競泳の大会に初めて出場しようと考えている方や、部活動で本格的に泳ぎ始めた方にとって、水着選びは非常に大切なステップです。しかし、スポーツショップに行くと「FINA承認」という言葉を目にすることが多く、どのような基準で選べば良いのか迷ってしまうことも少なくありません。
競泳には公平な競技性を保つための厳格なルールが存在し、着用する水着もその対象となっています。ルールに適合していない水着を着用してレースに出場すると、せっかくの好タイムが無効になったり、失格となってしまったりする恐れがあります。
この記事では、競泳水着のルールやFINA承認マークの意味、さらにはジュニア選手特有の注意点までを、初心者の方にも分かりやすくお伝えします。正しい知識を身につけて、自信を持ってスタート台に立てる準備を整えていきましょう。
競泳水着のルールとFINA承認マークが持つ役割

競泳の公式大会に出場する際には、水着が競技の公平性を損なわないものであることを証明しなければなりません。そのための基準となるのが「FINA承認」という仕組みです。まずは、なぜ水着にこれほど細かなルールが設けられているのか、その背景から学んでいきましょう。
公式大会に出場するために必須となる承認マーク
日本水泳連盟が主催、あるいは公認する多くの大会では、着用する水着に「FINA承認(またはWorld Aquatics承認)」のマークがついていることが義務付けられています。このマークは、その水着が国際的な競技ルールに適合していることを証明する大切な証です。
かつて、水着の素材によって浮力が過剰に得られたり、水の抵抗が極端に減ったりすることで、記録が飛躍的に伸びすぎてしまった時代がありました。現在はそのような「水着の性能による不公平」をなくすため、素材や形状に厳しい制限が設けられています。
承認マークがない水着は、基本的には公式記録として認められる大会での使用ができません。趣味で泳ぐ分には自由ですが、選手としてタイムを競う場に立つのであれば、まずこのマークの有無を確認することが第一歩となります。
名称変更!FINAからWorld Aquaticsへ
現在、水着の裏側やお尻の部分にプリントされているマークを見ると、これまでの「FINA」という文字だけでなく、「World Aquatics(ワールドアクアティクス)」というロゴに切り替わりつつあります。これは国際水泳連盟が名称を変更したためです。
2023年以降、段階的に新しいロゴへの移行が進んでいますが、これまでの「FINA」マークがついた水着も引き続き使用可能です。買い替えのタイミングで新しいロゴに変わっていても、役割やルール自体に変更はないので安心してください。
混乱を避けるため、店頭や通販サイトでは依然として「FINA承認」と表記されていることが多いですが、中身は同じものを指しています。どちらの表記であっても、公認された水着であることに変わりはありません。
不正を防ぎ公平なレースを守るための世界基準
水着のルールがこれほどまでに厳しい理由は、選手の努力や実力が正しく評価される環境を作るためです。もし特別な素材の水着を着た人だけが速くなるのであれば、それはスポーツの本質から外れてしまいます。
承認基準には、素材の厚さや浮力、透水性(水が通るかどうか)などが細かく定められています。例えば、全身をゴムのような素材で覆って浮きやすくすることは禁止されており、布状の素材(テキスタイル)であることが求められます。
また、締め付けの強さによって筋肉の振動を抑える効果なども、過度になりすぎないようチェックされています。世界中の選手が同じ土俵で戦えるよう、水着が「道具」としての役割を越えないように管理されているのです。
FINA承認(World Aquatics承認)水着の見分け方と特徴

実際に水着を選ぶ際、どれがルールに適合しているものなのかを見分ける方法はとても簡単です。見た目のデザインだけでなく、水着自体に施されている特別な印を確認しましょう。ここでは、具体的なチェックポイントを解説します。
水着の背中やお尻にあるQRコード状のロゴ
承認されている水着には、必ず見えやすい位置に四角いマークがプリントされています。以前は白枠の中に「FINA」と書かれたロゴでしたが、現在はQRコードのようなドット模様が組み込まれた新しいデザインに移行しています。
このマークは、剥がれたり削れたりしないように水着の生地に直接熱圧着されているのが一般的です。レースの招集所では、審判員がこのマークの有無を確認することがあるため、非常に重要なポイントとなります。
中古の水着や長く使い込んだ水着の場合、このマークが薄くなって読めなくなっていることがあります。判別不能な場合は、たとえ元々が承認品であっても大会で使用できない可能性があるため、マークの状態は常にチェックしておきましょう。
承認マークが付いていない水着との決定的な違い
スポーツ用品店には、承認マークがある「競泳用」と、マークがない「練習用(タフスーツなど)」の2種類が並んでいます。大きな違いは、生地の耐久性と水の抵抗を抑える性能のバランスにあります。
練習用水着は、塩素による劣化を防ぐために生地が厚めに作られており、マークはありません。対して承認水着は、1秒でも速く泳ぐために生地を薄くし、表面に撥水加工を施すことで水の抵抗を最小限に抑えています。
また、承認水着は体に強くフィットするように設計されており、着用した際に筋肉の揺れを防ぐ効果があります。練習用よりもデリケートで寿命が短い傾向にありますが、その分レース本番で最高のパフォーマンスを発揮できるよう作られています。
水着の素材や形状に関する厳しいチェック項目
承認を受けるためには、メーカーは開発段階で国際連盟にサンプルを提出し、厳しい検査をクリアしなければなりません。主な項目としては、素材の厚さが0.8ミリ以下であることや、浮力が0.5ニュートン以下であることなどが挙げられます。
さらに、素材を繋ぎ合わせる方法についてもルールがあります。水の抵抗を減らすために糸を使わない「超音波溶着」などの技術が使われることもありますが、これらもすべて承認された範囲内で行われています。
私たちが普段意識することのない細かな数値ですが、こうした厳しい基準をクリアしたものだけが、公式レースでの使用を許されます。私たちが手にする承認水着は、いわば最先端の技術とルールが融合した逸品と言えるでしょう。
承認マークのチェックリスト
・お尻付近に四角いロゴ(QRコード状)があるか
・ロゴが剥がれかけていたり、判別不能になっていないか
・購入時のタグに「FINA承認」または「World Aquatics承認」と記載されているか
大会で失格にならないための形状と着用ルール

