる練習を重ねましょう。
初心者が陥りやすいローリングの失敗例

ローリングは必須の技術ですが、間違ったやり方で覚えてしまうと、かえって泳ぎを難しくしてしまいます。ここでは、初心者がやりがちな「悪いローリング」の例を紹介します。
自分の泳ぎに当てはまるものがないか、チェックしながら読み進めてください。
体が回転しすぎる「オーバーローリング」
「体を横に向けなきゃ!」という意識が強すぎて、90度を超えて回転してしまうのがオーバーローリングです。ここまで回ってしまうと、バランスを保つのが非常に難しくなります。
特にクロールでは、体が裏返るほど回ってしまうと、次の動作に移るのによっこらしょと大きな力が必要になります。これではテンポが上がらず、失速の原因になります。
また、オーバーローリングになると、かいた手が体の中心線を越えて反対側まで行ってしまう「クロスオーバー」を引き起こしやすくなります。
適切な角度は45度前後です。「おへそは常に斜め下を向いている」くらいの感覚で十分だということを覚えておきましょう。
腰が沈んでしまう原因と対策
ローリングをした瞬間に、腰がガクッと沈んでしまう人がいます。これは、体幹の力が抜けているか、あるいは「腰を回す」のではなく「腰を横にスライドさせている」ことが原因です。
腰が沈むと、下半身全体が沈み、強烈なブレーキがかかります。これを防ぐためには、お腹周りに常に適度な力を入れておく必要があります。
対策としては、ドローイン(お腹をへこませる動作)を意識しながら泳ぐことが有効です。おへそを背骨に近づけるようなイメージを持つと、体幹が安定し、ローリングしても腰が高い位置をキープできます。
また、キックを止めないことも重要です。ローリングの瞬間に足が止まると沈みやすくなるので、小刻みなキックで下半身を浮かせ続けましょう。
頭まで一緒に動いてしまうミス
最も多い失敗の一つが、体と一緒に頭も回してしまうことです。ローリングに合わせて頭が左右に振れると、視界が定まらず、三半規管が刺激されて目が回ることもあります。
頭は船の「舵(かじ)」のような役割を果たしています。舵がグラグラ動いていては、船は真っ直ぐ進みません。
クロールでも背泳ぎでも、頭は背骨の延長線上で固定し、首を軸にして肩が回る分離動作が必要です。鏡の前で、顔を正面に向けたまま肩だけを動かす練習をしてみると、この感覚がつかみやすくなります。
自宅やプールでできる効果的な練習ドリル

頭では理解していても、水中で実際に体を動かすのは難しいものです。そこで、正しいローリングを体に覚え込ませるための具体的な練習メニュー(ドリル)を紹介します。
プールでの練習はもちろん、家でできる動きのチェックも取り入れて、効率よく上達しましょう。
サイドキックで軸の感覚を養う
ローリング練習の王道とも言えるのが「サイドキック」です。これは、体を横に向けた状態でキックを打ち続け、安定した姿勢を作る練習です。
【サイドキックの手順】
1. 片腕を前に伸ばし、もう片方の腕は体側に添えます(気をつけの姿勢)。
2. 体を真横(90度近く)に向け、顔は横向きか、あるいは下を向けます。
3. その状態でキックを打ち、体が沈まないようにバランスを取ります。
4. 25メートル泳いだら、反対向きで行います。
この練習のポイントは、頭の位置を安定させることです。伸ばした腕に耳を乗せるような感覚で行うと良いでしょう。体がグラグラせずに進めるようになれば、ローリングの安定感が増します。
片手スイム(ワンアーム)で動きを確認
実際のストロークの中でローリングを確認するには、片手クロール(ワンアーム)が最適です。片方の手は前に伸ばしたまま(あるいは体側に置いたまま)、もう片方の手だけで泳ぎます。
意識すべきは、手をかいていない側の肩の動きです。例えば右手を回すとき、左肩を意識的に沈めることで、右肩がスムーズに上がってくる感覚をつかみます。
呼吸のタイミングも練習しやすいので、吸気時に体が開きすぎていないか、スムーズに口が出るかを確認しながらゆっくり泳ぎましょう。
慣れてきたら「右、右、左、左」と交互に行うことで、左右のバランス差を修正することができます。
陸上でできる鏡を使ったフォームチェック
プールに行けない日でも、自宅の鏡の前でローリングのチェックは可能です。姿見の前に立ち、クロールの腕の動きをしてみましょう。
まず、直立した状態で片手を上に挙げ、ストロークの動作をします。このとき、肩がしっかりと前後に動いているかを確認します。
特にチェックしたいのは「顔の向き」です。肩を大きく動かしても、顔が正面を向き続けているかを見てください。もし顔がつられて動いているなら、首の力を抜いて、頭と肩を切り離す意識を持ちましょう。
また、腰に手を当てて、骨盤が左右に回転しているかを確認するのも有効です。陸上でできない動きは水中でもできませんので、まずは陸上で完璧なフォームを作ることが近道です。
プルブイを使った足を使わない練習法
足の動きに気を取られず、上半身のローリングだけに集中したい場合は、プルブイ(足に挟む浮き具)を使った練習が効果的です。
プルブイを太ももの間に挟むことで下半身が浮き、キックを打たなくても水平姿勢が保てます。この状態でクロールを泳ぐと、キックによるバランス補正ができなくなるため、純粋にローリングとストロークのバランスだけで泳ぐことになります。
もしローリングが不安定だと、体が左右に揺れてまっすぐ進みません。プルブイをつけても体がブレずにスイスイ進めるようになれば、体幹を使った正しいローリングができている証拠です。
また、この練習は腕への負荷が高まるため、ローリングを使って背中の筋肉で水をかく感覚を養うのにも適しています。手の力だけでなく、腰の回転で腕を運ぶ感覚を磨きましょう。
水泳ローリングと体幹トレーニングの関係