承認マークがついている水着を選べばすべて解決、というわけではありません。実は水着の「形」や「着方」にもルールがあり、それを破ると失格の対象になります。男女別に定められた形状の制限について詳しく見ていきましょう。
男子水着の形状ルールとウエスト位置
男子の場合、水着の形状は「ウエストから膝(ひざ)まで」と決められています。つまり、おへそより上の部分を覆うような形状や、膝より下のふくらはぎまであるような水着は認められません。
一般的に「ジャマー」と呼ばれる膝丈のスパッツ型が主流ですが、短い「ショートスパッツ(Vパンツ)」型も認められています。重要なのは、上半身を覆わないことと、膝関節を隠さないことの2点です。
また、着用時にウエストの位置を極端に下げたり、逆に引き上げすぎたりして形状を変えることも好ましくありません。自分の体にフィットしたサイズを選び、正しい位置で着用することが基本となります。
女子水着の形状ルールと露出の制限
女子の形状ルールは「首を覆わず、肩のラインを超えず、膝まで」と定められています。背中が大きく開いているデザインが多いのは、肩の動きを邪魔しないためだけでなく、このルールに適合させるためでもあります。
以前は全身を覆うフルスーツタイプもありましたが、現在は禁止されています。脚の部分は膝まで(ハーフスパッツ型)か、足の付け根までのカット(ハイレグ型)のどちらかが一般的です。
ファスナー(ジッパー)がついている水着も、現在のルールでは認められていません。着脱を楽にするための工夫であっても、競技用としてはルール違反になるため、購入時には背中などのデザインをよく確認してください。
重ね着の禁止とインナーショーツの取り扱い
競泳のルールでは「水着は1枚のみ着用」とされています。そのため、2枚以上の水着を重ねて着ることはできません。これは、重ね着によって浮力が増したり、体がより強く締め付けられたりすることを防ぐためです。
気になるのがインナーショーツの扱いですが、原則として競技用水着の下に別の水着やサポーターを重ねることは認められない場合が多いです。特に大きな大会では、インナーの着用が「2枚目の水着」とみなされるリスクがあります。
最近の競泳水着は透けにくい工夫がされていますが、どうしても不安な場合は、水着の裏地にパットを縫い付けるか、差し込み式のパットを使用する方法を検討しましょう。ただし、パット自体も過度な厚みがあるものは避けなければなりません。
ルール上、テーピングを貼ったままの出場も原則禁止されています。怪我などでどうしても必要な場合は、事前に大会の審判長に相談し、許可を得る必要があります。
ジュニア選手(中学生以下)向けの特別な制限ルール

小中学生のジュニア選手が大会に出場する場合、一般の選手とは異なる独自のルールが適用されることがあります。これは「ジュニア規定」と呼ばれるもので、成長期の選手の健康を守り、過度な用具依存を防ぐために設けられています。
日本水泳連盟が定めるジュニア向けの厚手素材ルール
日本国内のジュニア大会(主に12歳以下や小学生の区分)では、着用できる水着の素材に制限がかかることがあります。具体的には、あまりにも高性能で薄い、いわゆる「トップモデル」の水着の使用が制限されるケースです。
これは、高価な水着を買えるかどうかがタイムに直結するのを防ぐため、また着圧が強すぎる水着が子供の体に負担をかけるのを避けるためです。承認マークがある水着の中でも、ジュニア向けとして推奨されているモデルを選ぶのが安心です。
大会の要項に「ジュニア規定を適用する」といった記載がある場合は、事前にコーチや保護者が内容を確認しておく必要があります。特に全国大会レベルになると、チェックが厳しくなることもあります。
レース用ハイパフォーマンス水着の使用制限
数万円もするようなトップレベルの選手向け水着は、生地が非常に硬く、一人で着るのが困難なほど締め付けが強いものです。こうした水着は、まだ筋肉や骨格が発達途中のジュニア選手には向かないとされています。
多くのメーカーでは、ジュニア選手向けに「適度な着圧」と「動きやすさ」を両立させた承認モデルを販売しています。これらはトップモデルよりも安価でありながら、しっかりとした性能を持っています。
初めての大会であれば、まずは着脱がスムーズにでき、自分の力で泳ぎをコントロールできるタイプを選びましょう。水着の性能に頼りすぎるよりも、正しいフォームで泳ぐ技術を磨くことの方が、ジュニア期には大切です。
初心者がまず揃えるべき水着の選び方
これから本格的に競技を始めるジュニア選手は、まず「承認マークがあること」と「自分の体型に合っていること」を最優先に選びましょう。大きすぎる水着は水が入って抵抗になり、小さすぎると体が動きにくくなります。
また、練習でも同じような形状の水着に慣れておくことが重要です。レース直前に初めて競泳用の水着を着ると、その独特のフィット感に驚いて、思うように泳げなくなってしまうことがあるからです。
最初は「ニット素材」と呼ばれる、少し柔らかくて伸縮性のある承認水着がおすすめです。着心地が良く、競泳水着の扱いに慣れるための最初の一歩として最適です。
| 対象 | おすすめのタイプ | 特徴 |
|---|---|---|
| 低学年・初心者 | ニット素材の承認モデル | 伸縮性が高く、着脱しやすい |
| 高学年・中学生 | 布帛(ふはく)×ニット複合 | 適度な締め付けと動きやすさの両立 |
| 上級者・中学生〜 | 布帛(ふはく)100%モデル | 強い着圧で高いパフォーマンスを発揮 |
最高のパフォーマンスを引き出す競泳水着の選び方

ルールを把握したところで、自分に合った最高の一着をどう選ぶかが次のステップです。競泳水着は普通の水着とは選び方が大きく異なります。納得のいく買い物をするためのポイントを整理しました。
自分のレベルと専門種目に合わせた着圧の強さ
競泳水着には、大きく分けて「ニット素材」と「布帛(ふはく)素材」の2種類があります。ニット素材は柔らかくて動きやすく、中長距離の選手や初心者に向いています。一方、布帛素材は伸びが少なく締め付けが強いため、短距離の爆発的なパワーを支えるのに適しています。
自分がどの種目を得意としているのか、どの程度の締め付けを求めているのかを考えましょう。最近では、太もも部分はしっかり締め、お腹周りは動きやすくするなど、部位ごとに素材を使い分けている高機能モデルも増えています。
最初から最高級のモデルを選べば良いというわけではありません。自分の筋力でしっかり動かせる範囲の硬さ(着圧)を選ぶことが、結果として良いタイムに繋がります。
試着が重要!サイズ選びで失敗しないためのコツ
競泳水着は「少しきついかな」と感じるくらいが適正サイズです。乾いている状態でピッタリすぎると、水に入ったときに生地が伸びて隙間ができ、そこから水が入って抵抗になってしまうからです。
可能であれば、スポーツショップで試着をすることをお勧めします。競泳水着は非常にタイトなので、着るのに時間がかかることもありますが、肩の食い込み具合や脚の付け根のフィット感を確認することは非常に重要です。
メーカーによってサイズ感は微妙に異なります。S・M・Lという表記だけでなく、メーカーが公開しているサイズチャート(身長・ウエスト・ヒップの数値)を必ず確認し、自分の実寸と照らし合わせるようにしましょう。
長持ちさせるための正しいお手入れと保管方法
FINA承認の競泳水着は非常にデリケートです。表面には特殊な撥水加工が施されており、これが剥がれてしまうと水の抵抗が増えてしまいます。また、プールの塩素は生地を傷める最大の原因となります。
泳いだ後は、すぐに真水で丁寧にすすぎ、塩素を洗い流してください。このとき、洗濯機で回したり、強く絞ったりするのは厳禁です。タオルの間に挟んで水分を吸い取る「タオルドライ」を行い、形を整えて陰干しするのが基本です。
また、濡れたまま長時間放置したり、高温になる車内に置いたりすると、生地の弾力性が失われてしまいます。正しいケアを心がけることで、大切なレース用水着の寿命を延ばし、常に最高の状態で試合に臨むことができます。
競泳水着のルールとFINA承認に関するまとめ
競泳の大会において、水着選びは単なるファッションではなく、競技の一部と言っても過言ではありません。今回ご紹介したように、「FINA承認(World Aquatics承認)」マークがついていることが公式大会出場の最低条件となります。このマークは、誰もが公平な条件で競い合うための大切な基準です。
また、マークさえあれば良いわけではなく、男子はウエストから膝まで、女子は肩から膝までといった形状のルール、そして「1枚のみ着用」という着用のルールを正しく守ることが求められます。特にジュニア選手の場合は、成長に合わせた適切な素材選びが、怪我の予防や技術向上において非常に重要な意味を持ちます。
自分にぴったりのサイズを選び、正しくお手入れをすることで、水着はあなたの最高のパートナーになってくれるはずです。ルールを正しく理解し、安心してレースに集中できる準備を整えたら、あとは日頃の練習の成果を存分に発揮して、ベストタイムを目指して泳ぎ切りましょう!