きれいなローリングをするためには、単にフォームを直すだけでは不十分な場合があります。その土台となるのが「体幹(コア)」の強さです。
最後に、ローリングと筋肉の関係について解説します。ここを強化することで、泳ぎの安定感が劇的に変わります。
体幹が弱いとローリングは安定しない
水の中は陸上と違って足場がありません。その不安定な状態で体を回転させるには、体の中心部である体幹がしっかりとしている必要があります。
体幹が弱いと、ローリングをしたときに体が「くの字」に折れてしまったり、回転の勢いでバランスを崩してしまったりします。いわゆる「こんにゃく」のようなフニャフニャした泳ぎになってしまうのです。
逆に体幹が強ければ、軸がビシッと定まり、手足の動きに振り回されることがなくなります。ローリングを技術として習得すると同時に、その動きを支えるフィジカルも育てていくことが重要です。
腹斜筋を意識した動作のポイント
ローリング動作で特に重要な役割を果たすのが、脇腹にある「腹斜筋(ふくしゃきん)」です。この筋肉は、体をひねる動作や、ひねった状態をキープするときに使われます。
泳いでいる最中に、ただ脱力して回るのではなく、脇腹をキュッと締めるような意識を持つと、ローリングにキレが生まれます。
陸上トレーニングとしては、「ロシアンツイスト」や「サイドプランク」などが効果的です。これらのトレーニングを行うことで、水中でも自分の意思でコントロールできる強い回転力を手に入れることができます。
推進力を生むための力の伝え方
メモ:ローリングはただ回るだけではなく、その回転エネルギーを推進力に変える「変換装置」です。
野球のピッチャーが体をひねってボールを投げるのと同じように、水泳でもローリングでためたパワーを一気に腕に伝えて水をかきます。
このとき、体幹から肩、肘、手先へと力が波及していくイメージを持ちましょう。体幹がしっかりしていれば、ローリングのパワーがロスすることなく水に伝わり、驚くほど軽く進むようになります。
力任せに水をかくのではなく、体幹の回転を使って水を「運ぶ」。この感覚がつかめれば、水泳がもっと楽しく、楽なものになるはずです。
水泳ローリングをマスターして楽に速く泳ごう
水泳ローリングについて、その仕組みから実践的な練習法まで解説してきました。ローリングは上級者だけのものではなく、初心者が楽に泳げるようになるための必須テクニックです。
今回のポイントを振り返ってみましょう。
【記事の要点まとめ】
・ローリングは抵抗を減らし、大きな力を生むための動作
・肩と腰を連動させ、頭の軸を動かさないことが基本
・クロールでは呼吸や伸びを助け、背泳ぎではリカバリーを楽にする
・「オーバーローリング」や「腰の沈み」に注意する
・サイドキックや片手スイムで感覚を磨く
最初はバランスを取るのが難しく感じるかもしれませんが、練習を重ねるうちに「水に乗る」感覚がわかってくるはずです。無理に体をひねろうとせず、リラックスして軸を感じることから始めてみてください。
正しいローリングを身につけて、無駄な力を抜き、どこまでも泳いでいけるようなスムーズな泳ぎを目指しましょう!



